27.西の都市
ルートレイから西に向かって五日ほど歩くと見えてくるのはマクリリム王国で最も過酷な環境にある都市と言われるキュアリス。
広い土地の外周のほとんどを囲う壁と、壁に対応して掘られる濠。
都市のすぐ外は魔境であり、人のアジを覚えた魔獣が目をギラつかせている。
そしてしばしば現れる突然変異した強力な魔獣が壁を破壊し、都市内部に侵入してくる。
しかし、キュアリスが甚大な被害を受けたことは過去一度しかない。
魔獣が多く現れるキュアリスでは冒険者組合の力が強大で、冒険者のレベルも高い。
冒険者は基本なんでも屋だが、キュアリスの冒険者は魔獣討伐に特化している。
B級冒険者が複数人キュアリスにおり、普段は活動していないがA級冒険者も一人いる。
そんなキュアリスでは農業はあまり盛んではない。
魔獣を素材とするマジックアイテムが主要産業になっている。たとえば魔石も、魔獣から作り出された代物だ。マクリリム王国にある魔石の九割方がキュアリス産である。
そんなキュアリスの冒険者組合本部では五人のパーティーが欣喜雀躍していた。
「よーし、これで俺たち全員C級だな!」
「ああ、順風満帆といえる」
「あの、ほんとにお待たせしましたあ」
「テアは援護メインだからランクが上がりにくいのは当然だ。気にすんなって!それより今日はお祝いだ!」
「こら、騒ぎすぎだっての」
本日最後のパーティーメンバーが晴れてC級になり、五人の冒険者パーティー、閃光の地平線はC級パーティーに認定された。
パーティーランクを上げるのはかなり難しく、一部例外を除いてパーティーメンバー全員がそのランクに達しない限り、どれだけ上位ランクの冒険者がいてもパーティーランクは変動しない。
しかも閃光の地平線は平均年齢十八歳と若年だ。パーティーを組んだのは冒険者になってすぐ。
多くの功績を上げ、わずか二年でC級まで登り詰めたのはキュアリスでも最速。近年では最も早い昇格といえる。
特にリーダーのメラスは恵まれたスキルと才覚によってひと月と経たずにC級に駆け上がった才女だ。
リーダーでありながらまったくの無口のロングヘアの暗い少女。
大賢者アーガインによって魔術が浸透するまでは扱いが同格だった呪術の使い手である。
術の発動に魔術以上に入念な準備を要するが、特に特定対象者に施された呪いは術者ですら解除できないほど強力で凶悪。
閃光の地平線というパーティー名だが、その戦い方はリーダーの呪術を切り札とした、全体的に見れば精彩を欠くものに映るかもしれない。
「......お祝い、する?」
ボソボソと喋ったリーダーの言葉を二人いるタンクの片方、リュースが聞き漏らさない。
「もちろん!」
辺境にあるルートレイだが、キュアリスの冒険者の間では広く知られている。
年に一度襲来するスタンピードに際し、冒険者組合が緊急依頼を発行するためだ。
この依頼に人数制限はなく、しかし条件がかなり厳しい。
C級パーティー以上かつその構成員が四人以上であること。
報酬はさほど高くないのだが、魔獣の数が数なので素材が大量に手に入る。
しかも二十体以上の魔獣を駆除したパーティーは組合から一年間いくらか優遇されることもあり、暇なC級以上のパーティーはそこそこ依頼を受ける。
キュアリスの住民は冒険者のおかげで東の魔獣を都市内部への侵入を拒んでいると思っているが、この緊急依頼を受けた冒険者は皆知っている。
ルートレイには辺境にいるのが損失に思われるほどの猛者がいることを。
そして、今回のスタンピードは予想される限りでは桁が違い、キュアリスまでも更地に変えられてしまう可能性があり、冒険者組合は緊急中の緊急としてC級以上のパーティーすべてに声をかけている。
キュアリス最強のB級パーティー、明けの明星も招集に応じ、半数以上が追随して受諾した。
C級以上の全パーティー、それは今し方C級になった彼らも例外ではなく。
「組合としては晴れてC級になったので、是非とも緊急依頼を受けていただきたく思ってまして」
閃光の地平線は早速、受付嬢から緊急依頼の説明をされていた。
少し前まで浮かれに浮かれていた彼らだが、依頼の話が始まると途端に真剣な顔になった。
「もちろん受けますよ!」
「リーダーはお前じゃないと何度言えばわかるんだ、リュース」
「......やる」
メラスがこくりと肯う。
今回のルートレイでのスタンピードに救援に向かうことになったのは、C級パーティー五組とB級パーティー一組、それに加えてマクリリム王国軍の遊撃隊が派遣されることとなった。




