14.謎
「これは……まずい」
文香が呟く。
「まさか……血が止まらなくなるような薬がナイフに塗り込んであったとか?」
智子がハンカチやティッシュを取り出しながら返した。文香は目を丸くする。
「何で分かったの?
……そうだよ。未来を見たら、いつまで経っても血が止まらない予知しか見えなくて」
智子はしばし、目を閉じた。
何かを思い出そうとするかのように。
「……ちょっと待ってて」
「どこに行くの?」
「ちょっとだけ外に。取ってきたいものがあるから」
「——お待たせ」
「……何、それ」
「草だよ。外に生えてた、薬草」
「……」
智子は文香の傷口に、水で洗ったその薬草をあてがうと、その上からティッシュを当て、さらにその上からハンカチを使って縛っていく。
文香はその時、この先段々と出血が治っていく予知を見、智子の言っていたことは嘘ではないのだな、と思った。
「——これで大丈夫。私、もう行くね。
ここにいれば、2年生の先輩方とも合流出来るはずだから」
「ありがとう、智子」
「いいの。気にしないで」
智子は文香に笑いかけた。
「それじゃ……またね。
その怪我、きっと咲先輩が治してくれるよ」
悲しそうな、笑顔だった。
智子は別棟には行かず、本棟に戻っていく。
「待って、智子。どこに行く気?」
「……トイレ。本棟のトイレの方が近いから」
「そっか。早くみんなのところに戻りなよ」
「……うん」
智子は今度こそ、本棟に戻り、角を曲がる。文香はただ、それを見ていた。
(智子……うちが1人になっちゃうから、あんなこと言ってくれたのかな。慰めるつもりで。
2年生の先輩とすぐ合流出来るよとか、きっと先輩が怪我を治してくれるよとか。
そんなの、分からないのに)
文香は笑った。
(智子ってさ、周りのことを考えるし優しいけど、なんかさ、一旦思い込みが始まるとなかなか抜け出せなかったりとかさ、あとは空気が読めなかったりとかするよね)
足の怪我を見つめてふと、文香は不思議に思った。
(不思議だよね。なんで智子は外に薬草があるって知ってたんだろう?ましてや、その薬草がナイフに塗られていた薬に効く薬草だなんて)
不思議に思いながらも、どこかで納得もしていた。
(でも智子はね、休み時間といえば図書室にいるか、外で男子とバスケをしてるか、校内で大人しくしてるか、花壇で花や草を眺めているかだったし、あんなに花や草を見ていたらわかるかもしれないよね。図書館で花や草の名前だって調べてたかも。
……そういえばさ……)
文香は、首をかしげる。
「——智子、トイレ長くない?
早くみんなのところに戻らないのかな」




