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崩れ行く常識(せかい)part2

ここからは龍臣も動きます。いつまでもメソメソさせるつもりは毛頭ありません!

崩れ行く常識(せかい)part2


ーお前の属性は『闘争』と『順応』だ。

ー精々その衝動に呑まれぬ事だ。


 あの男の言った言葉。闘争と順応。衝動に呑まれぬ事だ。ジンジン痛む(かぶり)を押さえ、目を見開き最後の理性で考える。

...闘争順応呑まれぬ事だ闘争順応呑まれぬ事だ闘争順応呑まれぬ事だ闘争順応呑まれぬ事だ闘争順応呑まれぬ事だ闘争順応呑まれぬ事だ闘争順応呑まれぬ事だ闘争順応呑まれぬ事だ...

 疼く...何が疼く?体が疼く。殴りたいと、蹴り潰したいと、殺しあいたいと...それこそ、闘争だ。

 この衝動を受け入れてしまいそうだ...当然だと、必然だと...これは、順応?

「なら、やっぱりダメだ。」

口元が吊り上がる。目を閉じれば無数の相手(ひょうてき)。体の力を抜く。眼前の相手に一歩、また一歩と近ずく。鼓動が高鳴り心臓が爆ぜかける。体の疼きは沸騰した水の如く湧き上がり理性を蹂躙する。一歩、また一歩、もうあと少し、瞬き一つで、手を伸ばせば、あとは本能(しょうどう)のままに...

そして、俺は素通りする。そうさ、殴れば、蹴れば、俺は楽になれる。本能に従順に、思うままに生きて、欲するままに貪り、飢えるままに喰い散らかす。

 きっとそれは楽で、愉しくて、とてもとても素晴らしい。...でも、俺は嫌だ。それでは獣だ。自然に逆らう事なく生きて行くのはとても簡単だ。だけど俺は人間だ。この抵抗は、人間(ひと)だからこそ出来た偉業だ。人間であることを捨てなかったからこそ、ここで踏み止まったからこそ、俺は人間でいられる。


 疼きは...もう、無い。


 屋上の事を思い出した。人はもとより言うに及ばず、如何なるものも『美しい』モノには惹かれてしまう。美しければ美しいほど惹かれていきいつかはそれに触れたく、触れたあとは一つに成りたいと思ってしまう。その感情が多ければ多いほど(りせい)は塗りつぶされいつかは溢れかえり、最後は敗北してしまう。しかし、龍臣の理性は硬かった。塗りつぶされ、蹂躙されようとお構い無しに衝動の足を掴み最後はねじ伏せる。そんな忍耐を持った龍臣だからこそ寸での所で立ち止まる。もう、龍臣はその衝動に呑まれることは無い。

 時間を見るともうバイトの支度の準備に入る時間だ。バイト先は居酒屋『ちどり』。主に接客と厨房、そして荷運びを任されている。部屋着から動きやすい服装に着替えると小走りで『ちどり』へ向かう。

「すいません、遅れました!」元気よく裏口から飛び込む龍臣。そう、2分ほど時間オーバーだ。

「おっ?遅刻なんて久しぶりだねえ、少年?さてはデート帰りか?はー、若いねえ!」どてらを着てストーブの前で体育座りをしながら布団を被りホットミルクを啜るこの女性はここの店主の夜鳴ネコ(よなきねこ)さんだ。驚く事に名前は本名でアダ名ではない。名前負けもせずいつもぐーたらでのほほんとしているが店頭に一度立てばそこいらのカウンセラーなんか屁でもないほど完璧なお悩み相談をする。感謝状まで来るほどだ。

「な、ふざけた事言わないで下さいよ、ネコさん!」さすがに否定はする。いらぬ誤解は招きたくない。

「えー、先輩付き合ってたんですか!?」容姿端麗、童顔でポニーテールがやけに似合ううちの看板娘、三宅唯(みやけゆい)だ。人懐っこく可愛らしいが大抵ネコさんとグルで俺をいじる。困った事に俺は、こんな変なバイト仲間といる時間が大好きだ。「先輩なんて天涯孤独の身かと思ってました」目をまんまるにして驚く唯。すかさずネコさんも「優男、ひゅー!ひゅー!」なんてふざける。そんな時間がこれから十時まで。

「それじゃあ、さようなら!」

「うん、バイバーイ」

 ちどりを出ると唯を家まで送る。さすがにこんな時間に女の子一人じゃ物騒だ。

「先輩、この辺でいいですよ?私大丈夫ですから。」

「そんな事言ってられるか。お前、女の子何だぞ?そう言うのしっかり意識しないと。」

「...先輩、お体、大丈夫ですか?」

「な、何だよいきなり?俺はピンピンしてるぞ?」

「今日...遅刻してきたし、お顔、真っ青だし、グラスも割りかけてたじゃないですか。」

「!?、い、いや、あれは...そう!お前もネコさんもいじるから!えっと、テンパってたって言うか...」

「嘘です、先輩。無理しないで休む時はしっかり休まないとですよ。」

うぐ、言葉が出ない。いつもふわふわした唯はこう言う事に限って妙に鋭い。

「あの、ちゃんと食べてますか?しっかり寝てますか?夜遅くまでゲームとかバランスの悪い食事は健康を害するので、その、あの...」唯は俺の襟を強く握り爪先立ちで訴えるように言葉のマシンガンで畳み掛ける。

「大丈夫、俺は平気だ。心配してくれて、ありがとな。唯」軽く頭を撫でる。この娘はとても優しい娘だ。だからこそ言えない、俺が心配させたりしちゃいけない。第一、年上の俺が後輩に世話かけるなんて本末転倒だ。

「もう、そんな事言われたら...お世話の一つも出来ないじゃないですか。」顔を赤らめて何かを言う唯。後半は良く聞こえなかったが言い含められたようで何よりだ。


 その後、唯を家まで送ると自分のアパートに急ぐ。

「うまく抑えているようだな、少年。」重苦しくのしかかる声、聞き間違える事はない、あの男だ。全ての元凶の、黒い男。

「お前!何者だ、どうして俺にこんな事をする!お前はなんなんだ!」

「私の事はビショップと呼ぶがいい。フフッそう身構えるな。私はお前を開放しただけだ。内なる願いを開放した、それをどう使おうと私には関わりの無いことだ。私は拙い、魔法使いだよ。」

「お前、いや、ビショップ。なら、俺を元に戻せ!」

「それは叶わぬ相談だな。私に出来る事は開放するだけだ。まあ何より、これで一般人に戻られれば私が困る。」

「この、人をなんだと思って!!」思わず叫びビショップの顔面に拳を叩き込む。だが、可笑しい。非常に可笑しい。距離は五メートル程度離れていて突きが当たる距離ではない。なのに、俺はこの刹那で距離を詰めビショップの顔面を殴り飛ばしていた。ぐちゃぐちゃに潰れた頭部からは脳味噌がぼたぼたと溢れ、おびただしい血液と合間って龍臣に付着した返り血とビショップの骸を結ぶ奇跡になる。

「おお、怖い怖い。目覚めたばかりとは言え若さも合間って、からかうのも命がけとはな。クククッ」

「待て!どこだ!どこにいる、出て来い!ビショップ!!」

「若造が。あと数倍マシになってから出なおして来い!」


 誰も通らない深夜の道路、クモの巣状に罅割れたコンクリートの上で龍臣は叫ぶ。


 返事は無かった。

とりあえずヒロインって必要ですよね。やってみたかったこういうシチュ|(おい!)

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