32.最期の異能
中野は手始めに、咲に炎を浴びせた。
攻撃の意図に気づいた鈴が慌てて氷や水を放って相殺しにかかり、咲も一歩下がったが、少し遅かった。咲は軽く火傷を負った。
その間に智子が中野に電撃を放つ。中野はそれに気付いて一歩下がるが、電撃が少しだけかすった。
チャンスだとばかりに朝が炎を放つ。しかし、こちらは完全に読まれたらしく、氷の塊を出された。
戦いは、拮抗していた。
しかし、やはり異能は使えば使うほど体力を消費するものらしく、大人数に囲まれて死角から攻撃されてしまっては、流石の中野でも体力が削られていった。
だんだん、戦いは中野に不利に傾いていった。
「——はぁ、はぁ」
中野が息を切らしているのがわかる。
しかし、智子たちも体力をそれなりに消耗しており、汗が流れ続けていた。
「——もう直ぐ、終わりだねえ……」
小声で、中野が呟く。
そして唐突に、銀色の銃を取り出した。
——パンッ。
1発、銃を発砲した。
そしてその弾は、見事に胸に吸い込まれていった。
「……創造主さん」
——智子の、胸に。
くずおれる智子。
叫び声を上げ、智子に駆け寄る仲間たち。
慌てて、それでも治療を始める咲。
再び中野は銃を手にする。
智子に、狙いを定めて。
——パンッ。
「……やめろ!」
自分の異能が未だに分かっていなかったがために戦力外だった音也が、智子と咲を庇うように出てきて、滑り出て来る弾丸を跳ね返すかのように手を動かした。
発砲音と共に聞こえたその叫び声は、音也のものだったのだ。
(何も出来ないのなら、せめて……)
(せめて、これ以上智子が撃たれないように、咲に弾が当たらないように……)
弾は、跳ね返った。
見えない壁に、阻まれたかのように。
方向を、無理やり変えられたかのように。
胸に、吸い込まれていく。
中野の、胸に。
「……物を、動かす、異能だね」
倒れた中野は、ひどい痛みを覚えながら、呟いた。
「やっと……やっと、物語が、終わる。私が消えて、創造主が、消えて……」
中野は意識が朦朧としていた。
「ようやく、終わる……」
そして、中野は目を閉じた。




