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1.勇者追放

よろしくお願いします!




 それは魔王軍の幹部である六欲天の第二天、忉利天のバグライェーアを討ち果たして二日後の野営地で起こった。

 僕が旅立ってから初めて仲間に加わったパーティーの盾、〈重戦士・超級〉のスキルを持つドゥーンに呼び出されていた。


「もはやお前は足でまといだ。勇者だからここまで行動を共にしてきたが一向に成長しない。だが魔王軍との戦いは激化する一方」


 真面目くさった面持ちでいきなり切り出してきた。いいや、いきなりという言い方は少しおかしい。ようやくこの時がきてしまった。


「たとえいまお前が反対したとしても、これは全員の総意なんだ。こうしてわざわざ説明しているのはせめてもの誠意なんだ」


 とても誠意があるような声音ではなかったが、僕は静かに話を聞いていた。

 反論しようと思えばできないこともなかったが、総意というのはおそらく正しいのだろう。正しい以上、もう僕にできることといったら唯々諾々と来た道を引き返すほかない。


 正直、誰に言われるまでもなく自覚はしていた。スキルにかまけて鍛錬を怠ったなんてことは一度もないし、もてはやされたからといってなびいたりもせず、打倒魔王という目的のために研鑽し続けてきた。


 弛まぬ努力に努力を重ね、それでも僕は何故か普通の戦士系スキル持ちよりいくらか強い程度から伸び悩んでいる。


 最初のうちは逆に敵と比べて充分な強さを誇っていたと思う。問題なのは、スキルに目覚めてから3年近くが経過しているにもかかわらず、いまだ目覚めた頃と大差ないということだ。


 通常、スキルは使えば使うほど強化されていく。磨くほどに輝く宝石のように。

 僕の場合、磨いても磨いても変わらない。まるでこれが限界だと言わんばかりに。


「お前の気持ちもわからないでもない。だが仲間を危険に晒すことになってでもお前は俺たちと戦い続けるのか?それが勇者だっていうのか?」


 わからない。僕にはわからない。こんな平均よりちょっとばかり腕が立つだけが勇者スキルだっていうのか? そもそも僕のスキルは本当に勇者なのか? 鑑定をする時に見誤ったんじゃないか?


 きっと、そんなことはないだろう。


 僕は確かに勇者だ。スキルを確認するまでもなく、僕自身がそれを確信している。感覚として不思議とわかる。わかってしまう。おまえは勇者だ、と何ものかがそう囁くのだ。スキルが囁いているのかもしれない。


「このパーティーはお前がいなくても完成されている。いや、いない方が完成されている。勇者がいなくとも俺たちが魔王を倒してやるさ」


 みんなは強い。僕なんかじゃ比べものにならない。


 現に忉利天のバグライェーアとの戦いだって、僕は周りの雑兵を相手するので精一杯だった。バグライェーアと真に戦っていたのは他の五人なのだから。


 僕は失格だ。たぶん、彼らような人のことを勇者と呼ぶのだろう。僕は、とてもじゃないが勇者だと公言できない。その肩書きに負けないくらいの能力が備わっていない。


 一体何が足りなかったのか。


「装備品は置いていけよ。特にその防具は俺たちでも使えるし、その剣だって剣術の心得がなくとも扱える。とはいえさすがに丸裸で引き返えさせるわけにもいかない。予備の装備は餞別としてくれてやる」


 いま身につけている邪悪を跳ね返す防具クリェロッタ、腰に佩く火と水の剣ファイドロハール、精神攻撃を退けるペンダント、腕力を強化する腕輪、放つ魔法をブーストする指輪、他にも多様な効能を持つ装備を解除する。


 代わりにわずかに防御力が高いだけの予備の防具、鋼鉄の剣をまとう。魔王討伐の旅に出た時よりしょぼい装い。


「ひとつ、頼みがある」


「かつての仲間の最後の頼みだ。聞こう」


「勇者が力及ばずノコノコ逃げたなんていくらなんでも外聞が悪すぎる」


「ああ、そんなことか。勇者ラインハルトは忉利天のバグライェーアとの激戦のさなか、仲間を庇い戦闘不能の重傷を負った。とでもしておこう」


「それでいい。ありがとう」


 力なく項垂れ、歯を食いしばりながら感謝の言葉を口にした。拳を強く握りすぎて爪で手の平が血に滲む。


 足でまといだから帰ってきました、では方々に示しがつかない。送り出してくれた両親や村の皆、国王や民にそんなことを言って失望させるわけにもいかない。そんな、僕のせめてもの虚栄心だった。


 最後に他の四人にお別れの一言くらい言っておきたかったが、ここでグダグダと先延ばしにしたら僕のなけなしの覚悟が無駄になるような気がした。


 それに、そう、僕をパーティーから追放するのは五人の総意なんだ。いまさら交わす言葉もないのかもしれない。


「みんなによろしく伝えておいてくれ」


 惨めな背中を向ける。ドゥーンに鼻で笑われたような感じがしたが、気のせいだと思いたかった。


 涙で濡れたみっともない目を拭い、いままで仲間たちと歩みを進めてきた道を重い足取りで引き返す。




 勇者としてのラインハルト・リューネルの物語は、ここで死んだのだった。


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