10.小百合と幻聴
(学校戦争を、終わらせたい)
少女はそう願っていたし、そのために戦っていた。
(学校戦争の発端は、私。
みんな、そのことを知らないだけで……)
少女は全てを知っていた。
全員の異能も。
学校戦争の結末も。
小百合の正体でさえも。
(結果を知っているとしても……あの結末を知っているとしても、いいの。とにかく早く、終わらせたい)
少女は戦いながら、心の中では涙を流していた。
(もう、誰かが苦しんでいるところを見たくない)
少女の頰に、一筋の涙が流れたことには、誰も気付かない。
(あんなこと、しなければよかった……!)
ふと、少女は気付く。
(もしかしたら、この戦争の結末は、変えられるんじゃないかな)
(他の人たちを巻き込まずに済む方法がある)
少女は、あることを決心した。
その頃、小百合は。
(……順調だけど……あいつらに死者が出ないのが気にくわないのよね……)
相変わらず彼女は、体育館にいた。
しかし、小百合は吹奏楽部員15人と味方につけた4人、そして自らが生み出した戦士たちの生死だけは把握できていた。
(まあ、でも予想通り——いえ、シナリオ通りよ。
この先も、シナリオ通りに進むんでしょうね。
……そうよね。結果を分かっているとしても、私はシナリオ通りにしか進められないのよね。私には結末は変えられない。だって私はただの役者であって、創造主ではないのだから)
悲しそうに1人、小百合は笑っていた。
その時、不意に耳に入ってきた声があった。
『中野小百合』
(……またかよ……!)
幻聴にして、幻聴ではない声。
(なんだよ!うるさいんだよ!)
『……一対一で、対決しましょう』
(……ほう)
小百合は興味を持った。
『私は必ず……貴方を倒す』
(やれるなら、やってみればいい。でも、お前に出来るわけがない)
小百合は笑った。
『……分かっている。私を誰だと思っているの』
(……私の創造主?)
『……その通りよ。
貴方のことは、私が1番分かっている』
ふふ、と小百合は笑う。
(一見ロマンチックな感じのセリフじゃない?
"貴方のことは、私が1番分かっている"なんて)
『こんな状況で笑わないでほしいわね。
……こんな状況を好むようにしたのは私だけど』
(その通りね。でも楽しそうじゃない?シナリオにはない展開でしょう?)
『そうね……貴方のことを倒して、この戦争を終わらせるわ』
(さて、貴方にそれができるかしら?)
小百合はわくわくしはじめていた。
幻聴であって幻聴でない声の持ち主も、静かな闘志を燃やしていた。




