25.何故
「——教えて。どうして貴方はあのシナリオを書こうと思ったの?何故私を生み出そうと思ったわけ?」
小百合が問う。今小百合が知りたい、一番のことだった。そして答えは創造主の智子にしか分かり得ないことでもあった。
「どうしても何も……貴方は元から私の中に存在していた、ただそれだけよ」
智子はさらりと答える。
「貴方の中に?私が?」
「ええ」
戸惑う小百合に智子はうなづく。
「仲間が、あの空間が好きな私と嫌いな私がいた。もし嫌いな私のような人が現れたら、そう考えて書いたシナリオが、あれよ。あの空間が嫌いな私が、貴方」
「……確かにそれなら、単純明快ね」
そうでしょう?と智子は笑う。
でも、と小百合は食ってかかる。
「どうして?どうして私はここに存在するの?貴方の想像上の存在でしかなかったはずの私が」
「貴方はどうして生まれて来たのか——現実に存在する人になったのか」
智子は後悔しながら、口にする。
「それは多分……2か月前に、私が神社にお参りに行った時にお願いしたから」
「は……?」
小百合もすっとんきょうな答えに絶句する。
「純粋に仲間を、あの空間を好きでいたかった。だから私は願ったの。仲間やあの空間を嫌いな私を、追い出してくださいって」
「そしたらその願いが……叶っちゃったわけ?」
「……そう。本当に叶うなんて、思ってなかったのよ。私は基本的に無信心者だから」
「まあ、普通そうよね……」
小百合は呆れ返った。
「中野小百合。シナリオを書いた時から、貴方の根底にあるのは私の心。それに中野小百合という人物を肉付けしたの。きっと髪は短くて茶髪だろう、背丈は同じぐらいだろう、戦いをこよなく愛するような人で、音楽がとにかく嫌いな人だろう……とね」
「……」
(なんて身勝手な……!)
小百合は、憤っていた。
しかし智子は気づかない様子で尋ねてきた。
「今みんなはどんな感じなの?」
「……音楽室を出たみたい」
小百合は基本的にはどんな異能でも操れる人物だ、そのぐらい簡単に見ることができる。
「なら……そろそろ始めましょうか。ずっとお喋りしている場合じゃ無くなってきたわね」
「そうね……」
そう言いながら小百合は、音楽室を出た18人にささやかな贈り物をした。もちろん、皆が不利になる贈り物だ。そして時間稼ぎのための贈り物であり、自らの欲求を満たすための贈り物でもあった。
「……ところで」
「何よ?」
智子の声に、小百合が突っかかる。
「あれは持っているのよね?」
「勿論」
「今使ってもいいのよ?」
智子は挑発するような声で、でも懇願するような、もしくは諦めているような目で、言った。
「……嫌だね。あれは貴方を傷つけて、とどめを刺すためだけに使いたいんだ」
その言葉を聞いた智子は、ふっと笑った。
その目は、諦めの色を帯びている。
「……やっぱりそうか。それも設定通りだね……」
その言葉を聞いた小百合の頭の中で、何かが切れた。
「うるさい!」
智子に向かって電撃が撃たれる。
智子はそれを一歩下がって避ける。
「手加減は一切無しだ」
冷淡な表情で智子は冷たく言い放つ。
「望むところね」
智子も真剣な目で、小百合を見つめた。




