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12:ありえない仮説

「また来たのか。お前も懲りない奴だな」

「すみません。まだいくつか聞いておきたいことがありまして」

 ピクシーと一悶着起こしつつ、何とか左部屋へとたどり着いた僕は、ホークさんからの呆れた視線にさらされていた。

「今はウルフさんいないんですね。もしかしてハジメさんの尋問にでも行ってるんですか?」

「いや、一人になりたいらしく女王様の部屋を借りに行った」

「まあ二人も仲間が殺されたんだから、一人落ち着いて考える時間が欲しくなるのは当然ですね」

「それで、俺に聞きたいことはなんだ。もし用事がウルフにあったのならさっさと出て行け」

「いえ、元からホークさんに用があったので大丈夫です」

 それにしても不思議だ。仲間を容赦なく殺せる殺人鬼が相手かもしれないのに。そうでなくとも僕を一瞬で殺せるほどの相手を前にしてるのに、こうも落ち着いていられるなんて。この館が持っている異常な空気にでも当てられて、だいぶ頭のねじが緩んだのか。それとも、ふと思いついた馬鹿らしい仮説(・・・・・・・)を真実だと思っているからか。

 分からない。どちらにしろ、今はホークさんの話を聞くのが先決だ。

「昨日護衛団の皆さんは全員トロルさんの部屋に行ったみたいですね。何か用事があったんですか?」

「単に食料を取りに行っただけだ。大した理由はない」

「えと、水と食料なら僕が渡したと思うんですけど、あれは……」

「他人から貰ったものは口につけない主義だ。基本的にありとあらゆる毒をウルフは見分けられるが、用心に越したことはないからな」

「それは僕が毒を盛ってるかもしれないと疑ってたってことですか。まあ、僕が宰相の刺客である可能性もあるにはあるから仕方ないですね」

「別にお前がという話じゃない。本人に悪意はなくとも気付かずに利用されている場合だってある。それより、さっさと本題に入れ。俺たちがトロルの部屋に入ったからなんだというんだ」

 相変わらずホークさんの言葉は性急だ。考えながら話してるとちょっと間に合わなくなる。僕は頭をかいて動揺を誤魔化す。

「いえ、その時に何か怪しい動きをしている人はいなかったのかと思いまして」

「俺は一人で取りに行ったから、他の奴が何をしていたかなんて知らん」

「そうですか。じゃあ、誰が一番疑わしいと思ってますか?」

「何?」

 眉間にしわを寄せ、目を瞑って考え込む。

 すでに彼なりに犯人を思いついているかと思ったが、そうではないらしい。護衛団の中でも特に冷静にこの場を睥睨していた彼の目に、最も怪しく映った人物は誰なのか。その答え次第では僕の考えもより確かなものに――。

 ゆっくりと目を開き、ホークさんは射殺さんばかりの鋭い目で僕を見据えた。

「俺が一番疑わしいと思ってるのは、お前だ」

 ――成る程。そう来たか。

 高鳴りだした心臓を深呼吸して落ち着けると、できるだけ平静を装って尋ね返す。

「それは、何の冗談ですか? エルフさんもトロルさんも、僕では殺すことが不可能なはずですよ。自分で言うのもなんですが、僕が一番犯人から遠い人物だと思うんですけど」

「方法は分からん。だが、お前はこの状況に適応しすぎている。周りには自分よりはるかに強い人間ばかりで、しかもそいつらを殺すことのできる殺人者まで紛れ込んでいる。そんな状況にもかかわらず、こうも堂々と事件について話を聞きに来て、一切臆する様子もない。お前は俺たちが知らない能力を持っていて、それが故にそこまでの余裕を保てるんじゃないか。そう疑っている」

「二人を殺すことができたのも、その隠して持った能力のおかげであると。それって凄く厄介な答えですね。無能力者であることを証明することって、できませんからね」

「ああ。だからお前はこれ以上余計な動きはせずにじっとしていろ。一度にトロルとエルフを殺さなかったことから、決して無敵の能力ではないのだろうが、それでも警戒するに越したことはない。もしお前が自身を犯人でないとするのなら、今後は玄関部屋にて侍と共にずっと待機していろ。この警告を無視するようなら、俺は容赦なくお前を切り刻む」

「……分かりました」

 僕は素直に頷くと、ハジメさんのいる玄関部屋へと戻ることにした。

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