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30.戦況①

短めです。

 ラウザント、ランギュムント、キルナーマフマスが魔王軍幹部の六欲天に次ぐ十二夜叉大将が一人迷企羅のアミュタユスと遭遇する少し前に遡る。

 他十一名の勇士たちも各々役割を全うしていた。






 後方で物資の支援や戦闘支援を行っているのはミライエとウィンケルとミーシアとレクシャアの四人。そして彼らを護衛する役割としてアイリスが配置されている。


「とりあえずはここらで一段落ってところかね」


 ミライエは結界師のスキルによって最終防衛ラインを維持している。また、それ以外にも戦いに出ている面々に致命傷を受けるほどの攻撃があった際に自動で起動する小型結界の付与も行っていた。


「マーズは大丈夫かなあ。こうやって心配してるとまた怒られそうだけど、心配なものは心配……」


 ウィンケルは飛空士のスキルにより、空をかなり自在に飛翔できる。その能力でもって分散している戦線のメンバーに物資の補給や伝令を行っている。


「毎年毎年こればかりは頭が痛いですね」


 ミーシアもウィンケル同様の役割を担っている。


「戦況は悪くないが、妙な胸騒ぎがするね。まさか本当に迷企羅のアミュタユスが近くにいるなんてことじゃあないだろうけど」


 レクシャアは戦闘に参加することもできるが、他の人たちにバフをかけることにリソースを割いている。無論、もしこの補給基地まで魔獣の大群がなだれ込んでくることがあれば、レクシャアも戦える。


「いるとして、どうしてルートレイに来たのでしょう?だってルートレイはどこかへの通り道ってわけでもないし」


 アイリスも補助系の魔術も扱えるため、出番がなければ彼女もレクシャアと同じようにそれぞれの持ち場で戦っている人たちを支援している。


「そろそろキュリアスから応援が来てもおかしくない頃合だけど。いつもより数が多いけどいつも通りラウザントくんとパラセリくんがほとんど抑えてくれてるおかげでルートレイへの被害はほとんどない」

「討ち漏らしもその後ろでちゃんと仕留められていますしね」


 パレードの最前列はラウザントを筆頭にランギュムントとキルナーマフマスがいるラウザント部隊と、龍の嘴亭のマスターのパラセリ単独のパラセリ部隊の二手に分かれている。

 最前列の後ろも二手に分かれている。

 ミュクスとマーズとユオリの部隊と、ズーエルとライトの部隊だ。

 そして最後列にアイリスたちが配置されている。


 基本的に最前列の負担が飛び抜けて大きいが、ラウザントとパラセリについては時間や数はあまり問題にならない。普段通りの陣形だった。


「皆さん、頑張ってください……!」


 距離が開けば開くほど支援の効果は減衰する。しかし、それでも効果はゼロではない。

 前線で日夜戦い続けているルートレイの英雄たちに、激励を乗せて補助魔術を放った。



   $



 龍の嘴亭を取り仕切るパラセリに姓はない。彼は孤児であった。

 赤子であったパラセリはルートレイの片隅にそっと捨てられていた。赤子の入れられていた籠には パラセリという文字が挟まれていたことから、パラセリの名を与えられた。


 当時はまだ肉体の精強だった町長に拾われ、ルートレイの人々に育てられた。


 彼のスキル〈無限〉は前例のないスキルだ。その希少性等からルートレイを出て王に仕えないかという打診がきたこともあったが、そういった誘いをパラセリはすべて断っていた。


 パラセリのスキルはあらゆるもの、事象に無限という概念を付与する途方もない能力だ。あまりにも強力すぎるために、彼は極力このスキルを使わないようにしている。生活の中で唯一使うのは食料が腐らないようにするくらいだろうか。


 それと、パレードの時だ。


 パラセリは一人、森の中に座り込んでいた。

 持ち場周辺の空間に無限を付与し、魔獣の群れが足止めを食らっている。どれだけ魔獣が歩みを進めても、そこからルートレイに近づくことはできない。


 無限の距離を歩かされているからだ。


 ただし欠点は、パラセリのスキルには有効範囲があり、そこだけ無限ではない。そのため二手に分かれている。ラウザントの持ち分が終われば、パラセリの方に加勢する手筈だ。

 稀に無限を付与した範囲外からルートレイに向かってくる魔獣もおり、それは後ろにいるズーエルとライトが処理をしている。といってもこちらは三日間で十体そこらだ。


「あっしのスキルは攻撃はできないからねえ」


 パラセリは呑気に空を仰ぎながらエールを口に含む。


「いつも皆に肝心なところは任せないといけないのは心苦しいが、まあ大丈夫ではあろうな」


 響き続ける獣の足音を肴に、酒を呷り続けていた。


「悪いがここは通せんよ、魔性のケダモノども。せいぜい踊り続けていてくれ」

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