1:逃亡の女王
天空を漆黒に染める巨大な雲。大地には光が全く差さず、その代わりに突き刺さるような鋭い雨。立つこともままならないほどの暴風。鳴り響くのをやめない稲妻。
誰もが外に出ることを拒むような悪天候の中、わき目も降らずに森の中を突き進む一団が。
彼らの表情は一様に疲れ切っており、幽鬼のような顔つきで一心不乱に走り続けている。また、その一団は非常に特殊な人種で構成されていた。
身長が三メートルを超えるほどある巨人。
茶色い鷹のような羽をはやして空を飛んでいる有翼人。
小さな体に、トンボのような翅をはやした妖精。
尖った耳と褐色の肌をもつダークエルフ。
大きな耳に丸っこい黒い鼻、鋭い牙を持った獣人。
腰に細長い刀をぶら下げた侍。
豪雨の中でも全く美しさが色あせることのない、美麗な白い肌に豪奢なドレスを着飾った女王。
雨でびしょびしょに濡れた鎧を纏った人間。
普段ならそうそう見ることのない組み合わせ。いや、それ以前に、こんな嵐の中を一国の王女が走っていることがあり得ないことなのだが。
誰一人無駄口をたたかず、目的の場所まで突き進んでいく。
そして、彼らの体力が限界へと行きつく直前、ついに目的地である一軒の館が見えてきた。
「あと一息です! もう少しだけ頑張ってください!」
女王のすぐ前を走っていたダークエルフが、雨に負けないよう必死に叫び声をあげる。
疲れのためか誰一人として返事をすることはなかったが、彼女の声は確かに届いたのだろう。最後の力を振り絞ってか、一段と彼らの歩みは速くなった。
そして、先頭を走っていた獣人がついに、目的の館の扉を開けた。
開いた扉の中に、ダークエルフを先頭にして全員が飛び込んでいく。唯一巨人だけは、体の大きさから一度立ち止まり、ねじ込むようにして扉を潜り抜けていたが。
全員が無事館の中に入ったのを確認すると、獣人は素早く扉を閉じ、鍵をかけたのだった。