2話 少年がだばぁしなくなる日
前回に続き勢いで書いております。
夕飯時。
テーブルを片付けて、家族四人分の食器を並べた。
今日の夕飯は素麺。
みょうがとネギと、しょうがとツナと。
大葉とわさびとめんつゆ、氷水。
薬味も豊富、ひんやりと夏の夜の暑さを見た目だけで和らげてくれる。
「いただきます。」
父と母、そして姉。増照の家族構成はこうだ。
母、陸子が話し始める。
「今日のみょうがは、うちの庭で採れた奴なの。」
「えー!あんなでっかい奴うちで採れたの?」
姉が驚く。
なんのことのない会話が交わされつつ、小皿の薬味が少なくなっていくが増照は何故か手をつけなかった。
それに気付いた父、三朗が話しかける。
「どうした?てる、箸が進んでいないが。」
「それどころか一口も食べてないんだ、ごめん、腹は減ってるんだけどなんでだろ?体が拒絶するんだ。」
「お前素麺好きだろ?おかしいな、なにかあったのか?」
増照は首を傾げ腕を組んで唸るが、心当たりがない。
「あっ!てる、あんたなんか能力身についたんじゃない?ほら、あたしみたいに制約があってそれが食事なのかも!」
双子の姉のゆた子は「身体及び身体機能を自在に変化、使用」することが出来るが、睡眠の時間を10時間必ず取る必要がある。
「あーなるほど、ねぇー…。で、どんな能力なんだろ。きっかけもわからん。」
「試しになんかだしてみたら?あたしは『出ろ!』って思うとほれ。」
姉が涙を流してすぐ止まった。蛇口のように。
「よーし…うーんじゃあ、出ろ!」
何が出てもいいよう、外に指を向けて念じた。すると…
〔あっ…呼んだ?〕
30代くらいだろうか?白目のほっそりとした男性が透けた身体で出てきた。
「「ほぉぉぉわぁぁぁぁ!!!?!??」」
母と姉が大きな声で椅子から転げ落ちた。
「ゆ、幽霊!?…を使役できるのか?俺!?」
〔ああ…いや、その…僕ね、君の能力の一部なの。〕
「一部…?」
〔そう…君の本当の能力はもっと有意義だよ。〕
紳士的な優しい笑みを幽霊は増照に向ける。
〔僕はね、君に助けてもらった…ふりかけの霊だよ。〕
食卓は沈黙に包まれ、助けた本人が静寂を破る。
「えっ、なに、えっ俺の能力ってまさか…ふりかけをかける能力なの?」
〔いいや…君の能力は〕
〔カップ焼きそばに関してはあらゆることが可能になるが、取り憑いた霊がカップ焼きそばと判定したものしか食べれない能力〕
またも沈黙につつまれる食卓。
聞こえたのは、めんつゆに浮いた氷が溶け始め、からんと一度鳴る音だけだった。