~Prologue2~ 最悪の出会い
男は嫌いだ。男は⬛⬛⬛⬛⬛⬛から。私に苦痛を与え、嘲笑っている奴らのほとんどが男だった。最初は戸惑いながらもその内未来のためだとか吹き込まれ良心を忘れ、⬛⬛に身を投じていく…どうして私なのだろうか。でもこれは自業自得なのかもしれない…私は⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛人間だというのに、この世に生を受けてしまったから。
___ねぇ先生、いまどこにいるの?先生も、私のことが嫌いだから私の前から消えたんでしょう?
どこにいるの…?もう一度だけでいいから、一目見るだけでもいい…姿を現して欲しい___
過去の事などどうでもいい。今更どうしようもない事を考えていても時間の無駄だ。
『―――聞こえるか第1号。そこから500mほど進んだところに撃破対象がいる。至急向かってくれ』右耳につけたインカムから指示が聞こえてくる。どこか遠くへいってしまいそうな意識を呼び戻し、進行方向へと体の向きを変える。あぁまたアレと闘うのか…
だけれども特に必要とされていなかった私でもやれることがあるのならば…
「わかりました。至急現場に向かいます」
インカムから流れてきた指示に動じることなく応答しその場を去る。4月の夕焼けに背を向け、数多のビルの屋上を足場にしながらまるで忍者のようにジャンプしながら移動する。この、空に手が届きそうなくらいジャンプをしながらの移動は嫌いじゃない。
そう、私は⬛⬛⬛⬛のままで良いのだ。これまでも、これからも。
「こちらだ少年、ここがこの研究所の中枢でもある中央制御室だ。撃破対象の情報から出撃中のワールドディフェンダーのバイタルの管理に至るまでの全ての情報がここに集まる。」
「ここで待っていれば会えるんですか?」
「そうだな。出撃から帰還後はここに立ち寄るよう伝えてあらからな。にしても」帰りが遅いのぅと呟いている。何かあったのだろうか
「楠木、あの子のインカムに繋げてくれ」
「そ、それがですね…」楠木という男は言葉を濁した。不測の事態でも起きたのだろうか?
「通信が遮断されました。故意に行ったものかはまだ調査中です。引き続きコンタクトを」
「いや結構だ。おそらく既に帰還している。この施設のどこかにいるはずだ。」
ガイアはいいことを思い付いたとでも言いたげな表情でこちらを見てきた。
「そうだ丁度良い、君が探してここに連れてきてくれたまえよ」「えっ!?」
突然すぎないか!?会ったことのない人物を、この広い施設の中から探しだして連れてこいだなんて…でもこれから行動を共にする相手だ。ファーストコンタクトには丁度良いのか?
「わ、わかりました。せめて何か特徴を教えていただけないでしょうか?」おぉそうだった、と手をポンと叩いた。
「特徴か。一言で言えば…小さいな。年相応とは言えない身長の低さだすぐに分かるさ」
なるほど背が低い少女か。それならすぐに分かるか…というかこんな施設に少女なんてその子くらいしかいないというのに何言ってんだ俺…まだ混乱しているのかもしれない。
「ありがとうございます。えーと施設内の地図か何かは…」「無い。自力で探してくれ。」
う、嘘だろ…なんか頭痛くなってきたぞ…多分無意識にマジかよと言っていたかもしれない。「マジだ。あぁそうだ、もし彼女を見つけたらこのインカムでその場で報告してくれ」そう言って無線インカムを手渡された。俺はインカムを耳に着けながら部屋を出る。でも見つけたらそのまま制御室この部屋に連れてくれば良いのでは?とも思ったが、神様の言うことは素直に聞き入れた方がいいだろうと考え、制御室を出た。
「本当にあれでよかったのですか?」楠木が話しかけてくる。あれで良い、とガイアは返す「あぁそうだ。医療班を呼んでおけ」
「は?医療班?ま、まさか任務中に大怪我を負ったとか……あ、ああああ大変だ!!い、今すぐ医療班を!!」
楠木は仮の医務室のある方に叫びながら走っていった。そこまで大袈裟ではないんだがなぁと思いながらガイアはモニターに映る夜景を眺めていた。
―――「これから先どうなるか実に楽しみだな」紅茶でも淹れるか、とガイアは制御室を後にした
何とか帰還した…帰還はしたが
(どこを歩いているんだろうか)
研究所きちに戻ってから足取りがおぼつかなくなってきた。体が重く視界がどんどんぼやけていく…
おかしい。だって自分は⬛⬛⬛⬛なのだ。こんなことあってはならないのだ
そういえばインカムはどうしただろうか、任務遂行のインカムを入れていなかったかもしれない。これはまずい、下手をしたら通信遮断だと思われて混乱を招いているかもしれない。とにかく早く制御室に向かわなければ…それなのに全く進んでいないように思える。
(____あ)
意識はここで途切れた
「うーーーーーーーーーーーーーーーーん」
困った
探すとは言え宛がないままさ迷っていたところで少女を見つけることなど出来るわけないというのに…
「あのガイアとか言う人ほんとに神なのか!?にしては自由すぎるし人探しさせるにしても地図も何も渡さずノーヒントで探せってか!?無茶にもほどがあるぞ……ん?」
ぶつぶつ文句を言いながら歩いていると
自分の視界の遠く、真っ直ぐ行ったところに何か黒いものが見える。何だあれ?
