5話 だばぁしない二学期
二学期が始まった。
ちゃんと宿題は終わらせた。
いい感じに夏祭りやら花火やらも楽しめた。
プールが気持ちよかった。
バーベキューのホタテが美味しかった。
夏休みの思い出を胸に学校へ向かうその足取りは、
足枷を5〜6個つけられてるのかってぐらい重かった。
「なあふりかけ、俺やっぱ帰りてえわ」
〔オコノミって呼んで欲しいな〕
「うっせ!なんか達成感でカッコつけただけだわ!なんだおこのみって!呼びづらいわ!」
側から見るとまるで意味のわからない会話。
そんな意味不明二人組に声をかける青年がいた。
「おい、てる!おはよぅ!」
「げぇ!八ッ湖!」
「誰だそのおっさん?まあいいや、ほれ、氷やるよ」
「つめてぇ!」
彼の名は八ッ湖 冷。先日、連絡をとっていた氷の能力を使えるようになった男だ。
一番仲のいい幼馴染の友人だけに、正直この能力を明かしたくなかったので、ふりかけ…おこのみ…とりあえずこの霊は見られたくなかった。
「で?てるの能力はなんなんだ?あ、いやまてよ。当てるぞ」
「無理だな、当てられねえぞ」
「お化け屋敷行ったろ!霊を使役する能力だ!そのおっさん透けてるしな!」
「ハズレェ」
気の抜けた解答をして、仕方なく説明した。
爆笑された。
そのまま登校していると、もう一人の友人と出会った。
「おはよう二人とも。能力に目覚めたらしいじゃない?私もつい昨日ようやくよ!」
もう一人の幼馴染、黒井 曜 という少女。
彼女もまた能力を得ていた。
「ヘェ…じゃあどんな能力か見せてもらおうじゃん?」
「いいわよ、じゃあ…なんかこう、壊してもいいものある?」
「おっ、てるの出番じゃん。」
「ア゛ァ゛ッ、食い物粗末にすんのかよ!やらんぞ!」
「食い物…どういう?」
曜が不思議そうにする。
冷が説明しようとするので増照は必死で止めた。
格好がつかないからだ。
とりあえず、その辺の小石を拾って渡した。
するとどうだろう。取り出したペーパーナイフで、小石を真っ二つにしてみせた。断面は恐ろしいほどに美しい。
「ヒャァ」
「はわわ」
〔おほほぅ〕
3人が驚く。すると曜も驚いた。
「えっ!?誰そのおじさん!えっ?てるったらもしかして霊を使役できるように」
割愛。
曜と別れ、2人は教室につき、朝礼。
先生が話し始める。
能力の悪用は厳禁、きちんと期間内に報告書を学校へ出すこと。
宿題の回収など。
クラスメイト達は物凄く足が速くなる、もののサイズを自由に変える、透明になれる…。
個性的な能力を持つ奴らばかりだった。
一人だけが浮かない顔をしていた。
できるだけ話題を振られないように下を向きつつ過ごしていると、突然外の中庭で悲鳴が上がった。
そこには、隣のクラスの問題児の滝沢が、曜に絡んでいた。
滝沢は夏休みに海に行き、それがきっかけで水を操れるようになっていた。
「曜〜おまえさぁ、前から気に入ってたんだよなぁ。あいつらみたいに溺れたくないっしょ?ちょーっと遊んでくれねえ?」
周りには生徒が何人かと教師が倒れていた。
曜は胸が大きくて可愛い。
曜はじりじりと距離を詰められる。
能力は刃物の切れ味を恐ろしくあげることができる、であるがペーパーナイフだけではリーチが足りず自分も首から上を水球で覆われれば終わりと様子を伺うことしかできない。
そこへ、
「やめr」〔やめなさーいッ!!〕
二人組が窓から飛び降りては、滝沢の前へ立ちはだかる。
「てめぇ許s」〔許さんぞ少年!貴様もかやくにしてやろうか!〕
「お前さぁ!俺の決め台詞がさぁ!」
滝沢はぽかんとしたあと笑いながら水球を作り始める。
「なんだお前ら?なに?俺より強い能力に目覚めてんの?やってみろよ!俺ぁ水を操れるんだぜ!」
勢いで飛び出たことを増照は深く後悔した。
今回の深さはマリアナ海溝ぐらい深いが、ただでやられるわけにはいかんとカップ焼きそばを素早く用意した。
(湯を捨てるのはシンクワープをしなくてもできるんだ、なら捨て湯をぶっかけて大火傷させてやる…!)
「くらえ!」
大きく大きく開いた捨て湯口から、焼きそばだけがパッケージに残り、捨て湯だけが滝沢に飛ぶ!
「あっツァ!は!?」
思いの外距離が飛ばず、多少水滴が飛んだだけだった。
「やっべ」
「オラァ何しやがるんだてめぇ!ナメてんのか!ぶっころしてやるぁ!」
水球を振りかざした滝沢、だが
「っせぇんじゃボケェ!!」
ハッ湖が水球を氷結し破砕した。
滝沢が怯む。
「…は?なに?氷って…はぁ?ざけんな…」
「てめぇこの野郎なにが水を操るだオラァ!アラスカにしてやろうか!」
「っう、るせー!溺れろ!!!」
滝沢が叫ぶと八ッ湖の背後にまたも水球が出来ていた。
しかしそれをなんなく凍らせてにやりと笑う。
しかし滝沢も甘くはなかった。
水球二段構え。顔を覆われてしまえば氷といえども対処できない!
「スキありぃ!バーカ!」
しかしここで増照も黙っていない。
「くらえっ焼きそば食べるように割り箸を召喚して付属した爪楊枝パンチ!」
「いッ…」
ちくっとして滝沢はびっくりした。
「ナイスアシストォ!」
八ッ湖が瞬間停止した水球を凍らせ滝沢へ蹴り飛ばした!
破砕した氷は散らばりあたりの風景はダイヤモンドダストのごとく。
煌めく中庭には、突っ伏した不良とキメポーズの男子生徒、安堵する女子生徒と…
出来立てのカップ焼きそばを啜る、微妙な表情の男子生徒が佇んでいた。