11.一段落
結構な重量の荷物を抱えて家に戻ると、ドアが開いていた。
盗賊でも来たのか!? と焦りつつ急ぐと、そんなことはなかった。むしろ起きていたことは逆だった。
玄関には所狭しと家具が敷き詰められており、僕がちょうど今猛烈に欲しがっている衣類も家具類の上に置いてあったりしている。木箱なんかもあって、何が入ってるんだろうと気になって開けてみたら包丁だった。
僕は料理をしたことがないけど、せっかくだしやってみるのも悪くないな。問題は僕が簡易魔術すら使えないというのと、魔術を封入した魔石も持っていないということだ。
勇者パーティー時代は僕とティルフィ以外は魔術を扱えたし、ティルフィは魔術を使えないというよりは宗教上の理由で使えないだけだ。
魔石は工房の炉に火を熾す用に買いたいが、魔力を込めれば再利用可能な便利な代物なので単価がかなり高い。二個も三個も買っていられない。
懐に余裕ができてからかなあ。
料理をするかしないかよりも大事なことが目の前にはあった。
「これは一体?」
クローゼットや棚、テーブルに椅子、寝具もある。暮らすのに必要な家具が揃っていた。誰がやってくれたんだ?
「ルートレイの習慣で、引っ越して来た人には生活に必要なものを道具でも食べ物でもなんでもお祝いで送るんです」
「にしてもこれは……」
お祝いのあまりの規模に絶句する。手ぶらで来ても大丈夫ってことか。でもそういうことを思い付いた人で溢れ返ったら崩壊する。そんな簡単にここへの移住は認められないのか?
「素直に受け取っちゃってください!」
あって困るものではないし、ありがたさしかないけど、こんなに心優しい人々がいるというのに驚きを隠せなかったというのが正直な所感。
僕の故郷は他人に厳しく、自分にもまた厳しかった。それが悪いことだとは思っていないけれど、僕には全然合わなくて辛い思いもした経験がある。
ルートレイのような場所が故郷だったら、と不覚にも思ってしまった。
「ラインさん、泣くほど嬉しかったんですか?」
「え?」
目元に触れると少量だが涙。どうして流れたのかはわからない。わからないけど悲しくて出たわけじゃないのはわかる。
「……うん、嬉しいよ」
「よしよし」
不意にアイリスが一生懸命背伸びをして僕の頭を撫でた。
「あ、ごめんなさい! 子どもたちにやるみたいについ!」
顔を手で隠しながらものすごい勢いで背ける。何事かと思って涙も引いたが、間違いだったみたいだ。
「ふやっ!?」
アイリスが嬌声を上げる。
仕返しと言わんばかりに今度は僕がアイリスの頭を撫でてやった。髪の毛は滑らかでいつまでも触っていられそう。
ふしゅ~とアイリスはしゃがみ込み、なんてことを無意識にしてるんだと僕は頭を抱えて天を仰いだ。
「昼前からいちゃついてんなあ」
「な、ちが!?」
気配を殺して 近づいたのはズーエル。もしかして一部始終を目撃されていた!?
「言いふらしはしねえよ、安心しろって」
悶絶必至だった。よりにもよって一番面倒くさそうなのに見られていたとは。ジーザス。
「で、お嬢、幸せそうな顔してないでほら立って」
「幸せそうな顔なんてしてないでひゅ!」
「こりゃ重症だな」
ズーエルの乱入でよりカオスになった。
「まあお嬢は今はこのままそっとしといてやるのがいいな。おいライン、玄関に溢れてるものを中に入れるぞ」
「手伝ってくれるのか?」
「仕方ねえ。お嬢に頼まれたからな」
こういうところが憎めないやつなんだよな。
「その前にこれを工房に置いてくる」
「ああ、ラウザントからのもんか」
なんで知っているんだ?
