9.真実と嘘の境目
「で……なんでうちらがこんなことをしているのかってこと……話した方がいいよね?」
「お願いします」
4人が声を揃えていうと、ありさは苦笑いをしながら話し始めた。
「えっとね……うちら4人は急にあの中野って人に呼び出されて——というか、強制的に体育館に連れ出されたというか——まぁそれで、その時に異能を与えられて、中野に楽器を壊せ、と言われたの」
ありさの顔が、悲しそうに歪んだ。
「その時……うちらはきっと、洗脳されちゃったんだよね。
吹奏楽をしていて楽しかった事とか、嬉しかったこととか……つまりはいい思い出を、思い出せなくなった。辛かったこととか、嫌になってしまったこととか、そういうことばかり思い出すようになって……それが憎しみに結びつくような魔法を、かけられたの。
その時はそうとは気付かなかったから……楽器を壊すことしか頭になかった」
4人はうなづき、理解した。
決して悪いのはこの4人ではない。魔法をかけた中野なのだと……。
「多分うちみたいに、楽しかったこととか、嬉しかったこととかを思い出せたら……きっと中野の魔法は解けるはず。だから3人に……いい思い出を思い出してもらわなきゃいけないと思うの」
「……ってことは……」
「うまくいけば、残りの3人も味方につけられる、ってことですよね?」
「そう。
中野のかけた魔法さえ解ければ……3人とも、味方についてくれるはず」
「……分かりました!」
4人は顔を見合わせて、うなづきあった。
突破口が、光が見えたのだ。
「……ところで、残りの3人の名前と、異能って、教えてもらえますか?」
君代がありさにきくと、ありさはうなづいて答えた。
「1番端にいる女の人は、片桐さくら。異能は確か……異能の無効化、だったかな。
真ん中にいる女の人は、篠山佳苗。治癒能力を使うの。
唯一の男の人は、近藤大翔。炎を操る異能を持ってるよ」
「ありがとうございます!」
「ただし、本名がばれないように、呼び合う時はみんなの2つ上——だからうちらの1個下の名前を使ってるよ。片桐さくらは大山遥、篠山佳苗は関南々美、近藤大翔は永野瀧ってとこかな?」
「分かりました!」
「忘れないようにしないと……」
4人が名前の組み合わせを繰り返し唱えて覚えようとしている時、ありさはふっ、と悲しそうな顔になって、呟いた。
「こんな嘘……やだな。
やだよ、こんなことで嘘つくなんて……」
誰も、その呟きを聞いていなかった。




