ハニートラップ
相川優夢はここ最近素行が良くなかった。と言うのも学校へは来なかったし、どうも悪い噂が絶えなかった。二股、援交、ヤンキーや不良とつるんでいるなどだ。
もともとは学校でも選りすぐりに清楚系美人で眼差しも慈愛に満ちていた。いつもニコニコしていて男を虜にしていた。実際、入学当初は彼女の事で男子の話題は一色に染まっていた。
そんな彼女は最近いつも男をぞろぞろと引き連れている。とはいえ、容姿端麗で頭脳明晰、清楚で美しい彼女なら当たり前と言えば当たり前だ。
最近では滅多に学校にも来ない相川優夢が今日は学校に来ていた。俺はこれを好機に相川優夢を尾行しようと思う。いろいろ探りを入れたがどうも彼女はガードが固く、肝心な部分は何一つわからなかった。ストーカーを実際にした泉巧希にも聞いたが慌て蓋めきながら知らないと訴えるように連呼する。まあ、流石に不謹慎だった事は認めよう。そういうわけで俺はとうとう尾行以外の手段が無くなったわけだ。
今日は尾行決行の日。流石に思い立ってすぐはやらなかった。尾行を軽く練習してからやった。
これは思わぬ収穫だったが、どうも尾行に俺の技能は有用らしい。属性は『闘争』と『順応』。うちの『順応』が思わぬ効果を発揮した。俺は"尾行"と言う状況に"順応"するというイメージを浮かべながら尾行をした。効果があるのかその練習対象は一切気にした素振りをしなかった。ふと十字路を見ると、俺はミラーに映っていなかった。あの時は驚いて声も出たが依然、練習対象は気づかなかった。俺の『順応』は便利なステルスとしてその効果を発揮したのだ。これは行ける!そう確信した。
相川優夢は彼氏の大門春樹とではなく三年の先輩と帰っていた。俺はすでにステルスを発動し真後ろをついていった。三年の先輩も気付いていない。これは実践でも能力が使えた瞬間だった。ほんのささやかな高揚感が胸を満たしていく。
電車に揺られてはや二、三駅。割と都市部の繁華街で相川優夢は三年の先輩を連れて降りた。改札を出ると二人は見るからに柄のワルそうな男と合流した。その男も俺には気付いていないらしい。長身の華奢だが引き締まった体つきをしていていわゆる細マッチョだった。腰パンにジャラジャラとアクセサリーをぶら下げた装いは控えめに言って"チャラい"感じだった。こんな"チャラ男"と清楚な相川優夢がつるむと知ったらおそらくクラスの男子は三日三晩は寝込むだろう。すると三年の先輩は手を振りその場を離れる。どうやら取次ぎ役のようだ。三年の先輩と入れ替わりで現れたこのチャラ男が相川優夢の本命らしい。
二人は先ずショッピングモールへ行っていた。取り留めのない会話をしながら男を服やら小物やらの店で連れ回す。相川優夢は食い入り、舐め回すように商品を凝視して店と言う店を徘徊するが結局何も買わずに新たな店へと移動する。これは流石に俺も男に同情した。こんなにもつまらなく価値を見いだせない事はない。
店徘徊が一段落すると今度はどうやら飯らしい。割と普通のファミレスに入ると二人は少し談笑したあと何かを頼みそして談笑を再開する。俺は順応を説いて店に入り相川優夢の死角になる席でドリンクバーだけを頼んで凌ぐ。聞き耳を立てるとやはり取り留めのない会話を紡いでいた。
ファミレスを出ると二人は遂にホテル街へと向かった。最近のラブホテルは自動受付や店員が目を瞑るパターンが多く、制服を纏った女子高生が入ったり、未成年どうしで入っても問題なく事を進められるらしい。チャラ男は相川優夢の腰に手を回して目先のラブホテルへと歩をすすめる。あからさまに破顔するさまは童貞かと思うほどだった。
だが、俺はその光景を素直に羨ましくは思わなかった。男子高校生連続殺人事件は決まってホテル街の路地裏、そう、犠牲になっている男子高校生たちは#こう言う所__・・・・・__#で亡くなっているのだ。そしてこの流れで言うと、もし、犯人が相川優夢ならば、彼女はラブホテルをスルーするはずた。
実際、ラブホテルを相川優夢は通り過ぎる。俺の疑惑は確信に変った。
「入らねーのかよ?」
「ううん、私ね、外の方が好きなの。ダメ、かな?」上目遣いで言う相川優夢。男は最後の理性を削ぎ落とされる。
遂に路地裏へ入り込んだ相川優夢と男はしばらくの間、恋人のように愛撫し合う。俺は段々殺らないで終るのではないかと思った。
だが、それは杞憂だった。なんの前触れも無く男は一気に地面にストンと崩れ落ち腰骨を前に、上体は起こした状態にされる。誰が見てももはや絶命していて夜空を仰ぐ姿は無様そのものだった。弧を広げていく血だまりは排水口で途切れる。
やめろ!叫んで守るつもりだった。うまく行くはずだったのだ。だが相手は手馴れていた。俺より更に上手だった。うっとり蕩けるように火照った、耳まで桜色の相川優夢はさも大事そうに男#だったモノ__・・・・・__#に問いかける。
「あれ?もうこわれちゃったの?これからが本番だったのに~」血溜まりに座り込み語りかける。その光景はどこか吐き気を模様すものだった。しかし、驚愕すべきはその後だったのだ。
「それにしても、今年は妙にストーカーが多いのね。そうは思わない、生駒君?」




