SIDE 優夢
ーーーーお前の力を目覚めさせよう
喜ぶがいい、女。これこの瞬間よりそなたは人間を凌駕するーーーー
ーーーーお前の属性は・・・『重圧』だーーーー
その言葉を最後に、それまでの私は死んだのだと思う。
私は文字通り、『重圧』に苦しめられた。体は無性に重く、気だるく、自分の物では無い様に思える日々がどれほど続いただろう。
男はこうも言った、「その衝動に耐えられるか?」と。私はその時、やっとその意味が解った。この苦しみ、胸を焼く焦燥、体中を蠢く疼き、この全ては衝動に抗う対価なのだ。私は抗い続ける限り苦しむ。私が『潰したい』と言う衝動に抵抗する限り私は悲惨な思いをする。
どうしてこんな思いを?
一体誰の為に?
そもそも私は何故我慢をしている?
誰かを傷つけてしまうから?
痛い思いを、苦しい思いをさせてしまうから?
殺してしまうから?
でも、そんな事は私に関わりのないこと。
私は私の為に生きてる。
誰にも遠慮しないし『誰かの為に』とか興味ない。
なら、やっぱり我慢する意味はないよね?
だって、このままじゃ痛くて、重くて、辛くて、苦しくて。
食べた物は吐き出してしまうし、寝ように眠れないし。
満足に人でさえいられない!
そんな私は、あれから一週間ほどで随分と堕ちた気がする。
容姿端麗?頭脳明晰?清楚でお淑やか?そんな古い私はどこかへ消えていった。
私は夜な夜な家を抜け出し、気が付けば今までなら避けていただろうガラの悪い男たちとタバコを吸い、酒を飲み交わしていた。興味本位でクスリにも手を出して、それはもう荒れ果てていたと思う。我慢する必要なんて無い、我慢する必要なんて無い。そう自分に言い聞かせるように私はどんどん堕落していった。
そのうち学校にも行かなくなって、夜だけの付き合いが昼夜問わずなものになった。ゲームセンターに入り浸り、カラオケで酒を飲みながら歌って遊んで、それだけで最初は衝動の発作は誤魔化せてた。でもだんだんそれも誤魔化せなくなってお金もなくなって、気付けば援助交際までやって遊びの金を稼いでいた。誰彼構わず咥えもしたし、腰も振った。初めてが誰だったかさえ覚えてない。人数なんて四十人切ってからは数えるのが馬鹿らしくなった。
それでも一線岳は越えたくなかった。殺人だけは犯せなかった。それだけは堕ちるところまで堕ちた自分に架した最後の砦だった。学校の誰一人知らない私の変貌。春樹くんはきっと今だに私を清楚で清らかな処女と信じている。両親はお淑やかで頭脳明晰と疑いもせず褒めてくれる。でも、私は恋人も家族も、大切なものすべて裏切ってしまった。この最後の砦を守る事はある種の償いだったのかも知れない。
でも、やっぱりダメだった。
結局のところ、私はその衝動に抗えなかった。初めての殺人はいつもウザいと思っていた西高の奴。されそうになったレイプ自体はもう気にもとめていなかったけど、コイツなら別にいいやと思った。路地裏に連れ込まれたのは好都合だったのだと思う。
私を壁に押し付けながらベルトを外していた時、私は奴に能力を使った。加減が分からなかったから、一気にグチャッて。それでアイツは死んだ。血だまりだけが広がって、辛うじて残っていた間抜け面が真っ赤に染まっていた。何が起きたのか分からないと言う表情。本当に滑稽だった。人間ってこんなに簡単に壊れちゃうんだなって唖然とした。でも、罪悪感とかそう言うのはなかった。代わりに自分にのし掛かっていた#重圧__枷__#が外れて自由になった気分。本当に気持ちよくて、もうシャブもチョコも可愛いくらい。それこそ、誰と寝てもこんな快感は味わえないと思う。
それから暫くは普通でいられた。学校へも行ったし、春樹くんの彼女も、清楚で清らかな相川優夢を演じる事が出来た。普通に笑って、勉強して。でもそれも数日で逆戻り。私は、結局殺し続けなければ人間性が保てない。
「おい、何かやばい音しなかったか?」
「ああ、さっきのガシャーンってやつ?」
「ねえ何これ停電?怖いんだけどぉ」
「おい、これ血じゃねえのか?」
「まじかよ、救急車!救急車!」
「う、こっちはもっとひでぇぞ!」
どうやらやっと気付いたみたい。少々感慨に耽っていた私は野次馬が来ると同時にその場を去る。そう、これは私が人間足り得えるために必要なこと何だ。お腹が空けばご飯を食べるし、眠い時はベッドで寝る。それと全く同じなの。だから、ごめんなさい。でも、悪く思わないでね。生駒君。