近づくにつれてその正体が徐々に明らかになっていく、あれは……人!?
「お、おい大丈夫か!?」揺さぶってみるとぅぅ…と小さく呻き声が聞こえる。よし生きてるな。とにかく仰向けにしなければ
「とりあえず体起こすぞ」そっと体に触れると、そこから異常なほど熱い体温が伝わってくる。どうやらかなりの高熱を出して倒れたようだ。
―――――あれ?この子ってもしかして…
「ガイアさんいました!えーと、制御室を出て真っ直ぐ行ったところです!」俺はインカムに向かって早口で伝える。インカムを渡したのは彼女が倒れていると予めわかっていたからなのか?
「ご苦労だったな。今医療班を向かわせるからそこで待っていてくれ」「わかりました…」
改めて見てみると、確かに背が低そうだ。触れれば壊れてしまいそうな華奢な背中、心なしかやつれているようにも見える。
「ねぇ、君は」君はいつからこんなことをしているんだ?
そこに医療班が駆けつけ、あっという間に医務室に運ばれていった
どうやら彼女は極度の疲労により発熱したらしい。言ってしまえば過労である。小学6年生の女の子が過労で倒れるなんて世も末だな、などと考えていた。
「私たちも申し訳ないと思っているのだ。だが奴らに太刀打ちできるのは今のところ彼女だけでな…連日出撃させていたから疲労が溜まっていたんだろう」ガイアは心苦しそうに目を細める。
「んん…」ベッドに寝かされていた少女の目がゆっくり開かれた。
「よかった気がついたのか、ここがどこだかわかるか?」頭を撫でようとそっと少女に手を伸ばす。
が、
“パシッ”と乾いた音が部屋に響き渡った。一瞬何が起こったのかわからなかったが、コンマ一秒遅れてやってきた手の平の痛みから自分の伸ばした手が払い除けられたことに気づいた。
「な、何するだよ!?お前に何も危害を加えてないだろ!?」
少女はガバッと体を起こし「うるさい触るな!!!!」と俺に対して怒鳴った。何故なんだ…
「あぁ言い忘れていたが、彼女は極度の男嫌いでな。必要以上の会話はしたがらないんだ。触れるなど以ての他だな」「その情報遅すぎません!?てか男嫌いって何だよ!?俺、こんな奴と二人でやっていくのか?」はっきり言おう。泣いていいか?早速心が折れそうだHAHAHA
「……………女王様」
じょ、女王様と来たか…嘘だろこの女…
「この人は?」
「あぁ新しく就任したワールドディフェンダー第002号だ」
それを聞いた少女は起こしていた体から力が抜けベッドに再び倒れこんだ。
「目眩がする」と細々と呟いている。おい聞こえているぞ
「まぁこれから長い付き合いになるんだし、自己紹介したまえ」ほらほら~とかガイアが言っているがそんな空気ではない
「女王様の命令だとしてもそれは聞き入れられません」「こっちだってお断りだ」
ガイアは深くため息をついた。ため息つきたいのは俺の方だよ……デカイため息の代わりにこんなことを叫んでいた
「「もう嫌だぁぁあああああああああ!!!!」」
これが彼女、もとい五十嵐那奈との最悪な出会いであった。
「____ふむ、向こうの手駒は出揃ったようだな。」
「はい、デレリル様」
薄暗く香のような匂いが立ち込める部屋の中、男は次の葉巻に火をつけ深く椅子に腰かけゆっくり口を開く
「新しい童の方はまだ力が覚醒していないようだが、面白い。適当なやつを行かせろ。殺さない程度に遊んで良いと言っておけ」「畏まりました」
男の側にいた女は素早く部屋を出、手下に命令を下す
「おい、開発中のあいつらを放て。ただし殺すなときつく言いつけておけ」
はっ、と返事をした手下たちは一斉に駆け出した。ついにこちらも動き始める時が来たか____
「――――待っていろワールドディフェンダー。今にその息の根止めてやる」女はそう呟くとニタリと笑った