6:無実証明の真意
「扉は閉めろ」
ハジメさんを追って玄関部屋に入った途端、そう命令が飛んできた。
僕は抗うことなく素直に従い扉を閉める。
そして、魔法石にかぶさっていたタオルを取り除いている彼に質問した。
「どうして、僕の無実を説明してくれたんですか」
「俺がお前は犯人じゃないことを知ってるからだ」
一瞬も間を置くことなく、すぐに返答が帰ってくる。
でも、僕はその解答では納得しない。
「僕はハジメさんのことをよく知りません。だから、あなたの眠りが本当に浅くて、ちょっとした物音でも起きる人なのかどうか分からない。でも、もしあなたが本当に眠りが浅くて僕の無実を知っていたからと言って、どうしてそれをみんなの前で証言したんですか。僕の無実を証明することはあなたにとって有益ではないはずなのに」
ハジメさんの発言は僕にとっては嬉しいものでも、ハジメさん自身にはあまり喜ばしくない展開のはずだ。今この中でエルフさんを殺した人物として真っ先に疑われるのは、部外者である僕とハジメさんの二人。それこそ、誰が見ても明らかという証拠でも見つからない限り、僕たち二人以外に疑惑の目が向くこと自体がほとんどないはずだ。
なのに、ハジメさんは僕の無実を語ってみせた。
言ってみればこの行為は、エルフさんを殺したのは自分だと宣言しているようなもの。本来なら僕にも向けられるはずの怒りと疑惑の視線を、一身に受ける行為。
僕とハジメさんの間に貸し借りなんてあるはずもなく、助けてもらう筋合いなんてない。
単に善意から救ってもらえたのだと思えるほど人の良くない僕は、その真意が気になってしょうがなかった。
「ふん。何を企んでる、と言いたいわけか」
「はい。あなたが考え無しに自分の立場を危うくするような人には見えませんので」
今度はすぐには答えず、焦らすようなゆっくりとした足取りで外へ通じる扉の前に向かって行き、座り込む。
「企んでいるというほどのことではないさ。お前の無実を証言しておけば、これからも他の奴らの部屋に気軽に話に行けるだろうと考えただけさ」
「それはどういう……。いや、そういう事ですか」
完璧にではないがハジメさんの考えはつかめた。
要するに、僕に真犯人を探す手伝いをしろと言いたいわけだ。無実である可能性が最も高く、皆から警戒されなくなった僕に、事件についての調査・聞き込みをしてこい、と。
納得すると同時に、やりたくないという気持ちが込み上げてくる。
たとえあの中に犯人がいるとしても、犯人以外の人は皆エルフさんの死を悼み、悲しんでいるはずである。そこに無実の可能性が高いからと言って、部外者の男が無遠慮にアリバイやら何やらを聞きに行ったらいい顔をされるわけがない。最悪激怒されて殺される可能性だってあるかも。
僕が心中でビビり始めたのを察知したのか、ハジメさんは懐の刀に手を伸ばした。
「……別に、今すぐ話に行く必要はないですよね」
「今日中には話を聞いてこい」
何とかギリギリの恩情はもらえたようだ。
今回の件、ハジメさんが犯人だと思えない僕としても、やはり真相は気になるところ。下手な動きをして犯人に目をつけられたくはないが、できる範囲での協力は惜しまない方向で行こう。