「小さな町だからだな」
小首を傾げつつ、工房に荷物を置きに行った。
大量の家具類を運び入れようとしたのだが、廊下が穴だらけということを思い出し、その修理をしないことにはどうにもできないという結論に至った。
最悪部屋の穴はいいとしても、廊下の穴は塞がないと家具を運んでいる最中に足が嵌って大惨事になるかもしれない。
問題は使える木材がここにはないということだ。
生活するってのも楽じゃない。
この家は格安で買ったけど、もしもルートレイに移住者にお祝いの品として必要なものを送るという文化がなければトータルで見て損をしていただろう。勉強になった。
まだまだわからないことだらけだが、周りの人たちに助けてもらいながら徐々にわかるようにしていこう。幸いにもルートレイでは人に頼るのは悪いことでない、むしろ当然だという考えがある。行き過ぎた他力本願はどうかと思うが、ほどほどなら全然いいだろう。
色々考えながら、ズーエルが持って来てくれた木材で廊下の穴を塞いでいた。釘を打つために使った槌はさすがにラウザントからもらった宝具の槌ではない。使っていたら狂気の沙汰だろう。
ともあれ一時間と少しで穴埋めは終わった。
ルートレイに移ってからまともに睡眠をとっていないが、体力には自信がある。三日三晩どころか五日五晩寝なくても動き回れる。スキルの真価が開花せず、どうにか補うために人一倍努力はしていた。結果がついてこなかったのでどれだけ努力をしたと言っても自己満足にしかならないが。
やめやめ。気分が沈むようなことを考えるのはやめだ!
「おい、とっとと運ぶぞ」
とっとと運ぼう。
気合いを入れてあったら、あれだけあった家具をものの三十分で配置したい場所に運べた。
これでようやくひと段落。いや、庭に大量にあるゴミを処理してやっとひと段落か。
「ズーエルって火の魔術を使えるんだよな?」
「使えるぜ。お前さんは使えねえのか?」
小馬鹿にしたように背中をバシバシ叩いてくる。
「ゴミを燃やしてほしいんだ」
「どこにあんだ?」
「裏手の庭に」
ズーエルを庭の方に促す。
そういえばアイリスはどうしてるんだろ? あろうことか完全に抜けていた。
「お嬢はとっくに帰った。村長に呼び出されてな」
じゃあ大丈夫か。
庭に行き、ズーエルはゴミの山を見上げて呆然としていた。
「こんなにあったのか……。まあ燃やせばなくなる」
急に自己完結して、簡易魔術を唱える。
「トーチ」
これ、最悪家に燃え移るじゃん。
ごうごうと燃え盛るゴミの山を見ながらそんなことを考えていた。これだけの量が燃えているのは壮観だなあ。
なんなら家具を移動させたり廊下の穴を塞いだりするより時間がかかった。多すぎたな。
最終的に、最悪の事態には陥らず燃え切ってくれたので安心。
ベッドもあるし、七日目にしてやっと新生活スタートって感じだ。長かった。ドタバタしていて鍛冶の練習もできてないし。
寝る前に軽くやるかと思ったが、火がない。
結局ズーエルに頼んだ。なんだかんだ頼りになる男だ。
「もう疲れたからまたな」
「今日は本当に助かったよ。ありがとう」
「今度酒でも奢れよな」
ズーエルが帰ってから、僕は食べる間も惜しんで大量に放置してあったおそらく練習用と思われる銅を使ってあれやこれやとやっていたら、気が付いたら日が昇っていた。
時間を喪失していた。
肉体的な体力というより普段やらないことを沢山したっていう精神的な疲労が溜まっていたので、こんな時間だが寝ることにした。
久々のベッドでの睡眠は快適で、ノックの音にも気付くことなく丸一日寝ていた。
目を覚ましたらちょうど日が昇ろうとしていた。
「水浴びよ」
軽く体操をして体をほぐし、外に出る。早朝で空気は冷たく澄んでいて美味しい。
朝っぱらに浴びた水は結構冷たかったが、寝起きの身にはちょうどよかったかもしれない。
サブタイにある通り一段落です。これからはもっとテンポよくやっていきます。…たぶん。
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