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25.十四人の英雄




 ルートレイに残ることとなった実力者は十四人。


 たったの十四人といえど、全員がC級冒険者以上の力を有している。


 といってもさすがに分が悪すぎる。敵は千体もの魔獣なのだ。十四人では無理がある。


 もしもいずれもの魔獣がクラッター・ボアやエリモ・フォクス程度であれば恐らく駆除し切れるだろうが、ミーシアが受け取った伝令によると意図的に何ものかにより集められているそうだ。


 例年の魔獣行進の発生原因は東の山を越えた先にある嘆きの谷に住まうドラゴンが年に一度目覚め、魔獣たちが逃げ惑うためである。


 逃げる魔獣たちはその最中に見かけた同種の魔獣ではない獣と交尾し、その数をますます増やしてやって来る。


 しかし今回の魔獣行進はそれだけではないと伝令の文書は示唆していた。


 魔王軍幹部の六欲天の一つ下、副幹部の十二夜叉大将が指揮している蓋然性が高いとのこと。


 そして魔獣を使役する能力を持つ十二夜叉大将には一体だけ該当する。


 迷企羅のアミュタユス。


 もしもそうだった場合、勝ち目はかなり薄い。


 アミュタユス自身も非常に厄介なやつで、その上物量で押し潰してくるのだから堪らない。


 十二夜叉大将は勇者パーティー時代に半数を撃破したが、それは周りが優秀だったからだ。


 それでもラウザントが僕より強いのなら、二対一ならもしかしたら倒せるかもしれない。その状況を作るにはまず魔獣を千体倒す必要があるんだけど。


 僕はだいぶ不安になりながら、万事屋に足を運ぶ。





 万事屋に行くと、裏手にある小屋から入れる地下室に誘導された。


 地下室には申し訳程度の明かりと、それに照らされるのは人と無数の武具。


 既に五人いたが、まだ十人くらい来ていない。緊急事態でも時間にルーズなのは変わらないのか。


 と思ったのもつかの間、三十分以内に全員が集まった。


 実は副町長のラウザントと、僕と、アイリス。あとズーエル。


 本国から派遣されている監査官のミーシア。文官だとばかりおもっていたが、文武両道だそうだ。


 いかにも不健康な肌をしている痩躯の中年、龍の嘴亭のマスター、パラセリ。


 猫背猫耳、体全体がうっすらと白い体毛に覆われている氷猫種のミュクス。


 子どもに教育を施している、いい意味でどこにでもいそうなミライエ。


 ルートレイに住む子どもたちのリーダー的な立ち位置にいるノルンの父親、定期的に来訪する商人との交易を担っているレクシャア。


 竜の嘴亭と別の食事処を切り盛りしているルートレイきっての優男のウィンケルと、ウィンケルの妻マーズ。


 先日、アイリスが間に合ってなければ命を落としていたであろう二人の少年の片方、ナムタの母親、ユオリ。


 そして僕は知らなかったが、ルートレイの外れにひっそりと住む二体、いや、二人がいた。

 世界的に亜人として迫害を受けているリザードマンの雄とラミアの雌だ。

 リザードマンの男とラミアの女。


 見かけた時は死ぬほど驚いて思わず身構えた。人間と亜人が共存してると誰が思えるだろうか。


 ルートレイは何ものにも寛容で、悪しき心を持つものでなければ拒むことはない、と町長が言っていたのを思い出す。


 リザードマンの名をランギュムント、ラミアの名をキルナーマフマスという。


 二人は目を見張る僕を見て苦笑し、ランギュムントが我らを差別しようとして区別しているのでないのなら、時が経てば慣れるだろう、とだけ言った。


 その喋り方はややぎこちなかったが、発声器官の差の問題だ。


 キルナーマフマスは下半身が蛇で上半身はほぼ完全に人間になので上だけを見ていれば違和感がない。


「ようやく揃ったか」


 最後に入ってきたくせに最初から待っていたと言わんばかりのラウザント。


「これからするのは武器と食糧の分散だ。ルートレイには幸い、比較的バラけて地下倉庫がある。手分けして各場所に配置する。そしてその前にまずは各々の戦闘スタイルとかを聞かねえとな」


 目にかかった長い前髪をかき上げながら、飄然としつつも響く声で一言。


「刀だ」


 僕は妙に納得した。




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