13.降りかかる苦難
その頃、1年生の本隊6人は、本棟2階にある渡り廊下のすぐそばまで来ていた。
「全くさ、あの人たちって自分で勝手に戦ってるくせにうちらに気付くと攻撃してくるとか本当に意味分かんない」
「まあ留美、落ち着いて。確かにそうだけど仕方ないよ」
「はるちゃんの言う通りだよ。小百合の目的はうちらの邪魔をして、危害を加えること——危害を加えて殺すこと」
「うん。その為にあの人たちを生み出したんだから。
小百合は……音楽、特に吹奏楽を嫌ってる。それを消すためなら、なんだってするだろうね。楽器を壊すことも、演奏者を殺すことも」
文香と智子が続けて話し、辺りは沈黙に包まれた。
「……危ない!」
春奈が急に叫び、いつのまにかこちらに向かって降り注ぎ始めていた矢の勢いを、風を操ってやんわりと緩めた。矢は1年生の目の前でふわりと落ちる。
「しょうがないね……行くよ!」
文香の掛け声とともに、1年生本隊の6人は動き出した。
愛音が壁に画鋲が刺さっているのを見つけ、それを手に取り、異能を働かせる。愛音は春奈を呼び、何事か囁いた。春奈は力強くうなづく。
その次の瞬間、愛音は手のひらいっぱいに増えていた画鋲を、敵に向かって放り投げた。
敵は愛音を嘲笑った。
そんな投げ方では私たちには届かないのに、無駄な抵抗を、とでも言いたかったのだろうか。
でも1年生の中には、風を操る春奈がいた。
春奈が風を送り、画鋲は間違いなく敵の元に届いた。しかも、かなり速いスピードで。
それは礫のようにあたり、物によっては敵に刺さった。普通の人間ならば痛くて悲鳴をあげるところだ。
しかし、流石は小百合が作り出した敵、とでもいうべきか、そこで痛がったり狼狽えたりはしない。恐らく、彼らにとっての敵——目の前にいる1年生——を倒すことしか頭にないのだろう。
しかし、そこで1年生の攻撃は終わらなかった。
「——愛音、どいて!」
智子が愛音の前に立ち、敵に刺さった画鋲に向かって電気を流した。敵が電気で痺れ、動けなくなるところを見計らったかのように、朝が炎を放つ。
「——智子、朝、ありがとう!」
「いや、愛音が画鋲を投げた時に思い付いただけだよ。さっきみたいに電撃を放っちゃうと体力の消耗が激しくて」
「さ、渡り廊下を渡っちゃおうよ!」
「うん!」
皆が渡り廊下を渡ろうとした、その時。
文香の脳裏に、未来が映った。
(——いけない!)
「みんな、速く走って!逃げ……」
文香の叫び声が、途中で途切れた。
文香の声を聞いて走り出していた5人が振り返ると、そこには倒し損ねていた敵が、1人だけいた。全員、気づいていなかった。
文香が、倒れている。
智子が小規模な電撃を放って、敵を倒す。
全員が、文香に駆け寄った。
「文香!大丈夫?」
文香は、足をナイフで切られていた。
傷口はそこまで深くないが、血が止まらない。
「……みんな、先に行って!」
「どうして⁉︎」
「置いていけないよ!」
文香の言葉に全員が反論するが、文香は首を振る。
「だめ。一緒に行ったら、絶対に足を引っ張る。
見えるの、そんな未来が。うちが足を引っ張って、他のみんなまで怪我をする未来が。
だからみんな、先に行って。私は後から行くから」
しばしの沈黙。
「なら……私が一緒にいる。せめて止血処置とかはしないと……そうでしょ?
ほかのみんなは、先に行って。終わったらすぐに追いかけるから。
それなら、いい?」
口を開いたのは、智子だった。
「……いいよ」
文香はうなづいた。
他の皆も文香が心配ではあったが、ここにとどまるわけにもいかず、智子に任せることにした。
「頼むよ、智子」
「任せといて」
4人は別棟の3階へと向かった。
文香と智子は誰もいない渡り廊下でそれを見ていた。




