episode1 始まりの刻
A.D2009 4月9日
桜の花びらが風にのって舞い散る光景をぼんやりと眺めている
今日は入学式。俺は養護施設のある東京都の公立中学校に通う……はずだったのだが
「なんでここなんだ?」そう、俺がこれから通う中学校は公立だがここは東京都ではない。東京都と千葉県の境目、浦安市の沿岸沿いにある學海中学校。ここが俺が3年間を共にする学舎である
どうしてこんなことになったのか、それは遡ること2日前のことーーーーーー
まだ熱のある那奈を医務室に残し先程の中央制御室に戻って来るや否やガイアは話し始める
「さて、お前も今年から中学生ということだし、ちゃんと学校には通ってもらうぞ。だが通うのは東京都の学校ではなく、浦安にある学校だ。それと養護施設は出てもらう、これからはここで生活してもらうぞ。心配せずとも部屋は用意してあるし、何不自由なく暮らせるように環境は整えてある」
…………やっぱり施設は出なきゃだめか。そりゃそうだよな、表向きには存在を明かされない人間が今まで通りの生活ができるわけないよな…
どうしてこうなったんだろう。事故で両親を亡くし、元より親族が少ない家系だったから引き取り手が見つからず施設に入れられたけど、せめてこれからは普通の生活をしようと思ってたんだが…将来設計だって立ててたんだぜ?高校を出たら施設を出て普通の社会人になって嫁さんでも貰えたらと思ってたけど無理そうだ無念。
………………ん?あれ何かおかしなこと言ってなかったか?「え、なんで浦安の学校に通うんですか俺」
「先程も言ったが施設を出るに当たって戸籍上の住所を浦安に変えるからな。浦安の海辺のマンションの一室を抑えてあるから基本そこからこの研究所に出入りしてもらうぞ。言ってしまえばこの研究所とお前が通う学校とを繋げる為の部屋だがな」
成る程徹底しているな。しかしなんで浦安なんだ…
「なぜ浦安かって?単なる気まぐれだ。本当はどこでもよいのだがな、あの子が海の近くがいいと言うもんでそこにしたまでさ」へーということはあいつが海辺を希望したことで俺は千葉県民となるのか…これからどうなるんだろうなーあいつと絶対うまくやっていけないってー…………正直逃げ出したい。けれど俺には拒否権はなくて逃げ道など用意されていないのだ。今後どうなるのか不安に押し潰されそうでこれから始まる中学生生活のことなどとても考えることなど出来なかったーーー
そんな事を思い返していたらいつの間にか入学式は終わっていて、今は自分の教室に戻ってきていた。教室の入り口の上にある白い板には1-Aと書かれている
「はーい静かに!今日から1-Aの担任を勤める進藤佳英です。昨年度は補助教師として英語の先生をしていましたが今年度から担任をもつことになりました。あと全クラスの英語の授業も私が受け持つことになりました。初めてのことばかりで迷惑かけちゃうかもしれないけどよろしくお願いします」教室中拍手に包まれた。
「ひゅー進藤先生ー!」「進藤ちゃんかーわいー」「先生彼氏いるのー?」「誰ですか先生のことちゃん付けで呼んだの!?あと初日から彼氏いるとか聞いちゃうの!?」
