崩れ行く常識(せかい)part1
今回は龍臣の変化についてのみの言及に成ります。戦闘とかはもう少し後ですね。それでも読んでいただければ幸です。
第一章 崩れ行く常識
熱くて、寒くて、焼け死にそうで、鳥肌が立ち、何度も吐いて、それでも屋上を降りると、いつもの景観に戻った気がした。
依然、胸に渦巻く焦燥感も、腹綿を煮え繰り返す不快感も、脳が蕩ける頭痛も収まらないが、それでも戻って来たと言う安堵感が足に力を込める。
家に帰り着いた時、真っ暗な居間に灯りも灯さず、夕飯も作らず、制服さえ脱ぐ気になれなかった。傀儡人形が糸を切られたように、そのままフローリングに突っ伏すと、意識は直ぐにプツリと途切れた。
夢を見た。真っ黒な空間に俺は立っていた。何処までも黒く、深く一寸先も何も見えなかった。ただ、予感だけはあった。体が疼き、とても軽かった。心は高揚し、"痒い"とさえ感じた。頭ではさっぱりだが体がわかっていた。
来る、
あと少し、
ほんの数秒、
そう、あと、瞬き一つで...
口元は歪み、滴る涎を舌が舐め戻す。微かに唾液を啜る。
それをゴングとばかリに振り返りざまに横薙ぎの手刀で何かを引き裂く。
跪く巨体に虚空を舞うロングヘアの生首。見違える筈が無い、それは大門春樹だった。
空中でそれをなれた手つきで捕まえる。ボールのように実にナチュラルに。
恐怖か。驚愕か。それともそれすら訪れなかったのか。実に間抜けなデスマスクは万力のような腕力で押し潰される。脳髄や目玉が零れ落ち、何処にそんな量があったのか、大量に血が音を立ててバケツをひっくる返したような勢いで地面にぶちまけられる。
違う、こんな感覚を、俺は知らない。
こんなにも気持ちよくて、
こんなにも清々しくて、
開放的で、
爽快で、
満たされていく。それでいて更に求めてしまう。抗い難い快楽。
「もっと、もっとだ!もっと、もっと!!」
俺はいったい何を言ってるんだ?
湧き上がるイメージは全て人間。よくも悪くも一度は関わったであろう知人ないし、友人。それらを狂気に呑まれ衝動のままに殺戮していく。爽快で、背徳的で、禁忌が故に惹かれるそれは、まるで初めて自慰を覚えた中学生が盛りついて理性を忘れて利き手を濡らし続けるような。この殺戮はそんな無邪気ささえ孕んでいた。
体は依然、言う事を聞かず。盛りついて返り血に濡れながら悦びに打ち震える。
と、唐突にそれは終了した。固定電話に着信音が。時計は既に十二時を回っていた。固定電話を見ると留守電が入っていた。だいたい内容は想像がつく。 「「生駒?何をしている、遅刻だぞ。さっさと学校へ来い!」」
「「生駒?お前、サボってるんじゃないだろうな?サボってたら先生怒るぞ?」」
「「生駒!お前、大丈夫なのか?調子悪いなら無理すんな。でも連絡くらいしろ!」」
...あの人らしい。思わず苦笑する。相手は案の定、熱血体育会系教師の我らが担任、暁月望先生だ。
「「もしもし、二年、生駒です。...はい、まあ、熱が、ありまして。大丈夫です!明日は必ず行きます!...はい、はい、はい、では、失礼します。」」
お決まりの言葉を並べる。 暁月先生はさも心配そうに「見舞い、行こうか?」なんて言ってて正直焦ったけど何とか言い含める事が出来たらしい。俺は取り敢えず制服を脱ぎ部屋着に着替える。困った事に空腹感などは無く、その代わりに全身の奥底から湧き上がる疼きがあった。痒みのような感覚だがかいても一向に治る気配が無い。「気晴らしに、テレビでも見るか。」リモコンの電源ボタンを押し一呼吸置くと薄くて広い液晶にはちょうど食レポをしていたアイドルグループの人気メンバー?が写っていた。困った事に俺はアイドルグループなんてもんに興味はない。
...なのに、この映像には釘付けになった。疼きはより一層激しさを増し、知らず、俺は手足が痙攣し、歯軋りが止まらず、目をギョロギョロ充血させてアイドルグループの女の子を食い入るように、齧り付いて離さないように、食レポが終わるまで凝視していた。
これじゃ、まるで獣だ。俺の場合、何故かボコボコに叩きのめしてやりたいと思った。恨んでいる訳じゃない。好きでも無いし嫌いでもない。本当は誰でもいい、そこいらの杖付いた爺さんでも、コンビニ店員の同年代のバイトさんでも、それこそ、アイドルだって構わない。
ーーああ、どうしてこうなった?誰か、誰か止めてくれ...
書いてみたらなんか長くなりましたので残りは次回です!次回こそは龍臣をもうちょいかっこよく!




