14.集会
僕が勇者パーティーを追放され、自棄になり、ゴールンに出会って鍛冶師を志し、旅立ってルートレイに落ち着いてから早二ヶ月が経過した。
本当にあっという間だった。
鍛冶の腕はだいぶマシにはなったがまだまだ他人様に見せられるような出来ではない。
「ラインさーん!ごはんできましたよー!」
台所から鈴の声が聞こえる。
僕は工房であれこれ作業していたが手を止め、そちらに向かう。
淡く長い滑らかな金髪に宝石のような青い瞳、整った幼めの美貌に蠱惑的な肉体。エプロンをしていてもわかるくらいだ。今日も可愛かった。
「今日もありがとう」
「はい!」
花のような笑顔。守りたい。
既にテーブルの上に料理が並べられている。
僕は椅子に座って徐に食べ始める。アイリスもエプロンを脱いで対面に座った。
朝食は基本変わらない。パンとスープとサラダと林檎。
なんとも驚いたことだが、アイリスは火系統の簡易魔術を使えるため、火を使った料理もできる。
この歳で魔術をあんなに簡単に出せるのは素直にすごいと思った。
片手間に発動させているため、アイリスは魔術師関連のスキルを有しているか、適性が抜群に高いのだろう。
「やっぱりアイリスの料理は美味しいね」
ルートレイの食の水準は高い。僕の口には宮殿の料理人たちの作る料理より合う。
朝は起きてからすぐに工房で鍛冶の準備をして、アイリスの作ってくれる朝食をいただき、それから周りをアイリスと散歩する。
ルートレイでは金銭での売買は行われておらず、定期的にやって来る商人から買い取る時に使うくらいで、それですら物々交換で成立する際は出番がない。
散歩の最中にものを運ぶのを手伝ったりして交流を深めつつ、正午になりそうだなあって時間に帰宅。
工房の炉に設置した魔石を起動し、火が熾きるまでの間に昼食をとる。もちろんアイリスが作ってくれる。
なんていうか、こう言うのは烏滸がましさすら感じるが、僕とアイリスって付き合ってるんじゃないだろうか?いや、確認したことはないんだけど。違うって言われたらもう立ち直れなさそうだし、それで離れていったらメンタル崩壊する。料理もどうしようってなるし。女々しい。
でも今はこれでもいい。十分に幸せなのだ。多くを求めると何も得られることなくかえってすべてを失いかねない。自らの欲望に鈍感にならねば。
お昼からは八時間ほど工房にこもって鍛冶の技術を磨き、夜は竜の嘴亭に赴く。
アップルエールを片手に肉を食し、帰ってから寝るまで五時間ほど再び練習。
毎日こんな感じでかなりのんびりしている。
正直一リラ(一リルラの約十分の一)たりとも稼いでいない。たまに畑仕事を手伝うくらいだ。
みんなは後々農具を作ってくれって言って気にするなと肩を叩いてくれる。
期待には答えたいから最近は武具より農具を作って練習している。
出来たものを実際に見せて、あるいは使わせて改善点などアドバイスをもらって研鑽を重ねている。
最初はラウザントからもらったオリハルク十三宝具が九の槌を振るっていたが、駆け出しの僕には過ぎた代物だと考え、大量の荷物の中にあった普通の槌を使っている。
炉の火を消し、軽く体を拭いてから寝室に行く。あれからベッドの他に枕やブランケットもいただいて、だいぶ充実している。
そして泥のように眠る。
輝かしきスローライフに、僕は非常に満ち足りている。
翌日、普段通りに過ごしていたが、夜だけは違った。
一か月に一回は必ず開かれる集会に僕も参加していた。
集会は子どもたちに勉強の場や遊びの場として朝昼開放されている寺子屋に向かっている。
「あ、こんばんは」
「おお、どうだ、くれてやったやつは使ってるか?」
長髪で相変わらずゆったりした法衣のような衣服を着用している万事屋のラウザントに遭遇した。
「ありがたく使わせてもらってるよ」
「そりゃあの爺さんも喜んでるだろうな」
爺さん、というのは七年前までルートレイにいた僕の家の前の持ち主のことだろう。なんかめちゃめちゃ嬉しそうにしてるから、宝具は使っていないと言ったらがっかりされそうだったので言わなかった。
「今日の集会は何のためのか知ってる?」
「あー、多分パレードだな」
「パレード?」
「そう、パレードだ」
ラウザントは何故かニタニタと不気味な笑みを浮かべている。
パレードということは祭りみたいなものだろうか。それは楽しみだな。
「お、ラウザントとラインじゃねえか」
次いで会ったのはいつも竜の嘴亭で酒を飲む農夫のファーチェだった。ファーチェには鍛え上げた農具を試してもらったり色々とアドバイスをもらっている相手だ。年齢は一回りは違うがいい友人だ。
「さっきラウザントからパレードをやるって話を聞いたんだけど、どんな感じなの?」
「ああ、もうそんな時期か」
すると、ファーチェは明らかに疲れたような暗い表情をした。準備がそんなに大変なのか?
理由を問おうとしたタイミングで寺子屋に到着した。ドアは開けっ放しで、中から談笑する声が聞こえる。杯をぶつけ合う音も聞こえ、小さな祭りでもやっているのかと思った。
「遅かったですね、ラインさん」
奥の広間からアイリスがわざわざ来てくれる。
もうすぐ予定された時間だ。
結果的に、まあもちろん時間通りには行われなかったが、それを咎めるような狭量な人はおらず、そもそも開始時刻の存在を知らなかった人までいた。これがルートレイクオリティーだ。そしてそれには僕も慣れた。すっかりルートレイに染まってしまった。
なんと驚くべきことに、僕ら三人が到着した時間は予定されたと思っていた時刻より後だった。こういうところだ。
評価、ブクマありがとうございます。




