16.現れて、消えて
さて、時は戻って、2年生が本棟3階を歩いていたときのこと。
「1年生!どこ⁉︎」
波が大声で叫ぶが、もちろんそこには誰もいるわけがない。少し疲れ始めた彩が呟いた。
「やっぱり……いないね」
「うん……」
ひなが彩のことを助けながら、答える。
3階も、何事もなく過ぎてしまった。
「1年生、大丈夫かなぁ……」
奏也が呟き、波がため息をつく。
「ちゃんとうちが周りを見てればよかった……」
「……波だけのせいじゃないよ!」
「そうだよ!」
「うちらだって1年生を置いてってたのはおんなじだよ。みんなの責任!」
「ひなの言う通りだよ。波だけの責任じゃない」
「……でも!」
5人が揉めていると……。
「——あの……」
5人はぴたりと動きを止めた。
「……何してるんですか?」
5人は同時に振り返り……叫んだ。
「……智子ちゃん!」
「他の1年生は?どこにいるの?」
「今は……はるちゃん、留美、愛音、朝が多分別棟の3階に。その4人は音楽室に向かっています。
亜子、君代、鈴、詩乃が音楽室に。先回りしてもらいました。
文香が渡り廊下に。文香、怪我しているんです」
「えっ⁉︎」
智子の言葉に皆が絶句。ようやく波が言葉を絞り出す。
「まさか、怪我人が出てるなんて……」
その時、はっとしたようにひなが言った。
「——咲、出番だよ!」
「……そっか!うち、怪我治せるよ!」
「本当ですか⁉︎」
嬉しそうに智子が言うと、咲も嬉しそうに応えた。
「本当に!うちの異能は、治癒能力だったの!」
「早く!文香ちゃんのところに行こう!それからとりあえず、音楽室に向かってる4人を追いかけなきゃ!」
「うん!」
波の声に、2年生全員がうなづく。
そして、2年生5人は階段を降り始めた。
「——血は止まってきたけど……痛いな。このままだと、動けない」
文香は1人、呟いた。
「……でも、なんとかしなきゃ……みんなのところに戻りたい。せっかく予知ができるのに……みんなの力になれるはずなのに」
未来予知の出来る文香がいないということは、本隊にとっては大きなダメージのはず。
今まで避けられたものが、避けられなくなるのだ。
「でも、動けない……どうしよう……」
「——いたよ!」
「文香ちゃん!」
「大丈夫⁉︎」
そこに現れたのは、2年生5人。
「先輩⁉︎」
「そうだよ!他のだれに見えるの、もう!」
「そうですよね」
そう言って、文香は笑う。
「——で、どうしたの?」
咲に問われ、
「あー……これですか?さっき、敵にナイフで切られて……薬草を当てていたので血は止まったんですけど、痛みがどうしても取れなくて、動けなくて……」
と、文香は咲に怪我を見せる。
「大丈夫だよ、文香ちゃん。すぐに治すから」
咲はにこりと笑い、怪我のある部分に、触れた。
それだけだった。
痛みはすっと引き、傷あとなど、どこにもなかった。怪我が治ったのだ。
「えっ⁉︎」
「うちね、治癒能力を持ってるの。うちの異能はそれだった。だから文香ちゃんの怪我を治したの」
「ありがとうございます!」
「いいの。他の子達は、今どこ?」
「多分……別棟の3階に」
文香が答えると、波がよし、と声をあげた。
「とりあえず他の子を追いかけよう!」
2年生は渡り廊下を渡り出す。文香も渡ろうとして、不意に足を止めた。
振り返る。
「智子……どこに行ったの?なんで戻ってこないの?
別のルートで戻っているのならいいけど……」
文香はしばらく立ち止まっていたが、意を決して2年生の後を追ったのだった。




