~Prologue~ 記憶、夜空に溶けて
[A.D.2014]
――――――午後10時、夜風に吹かれただ遠くの夜景を眺めている。こんな時間に一人出歩いていれば普通は警察に補導されてしまうだろうけどその心配はない。ここに人が来る気配は無いし、そもそも一般人が立ち入れるような場所ではない。東京都内、某世界一の高さを誇る電波塔の最上部、つまり634mの地点に腰かけているのだから―――――
「こんなところにいたのか、探したんだぞ」
あー見つかったかー帰らなければ…
よいしょと言いながら立ち上がる。声をかけてきた男―――夜空みたいに黒い髪、私より顔2つ分大きい背丈の少年は、おっさんかよとぽつりと呟いた。悪かったなおっさんくさくて、と一人愚痴る。
「ねぇ」私は少年――――菅崎智に問いかける。「こんなことがいつまで続くんだろう。私たちが闘ったところで一時的に落ち着きを取り戻すだけ、敵は次から次へと湯水のように湧きだしてきているんだし、キリがないし…それに…」それに、私たちが闘ったところで誰かから称賛されることはない。私たちは決して表向きには存在を明かされていない。普通の人間とは違い、高い戦闘能力と頑丈な体。ナイフで一突きされても死ぬことはない化け物のような存在…それがワールドディフェンダーである。
ワールドディフェンダーに課せられている任務はただ一つ。ワールドオフェンダーと呼ばれる存在から、この世界を守り抜くこと。
何か言いたそうにしていたが口を閉じ、何してるんだよ帰るぞーと声を掛けてきた。へいへいと返事をしながら私――――五十嵐那奈は帰るべき場所へと方向を変え、電波塔から飛び降りた。
遡ること5年前。中学1年生、まだ俺が養護施設にいた頃だ。ある日突然びっちりとスーツを着こんだ男たちが施設に訪れたことで俺の運命はガラリと変わる。黒塗りの高級車に乗せられ、連れていかれた先は政府のお偉いさんたちが秘密裏に出入りしているらしい研究所だった。迷路のような廊下を進み一番奥の部屋に通され、そこには黄色いドレスを着たどこかの女王なんじゃないかという女性が一人モニターの前の椅子に腰かけていた。
「よく来たな少年。まぁ座ってくれ」女性が腰かけている椅子の正面の椅子に座るや否や話し始めた。「私はガイア。ギリシア神話に出てくる大地の女神、原初神だ。」
…いきなり何を言っているんだこの人は。神?自分で神と言ったのか?いや確かに風格や容姿はとても日本人、この世の者とは思えないほど美しいけれども自分で神というのは何というか、随分自分の容姿に自信があるのか或いは頭のおかしい人なのか…?
「信じられぬよなぁ、まぁそうか…私も大臣に自分は神だと言ったら頭がおかしいのか?と無遠慮な言葉をかけられたからなぁ。それに神がこの世に君臨するなど現代の世界ではありえないことだし、無理はないだろうよ」
あ、自覚済なのか…と変に納得している自分がいる。
「それで、こんな孤児である俺がなぜこのような場所に?俺あなたに何かしましたっけ?」「いいや何もしていないさ。だがそうだな」一瞬俺を見る目付きがきつくなったような…
「いいか少年。今から私は君にとても残酷なことを告げよう。そしてその事に対して君に拒否権は与えられない、何が何でも受け入れてもらう」
残酷な事?何だろう、俺は人身売買にでも出されるんだろうか…
「今世界は未知の脅威に侵されつつある。奴らは通称ワールドオフェンダーと呼ばれている、何を目的としているかわからない存在だ。奴らは見境なく残虐な行為を繰り返し、これまでに確認されているだけで世界中で500人もの人間が彼らによって殺害されている。」ここまで話を聞いてきても実感が湧かない。ワールドオフェンダー?殺害?そんな奴らのことはニュースでも聞いたことがなかった。「やはりすぐには理解できぬか。それもそうだろうよ。ワールドオフェンダーの存在は世間一般には公表されていないのだからな。公表されれば世界が混乱するだろう?だからあえて公表していないのだ。そしてワールドオフェンダーには科学兵器は効かないのだ。常人離れした肉体を持ちあらゆる攻撃をも防いでしまう。現代の科学と人類の力では奴らに対抗できないのだ。」
「では一体どうすると言うんですか、科学兵器が効かない奴らに成す術もなくむざむざやられていくのをあなたはただ見ているだけだというのですか」あぁなんとなく想像がついた。俺に残酷な事を告げると言ったな。そうか、「話を最後まで…聞かなくても何となく想像がついているのだろう?そうだ。言ってしまえばお前には奴らに対抗する術を持っている。まだ覚醒はしていないがそれは時間の問題だ。ワールドオフェンダーに対抗する術を持つ者―――私たちはワールドディフェンダーと呼んでいる。」「ワールド、ディフェンダーですか…」つまりはオフェンスとディフェンスということか。「原初の神としてお前に告げる。お前はこれからワールドディフェンダーとなり、この世界を守り抜くのだ。拒否権はない。これは決定事項である」あぁ確かに残酷な宣言だ、科学兵器の効かない未知の存在に立ち向かえだなんて…だけどなんで俺なんだ?他にもワールドディフェンダーとして素質のある人はいるかもしれないのに…「心配することはない。お前以外にももう一人ワールドディフェンダーがいるのだ。彼女は既にワールドディフェンダーとして秘密裏に活動している。お前より1つ下の子だよ。」「年下の女の子がそんな恐ろしいことをもうこなしているんですか…」怖くないのか?相手は殺人に特化した存在だというのに…
「会ってみたい―――」
無意識に呟いていた。
「そうか会いたいか。では早速行こう。あぁその前に」女もといガイアは立ち上がり声高々と叫んだ。「ここに宣言しよう。ワールドディフェンダー第002号、菅崎智が就任した!また一人、希望の星の誕生である」周りにいた人たちから拍手と喝采が上がった。あぁ本当に引き返せなくなったなぁ。天国にいる両親になんて言えばいいんだ…
「来い少年、ワールドディフェンダー第1号に会いたいんだろう?」そう言いながら手を差し伸ばす。その手は亡き母のものとよく似ている。俺はその手を取り、後にその手は剣を取ることになる。
そしてこの先、ワールドディフェンダーとワールドオフェンダーによって世界は大きく変わっていくことになる。
初めまして。pixivにも掲載している一次創作小説となります(今更)
長期連載を予定しておりますので、今後もお付き合いいただければと思います