うん、進藤先生をからかいたくなるのもわかる。だってすっげー可愛いもん。真珠のように艶やかな肌、細すぎずかつ余計な肉付きのないボディライン、アイドルみたいに小顔で黒髪ロングヘアー。完璧である。絶対彼氏いるだろあれ。あの容姿で彼氏いなかったらワケありか男運がないかのどちらかだろう。うーん職員室でセクハラされてないか心配だ
「なー進藤先生彼氏いると思うか?」その時隣の席の男子が話しかけてきた。丸刈りでいかにも野球部!って感じだ。「やーいるだろあれは。ほら顔真っ赤になってるし図星つかれたんじゃない?」「あ、ほんとだ」先生顔真っ赤だよほんと。りんごみたい。あー可愛いよ先生~俺このクラスでよかったわー
「なぁなぁ友達になろうぜ!俺は佐藤だ、お前は?」「俺は菅崎だ。よろしくな」「おうよろしく!」よかった何とか友達ができた。これで3年間ぼっちは回避できそうだ安心した。
そこから自己紹介や教科書の配布などがあり昼前には帰ることができた。
「あー明日から中学生かー」ぼやきながら校門に向かって歩いていく。この学校は隣の學海小学校と中学校が繋がっておりお互いに行き来できる珍しい造りになっていて、始業式を終えた小学生たちに混ざって下校していた。すぐ横を赤いランドセルを背負った女の子たちが走って追い抜いていく。自分もこないだまではあんな風にランドセル背負って学校行ってたのかと思うと時の流れって早いなぁ
「あの」
校門を出た辺りで声を掛けられ振り向くとそこにはーー黒髪のショートヘアー、凍てついた氷のように青い目、白襟のついた黒いワンピースを着た、俺の肩くらいしかない低い背丈の少女ーーーー五十嵐那奈が赤いランドセルを背負って立っていた。
「これ家の鍵です。これで朝出てきた部屋に入ってくださいそれでは後程」と少し早口に説明して俺に鍵を押し付けると、踵を返し足早に去ってしまった。何だったんだあれ、わざわざ待ってたのかな、まるで嵐のようであった…
無事マンションを見つけ出しポストの表札を頼りに部屋番号を探しだし部屋の前まで辿り着いた。905かーなんか中途半端な階だなーとか思いながら鍵を開け部屋に入る。いたって普通の部屋だが廊下を歩いてすぐのところにあるドアは研究所と繋がっている。現代科学ではありえないがそれを可能にしているのはあの神様おんななのである。
「人の家にも関わらず無言で入ってくるとはいい度胸ですね」珍しく那奈の方から話しかけてきた。
「ここ、お前の家なのか?随分立派なところに住んでるな」「まぁ私に提供されている家なので実質私の家ですね。それより研究所に戻りましょう」そう言って研究所に繋がるドアを開け、そそくさと入っていってしまった。うーんほんとに必要最低限の会話しかしないなぁ、親交を深めようとか無理だなこれ。
那奈に続いてドアをくぐる。一瞬眩しい光に包まれ、目を開けるとそこは研究所であった。ほんとにすごいなこのドア
「やぁおかえり。入学式はどうであったか?行けなくてすまぬなぁ、何せこの身分と格好では外を出歩けなくてな」「いや別にいいですよ。むしろその格好で来られて変な目で見られるのもあれですし…」来なくてよかったよほんと、気が気でなかった。
「さて、ティータイムにでもしたいところだが、急ですまない。君たちに出撃要請が来た。急いで準備してくれ」え、いきなりすぎないか!?ていうか俺まだワールドディフェンダーとしての力が覚醒してないんだが!?
「わかりました、至急準備に取り掛かります」そう言って那奈は自室へと走っていった「あ、あの俺はどうすれば」「そうだな、君はまだ力が覚醒していなかったな。今日は出撃せずにここでモニター越しに普段彼女がどのようにして戦闘しているか見ていようか」「わかりました…」ただ見ているだけか、もどかしいが仕方がない
「五十嵐那奈、出撃準備完了しました。場所はどこですか?」黒い無地に青いラインの入った特殊素材で作られていそうな服に上着と同じく青いラインの入った黒いスカート、その下にはスパッツを履いた那奈が入ってきた。あれが戦闘服なのだろうか
「ここから2km離れた市街地です。謎の生命体が暴れているとの通報が複数入っており、現場周辺は既に市民の待避が完了しています。人目を気にせず動ける状態になっています。」「そうですか、ありがとうございます。これより出撃いたします」
そう言った次の瞬間彼女の姿が消えた。え!?なに今の!?「あれは瞬間移動だ。ワールドディフェンダーは瞬間移動などの特殊能力が使えるんじゃ、便利だろう?まぁその能力もずっと使える訳ではないがな」「そんなことできるんですか…俺、とんでもない者に選ばれちゃいましたね…」「さて、次からはお前にも出撃してもらうんだ、しっかり見ておけ。これがワールドディフェンダーである」モニターには薄い青色をした剣を手にし謎の生命体と闘う那奈の姿が映し出されていたーーーーーー
【To be continued…】
キャラ紹介
・ガイア
ギリシア神話に登場する原初神。ワールドオフェンダーよりこの地球を守るためワールドディフェンダーを探しだし秘密裏に活動している実質研究所所長である。なぜ神である彼女が君臨し、またどこからやってきたのか、明確な目的などは不明。ただ「この地球を守りたいのだ」の一点張りでそこから先は一切口を割らない
オレンジと黄色の鮮やかなドレスを身に纏い、足元まである長い金髪が特徴的。身長はおよそ175cmほど
・五十嵐那奈
9/30生まれ年齢11。黒髪ショートヘアーで目は青く、その目に光はなく死んだ魚のような目をしている。過去に何があったのか頑なに話そうとせず、また他者と関わろうとしない。特に男嫌いが激しく時折怯えるような素振りを見せる。本人曰く感情はとうの昔に死んだとこのと。喜怒哀楽を見せないがごく稀に触れようとしてくる男性などに対し怒号をあげることがある(前話参照)また自身を犠牲にしがち、自分の事を大切にしようとしない。なぜなら自分は■■■■であるから、と深く信じ込んでいるから。最早呪いである
身長133cm。平均身長よりもずっと低くまた手足がかなり小さいことが気にくわないらしい
・菅崎智
10/22生まれ年齢12。自身が7歳の時に両親が飲酒運転の車に轢かれ即死。犯人も逃走中に電柱にぶつかりその後死亡している。両親が亡くなってからは養護施設に入り孤児たちの兄的存在として暮らしていた。少しでも先生の手伝いがしたいと料理を手伝っていたらいつの間にか料理上手になっていた。
基本的に情に厚く喜怒哀楽が少々激しいが他者に優しく決して見捨てることはない。だがそれは信頼関係を深く築いていればの話。ワールドオフェンダーのような残虐極まりない奴らには一切の情けはかけない。自身を犠牲にしがちで養護施設時代にも度々倒れたこともあるとかないとか
身長158cm、勉強もスポーツもできる普通の少年であったーーはずだった
・楠木さん
6/11生まれ。研究所で那奈たちのサポーターとして指揮をとる制御室のリーダー。齢23だが、就職が決まらずさ迷っていたところをスカウトされわけもわからぬままこの研究所に連れてこられ気づいたらリーダーになってた。自分でも何が起きてるかわからないし敵怖いし。なんで那奈たちが怯えず闘えてるのか不思議でたまらない。付き合っている彼女がいるらしいがーーー?
・進藤先生
8/2生まれ年齢25。この度担任をもつことができましたヤッタネ!でもプレッシャーに押し潰されそうで入学式前日吐きまくって寝れなくて当日顔色が悪く他の教師に何とかしろと言われたらしい。2つ上の大学時代の先輩の彼氏がいる。今年で付き合い始めて3年目、まだまだこれから
身長157cm平均くらいだけど、ほんとは160cmいきたかった
・佐藤
3/29生まれ。智の新しい友達一人目。小学校時代野球部に所属、中学校でも野球やりますよ。基本テンション高め、周りから一目置かれる存在だが悪い奴じゃないしむしろいいやつだったり。大荷物持ってるお年寄りが入れば荷物もってあげるしバスや電車で席を譲る善良少年
現在彼女なし熱烈募集中とのこと。身長156cm