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プロローグ

こんな事は望んでいなかった。

ただ、涙して欲しくなかった。

この自分が幾許かの力になれるなら。

こんな力で守れるのなら。


そう信じて走り続けた盲目の男の話、夢であればどんなにいいだろう、そんな現実の話です。

プロローグ



初投稿です。要領がまだ掴めないのでご意見あったらお願いします。





 どうしてこうなったのだろう、俺は今、廃墟になった町のど真ん中でただ茫然としている。

 

  こんなはずではなかった、

  こんなことは望んでなんかなかった、

  こんな滅びだけは嫌だったから、

  こんな終わりだけは避けたかったから、

  今まで傷ついて足搔いて命を懸けていたのに...


 ああ、もし許されるのなら、こんな結末が回避できるというのなら、どんなに俺は救われるだろう。俺は器じゃなかった、俺は努力なんかするんじゃなかった、いつまでも半端者の俺は、

――――正義の味方になんか...なれなかった...


 そんな感慨とも後悔とも知れぬ想いに耽りながら、俺はいつまでもひび割れたコンクリートに跪いて頬を濡らしていた。眼下には辛うじて読める止まれの文字が、仰げば曇り空が一切の陽を通さず『終わり』だけを掲げていた。




 朝、無機質で逆に妙に柔らかな「ピピーッ、ピピーッ」という機械音と共に目が覚めた。枕元の携帯電話を不機嫌な仕草で取り画面を見ると6:30ぴったりをデジタル様式で液晶が表していた。12月15日...月曜日、そんなことを譫言の様に呟くと霧掛かった視界を目をこすって正し勢いで起き上がる。こうでもしなければベッドの中は暖かくて、気持ち良くて、外は寒くて、まだまだ眠くて本当にそのまま二度寝してしまいそうだ。

 俺こと生駒龍臣(いこまたつおみ)は高校二年、ごく平均的な年頃の少年と自負している。成績は中の上、運動はそうでもない。特に球技はまっぴらだ。とか言いながら今も朝の日課で軽い筋トレをしている。腕立て、腹筋これを30回づつ、最近になってやっと効果を実感しはじめる。父親の影響で剣道、柔道、少林寺拳法など多くの武術もやっていたためか筋トレの習慣や形の練習は抜け切っていない。

 尤も、父親も母親も家には居ない。割と最近、ほんの2年前の電車脱線事故でどっちも死んじまった。だから今の俺の保護者は遠い親戚の教会の坊さんをしている"ミカエル"とか言う人物らしい。このアパートで俺の生活費を出してくれている。俺はバイトで食費と小遣い稼ぎをしてる。

 朝食は決まってる、昨日の夕飯の残りである野菜炒め、目玉焼き、そして白いご飯、いつもの味を機械的に口に運ぶ。テレビの画面の角に表示された時間を見ながら口いっぱいの料理を雑にお茶で飲み込み、ネクタイを締めストーブを足で消すとブレザーを羽織りながらバッグを取る。外は寒くて、冬の朝はほんとに無表情だ。それはまるで心を失ったように我先にと駅へ向かう人々の表情を空に投影したみたいで、それがまた妙に寒い。悴む指でイヤホンを耳に挿すと無機質で無表情のまま、俺はほんの少しだけ色の滲む道を駅へと急いだ。


 ガラッ

 教室の戸を開く。ケータイしてたり、取り留めもない談笑をしていたであろうクラスメイトの目線は龍臣に集中する。それは針のように、剣のように、とにかく龍臣はいい気分はしなかったであろうモノ。

 龍臣はこのクラスで反感を買っていた。何も悪い事をした訳ではない、一般的には。だが、このクラスではそれは悪い事だった。もう長い事クラスでとある制裁を受けていた少年、泉巧希(いずみこうき)自業自得でいじめを受けていた。それは、余りにも身に余る凄惨なもので龍臣は到底見過ごせないものだと感じたのだろう。しかし、この手の話は教師にしても意味が無い。教師の眼前でさえ行われるソレはもう学校の常識と化していて誰も止めようとはしない。いじめの内容は実に多彩だ。土下座させられて土足で踏まれることもあれば単なる集団リンチの時もある。

