27.波の異能
「そろそろ……結界が……!」
彩が息を切らしながら呟く。
結界が薄く、脆くなり始めていたのだ。それに気付いた朝は、自ら結界を抜け出すなり、叫ぶ。
「彩先輩は、結界を縮めてください!そうすればきっと体力の消費も抑えられます!」
朝の言葉を聞いた戦闘要員の人たちは、成る程と納得し、次々に結界を出ていった。そして小百合が生み出した敵を次々に倒し始めたのだ。
「みんな……」
彩は呟き、朝の言葉の通りに結界を縮めた。すると体力の消費により薄く脆くなりつつあった結界が元の厚みに戻り、強度も元に戻った。彩も結界に全力を注がなくてもよくなったので、ほっと一息ついた。ひなが少しだけだが力添えをしてくれた。これならまだなんとか結界は持ちそうだ。
結界の外で戦闘要員の人たちが、風で敵の攻撃を避けながら炎を放ち、凍らせ、幻覚を用いた不意打ち攻撃を仕掛けたりしている頃、結界の中では咲が異能を君代の怪我の回復の為に使い始めていた。まだ自分の怪我が完治しているわけでもないのに。
咲の体力は異能を使ったことにより、確実に減っている。そのせいか、怪我の回復が通常よりも遅い。辛くなってきたのか、咲が目を閉じる。目を閉じて、なんとかもう少し早く、君代の怪我が治るようにと異能を使っていた。
咲が無理をしていることは、誰の目にも明らかだった。
「咲、無理しないで!」
ひなの声に、咲は無理やり笑ってみせた。
「平気だから……無理なんて、してないから……」
あまりにもわかりやすい嘘だった。
「咲……」
皆、分かっていた。咲は無理をしてでも周りのことを助けようとする人だと。無理をするなといくら止めても、そんな制止の声には聞く耳を持たない人だと。
「あ……」
さくらの声だった。
「佳苗……」
佳苗が、そっと咲の手を押しのけたのだ。
目を開いた咲が逆らおうとするが、佳苗はその手をさらに押しのける。そして、呟いた。
「咲ちゃんは休んで。異能は……今は自分のために使って。私だって治癒能力者だよ?君代ちゃんの怪我は私が治す。こんな時にしか役に立たないでしょ?」
「……」
しばらく咲は黙っていたが、
「最初は戦ってる人たちが怪我をしたときのために体力を温存したほうがいいかなって思ったけど、みんな、怪我しそうにないんだもん。それに、咲ちゃんは異能を使いすぎだよ。あと、君代ちゃんのためにも、早く怪我を治してあげたほうがいいと思うんだ」
佳苗の言葉に、うなづいた。
そして咲は再び自分のために異能を使い始める。
佳苗が君代の怪我を治し始めた。怪我の治るスピードは速いが、怪我が多いからか少し手間取っている。
咲は、うずくまっていた。流石にもう、疲れてきているようだ。しかし、異能はずっと使い続けている。
不意に、波が咲の背を撫でる。
自分には何もできないけど、なんとかして彼女を支えたい、そんな思いの現れだった。
その時だった。
まだ残っていた咲の全ての怪我が、一瞬で治ったのは。
「……えっ?」
何が起こったのかいまいち掴めないような表情で、咲は呟く。
「何もしてないのに……無理に異能を使うようなこともしてないのに。無理やり怪我を治すスピードを上げたわけでもないのに……!」
波はその言葉を聞いた瞬間、理解した。
「これは多分……うちの異能だ。きっと、他人の異能を強化する異能。あの時、さくら先輩の手を握った時も、さくら先輩の異能が強化された……そう言うことだったんだ」
そう。あの黒い霧が突如現れ、再び皆に呪いをかけようとしていたとき、異能無効化の異能を働かせていたさくらの手を波が握ったとき、さくらの異能が強化されたのだ。




