19.裏の戦い
(シナリオは……どこまで進んだのだろう)
小百合はため息をついた。
(まだあの子が怪我をした頃だろうか……)
自分で戦争がどんな状況なのかぐらい小百合のことだ、知ろうと思えばすぐに知れた。だが、小百合はそれをしようとしなかった。
(自分で始めたくせに……戦いを好む性格なのに、その性格でさえも、自分のものではないのよね。今更、分かりきったことだけど)
ふっと小百合は悲しそうに笑う。
(そう考えると、なにもかも無意味なような気にさえなる。いっそのこと、私の創造主が私のことを殺せればいいのだけれど。
でもあの人は私のように全ての異能を操れるわけでもなく、魔法の力を持っているわけでもない。
——ああ、でもこれさえ渡せば可能なんだった)
小百合はそう考えながら、服の上からポケットの中に入っているそれに触れた。
『中野小百合』
(……なんですか、創造主さん)
小百合はわざと、幻聴にそんな風に答えてみた。
『……呆れた。割と真剣な話をするのに』
(はいはい、真剣に話すよ。今後に関わるからね)
『……なんか性格変わった?』
(んなわけあるか)
『あ、そう?——で、今どこなの』
(分かってるでしょ?体育館だけど)
『私はもう"最後の場所"まで来てるよ。なるべく早く終わらせたいし、早くきてよ』
(いいけど。少しだけ待ってて)
小百合は一言そう答えると、瞬間移動の異能を用いた。
「待ってたよ、中野小百合」
その人物の髪が、風でなびく。
小百合の短い髪も、風で揺れている。
「そうか。おまたせ」
それを聞いて、ふふ、と小百合の創造主は笑った。
「さて、どうしようか?
お前を完全に消し去ろうと思ったら……やっぱり私の命もなくなるね。私は別にいいけども」
「どうして?」
「私はお前の創造主だから」
「……」
小百合は黙ったままだ。
「もしもお前が死んだとしても……まだ私が生きていたら、また再びお前を生み出すことだってできるだろうからね。その為に、私は死ななきゃいけない」
「……なるほどね」
「……さて、始めようか」
「そうだね。せめて私たち以上の犠牲者が出ないことを祈ろう」




