6.音楽室の戦い
その頃、音楽室では。
「瀧、うちらはこれを壊せばいいんだね?」
「うん。邪魔者が来ないうちにやっちゃおうよ」
音楽室に、あの4人が到着していた。
音楽室には、沢山の打楽器が置いてある。
「そうだね。ねえ遥、この辺は割と炎で燃えそうじゃない?金属もあるけど、割と燃えそうなものも多いよ」
「そうだね。それじゃ瀧、お願い」
炎を操る異能者である、瀧と呼ばれた男の人がうなづき、炎を放とうとする。
すでに、掌には炎があった。
「——そんなことはさせない!」
掌にあった炎が、一瞬にして消えた。
4人が振り返るとそこには、君代がいた。
君代だけではない。亜子や鈴、詩乃も一緒だ。鈴は手に水を纏わせていた。
「——成る程、水と氷を操る異能者か」
「面白くなってきたんじゃない?」
瀧と、遥と呼ばれていた女の人がにやりと笑って言った。ほかの2人も君代達を嘲笑った。
「止められるなら止めてみたら?うちらのこと」
「どうせ無理でしょ?」
しかし、亜子が冷たく言い放った。
「大丈夫よ、あなたたちは楽器を壊せない」
「だって、そこには楽器などないのだから」
君代の声に、4人は楽器があるはずの場所を振り返る。
——さっきまで沢山あった楽器は、忽然と消えていた。
「——そんな馬鹿な!」
リーダーシップのありそうな女の人が叫んだ。想定外すぎることに、他の3人は話せなくなっていた。4人は、驚きのあまり、動けなくなっていた。
不意に、震えた声で、詩乃が呟いた。
「——私は、貴方達が許せないです」
詩乃は、打楽器の担当者だった。詩乃にとって、打楽器は仲間だった。その大切な仲間を、4人は壊そうとしたのだ。
「あの楽器たちは、私の仲間なんです」
詩乃は、密かに異能を働かせた。
「——蔓が巻きついてくる!」
遥が叫んだ。
「本当だ……苦しい!」
リーダーシップのありそうな女の人も、蔓から逃れようと身悶えした。全員が蔓から逃れようとするが、すでに遅く、蔓に縛り付けられてしまった。
「この蔓……一体、どこから?」
「……あの子だよ!あの子は草木を操る異能者だ!」
詩乃の手や腕の一部が蔓と一体化して、そこから生える蔓が4人を縛り付けていたのだ。
「……こんな事をするのは……本当は嫌です。やっぱり……私はこんな戦争なんて、したくないんです。でも、楽器が壊されるのは、耐え難いです。私の仲間だから、というのは勿論、大切な思い出まで消えそうで、そんなことはないと分かっていても……怖くて。楽器との思い出も……楽器を通して繋がった、人々との思い出も」
小声ながらも、詩乃は語った。
「楽器を通して、私は優菜先輩と出会って……優菜先輩は厳しいけど、優しくて……楽しかった思い出が、沢山あるんです。私のもっと上の代の方も、沢山思い出が、あると思うんです。辛いことも、楽しかったことも」
4人のうち、リーダーシップがありそうな女の人が、動きを止めた。
「本当に……そう思っているの?」
その言葉は、明らかに今までと口調が違うものだった。
「——はい」
詩乃は、小さいながらも力強い声で、答えた。
「——そう……だったんだ」
その女の人から、力が抜けた。
涙が一筋、頰を伝って、落ちていく。
そして、その女の人から、黒い霧が散った。
「ごめんね、詩乃ちゃん……」




