10:睡眠大事
「ずいぶんと長い間話し込んできたものだな」
「すみません。ピクシーさんに絡まれてて予想外に時間を取られました」
「別にそれはどうでもいい。それより、奴らと話して判明した事実を早く教えろ」
「分かってます。でも先に水分補給だけさせてもらいますね」
もらってきた食料と水の半分をハジメさんに渡してから、自分の分の水を少量飲み下す。まだまだ予備はあると言っていたが、限りがある以上慎重に飲むのがベストだと思う。
そうしてのどの潤いを満たすと、できるだけ要点をまとめつつ聞いてきたことをハジメさんに話していった。
特にハジメさんが食いついたのは、護衛団の能力について。僕が話し終わると同時に、説明されたことをなぞるかのように呟いた。
「女王、使えるのは転移魔法だけ。ただの雑魚。
エルフ、使うのは変身魔法。ただし大きさや性質までは変えることができない。
ピクシー、使うのは影魔法。自身の影を自在に動かし実体化させることも可能。さらに影の中に物を収納可能。ただし生き物は収納不可能。
トロル、頑強な体と怪力の持ち主。ただしこの館は壊せない。
ウルフ、鋭敏な嗅覚の持ち主。どんなに些細な匂いでも嗅ぎ取り、さらに嗅ぎ分けることが可能。ただし魔法が使われたかどうかまでは察知できない。
ホーク、風魔法の使い手。手を触れずとも風を利用してものを動かしたり切り裂くことが可能。この館全体が奴の効果範囲内。
モブ兵士、何もなし。
やはりこうしてみると魔法を使えるものが厄介だな。仮に魔法を使って殺人を犯していた場合、それを立証するのは酷く難しそうだ」
「モブ兵士って、僕だよね……。何もなしはさすがに傷つくんだけど……」
確かにこのメンバーの中でいったら僕には特筆すべき点なんて何もないけど! でも何もなしって言うのは流石にどうかと思う!
抗議を含んだ目で細やかに睨み付けるも、当然のように無視される。
「だが、状況を考えるなら犯人はピクシーかホークだな。魔法を使いでもしない限り一度は部屋を出ないといけない。が、部屋を出るということは同室の相手にばれる危険が高い。わざわざそんな危険を冒してまでエルフを殺しに行くというのは……。いや、待て。エルフの方から尋ねに行った可能性も……」
完全に長考モードに入り、僕の事なんて眼中から消え失せてしまったらしい。ここは彼の呟きを聞いて、僕自身もじっくりと推理するべきか。それとも取り敢えず食事休憩にするか。
数秒悩んだのち、僕は食事を摂ることにした。
包装されていた紙をはぎとり、中の干し肉を一口。
……旨い。トロルさんの言ってたことは嘘ではなかった。
途端に強い空腹を覚え、夢中で乾パンその他も食べつくすと、再度眠気が。朝はウルフさんにたたき起こされたし、まだ脳が眠りを欲しているらしい。
ハジメさんは今も一人思案中のようだし、もうひと眠りさせてもらおう。
僕は寝袋の中にごそごそと体を入れると、あっという間に夢の世界へ潜っていった。




