28.余裕
「朝、下がって!」
一方その頃戦闘要員の人たちは、一向に減らない敵たちと戦い続けていた。
文香の言葉通り朝が下がると、そこに電撃が飛んで来た。
「ありがと、文香!」
朝は礼を言いつつも敵に炎を放った。
愛音は画鋲を手の中で増やし、それを大翔に手渡す。すると大翔は炎を起こして画鋲が真っ赤になるまで熱し、次の瞬間、敵に向かって放り投げた。
春奈は風を操って敵の攻撃をなんとか防御しようとする。
幻覚を見せる亜子は自分の姿を幻覚で消し去り、敵の近くに幻の自分を映し出した。それを本物だと思った敵は、幻の亜子を取り囲んで攻撃したが、その次の瞬間には幻は消えていて、攻撃していた敵は勢い余って自滅した。
鈴は熱や炎の攻撃を相殺し、留美は土で空気を遮断し燃え上がる炎の消化に務めた。
文香の予知能力のおかげか、怪我をするものはいなかった。亜子が幻覚を見せて敵には彼女の姿が見えないようにしていたためか、文香も怪我ひとつない。
朝が一際大きな炎を放つ。
最後に1人残っていた敵が、消えた。
ようやく、3階にいる敵を倒し切ったのだ。
「敵を倒し切りました!」
愛音の叫ぶ声を聞いた彩は、結界を消した。敵がいないのならば結界を張る必要もないのだ。
その時には君代の怪我も治っていて、あとは皆の体力の回復を待つだけになっていた。
外からは絶えず智子と小百合が戦っている音がする。小百合の攻撃に智子はそろそろ絶えられなくなってきているようだ。
それを見ているのに絶えかねた佳苗の声が響く。
「——亜子ちゃん!体力は持つ?」
「はい!」
「一緒に来て!」
佳苗が駆け出す。亜子は置いていかれるわけにはいかないと追いかける。
「佳苗ったらもう!」
ありさが呆れたように言い、小百合の時を止めた。
「みんな体力は戻ったね?早く行こう!」
「はい!」
智子は焦った。
「時を止める異能だ……!」
目の前の小百合の動きが、ぴたりと止まったのだ。
「こちらに異能を使う余裕が出来たなんて……!」
智子は大きく腕を動かし、地面に弧を描いた。
「お願い……誰も、近付かないで。皆を巻き込みたくない……!」