 では何故龍臣が反感を買っているのか。巧希をこの様にいじめの標的たらしめる理由は巧希の入学直後の素行にある。巧希は出来心でクラス一の美少女、相川優夢(あいかわゆめ)のストーカーをしていた。とは言え、実質ただ下校中の電車で一回横顔を盗撮しただけなのだが。それを餌に「バラさない代わりに...」と言う要領でいろいろな事をされたのだった。気の弱く華奢な巧希は逆らえず実に四月から十月まで一方的にやられていたのであった。クラスの全員がよってたかっていじめそれに相川優夢の彼氏であるラグビー部エースの大門春樹(だいもんはるき)が加わっていたいじめには耐えていた事実の方が耳を疑うべき事だろう。そんなクラスの常識に嫌気が差した龍臣は大門春樹に盾付き巧希を庇った挙句、剰え春樹に軽傷を負わせてしまった。そんなこんなで生駒龍臣は現在クラス内で孤立を深めているのであった。無論、その程度の事は一切気にしない龍臣は逆に清々していた。人間のクズ共に見限られるなら望む所だ。これで泉巧希が少しでも救われたなら別に構わない、と。実際、いじめはハブりと無視、舌打ち程度で今は住んでいる。

 溜息一つ、龍臣は椅子の画鋲をどかすと席につき「子供かよ...」と吐息のような掠れた声で呟いた。


 授業は終わり、生徒たちは部活ないし補習ないし、又は帰路につく。俺も無論、その例に漏れない。家に帰れば家事が待っている。部活なんてやってる暇は無い。だがそれでも息抜きは必要だ。俺は少し寄り道をする。誰にも見られない場所、ここはつい最近住民の退去が済んで廃墟となった高層マンション。バブル期に作られ崩壊とともに衰退の一途を辿り今日へ至る。立入禁止の黄色いテープを跨ぎ階段を駆け上がる。二十階、最上階の更に上の屋上まで来ると棒になった足を折り眼下に広がる夜景を見下ろす。

「...綺麗だ」

ぽつりと呟く。実際、それはまるで星空を見下ろすような感覚に苛まれて、それは不意に襲ってきた。予告も無ければ躊躇いも無く、忍び寄るように叩きつけるようにその衝動は訪れた。意識が滲み景観がモザイク画のように単純になる。もとい眼球がそれを捕らえ切れないのだ。もう一度目を凝らすと今度は逆に視界が洗練される。街灯やビル、マンション、信号、送電塔、あらゆる光がピックアップされそれがまた妙に美しい。一歩、足を踏み出す。夜景は更に洗練されその美しさに磨きがかかる。一歩、また一歩と新たな美が暴力的に引き付ける。頭蓋越しに目玉を夜景にがっしり掴まれ引きずられるようにマンションの縁まで歩を進める。が、

「いや、ダメだ。」

目を瞑りそう呟く。すると自然に体は止まり衝動はどこかへ失せてしまう。鎖が外れたような開放感とともに脱力感が全身にのし掛かりそのまま座り込む。

「ほう、耐えたか。なるほど、フッ、合格だな。少年。」

苦悶に満ちた重苦しい声。誰だ!と叫び振り返るとそこにはマントのように長い黒い外套に黒いズボンと革靴。体格はガッチリしていて胸板は厚く首が頭と同じ太さの白髪の男が立っていた。「君には忍耐がある。強い忍耐が。喜ぶがいい、少年よ、お前は常人を遥かに凌駕する力を持っている。」

「あんた、何を言って...?!」

「目覚めよ、そして己が内を見るがいい。お前の属性は...」

少しの沈黙。畏怖か、驚愕か、それとも恐怖か。龍臣は呼吸すら忘れて初老の男を凝視する。男の瞳が紅く光り、「お前の属性は、『闘争』と『順応』である。」

その言葉は、まるで呪文だった。俺の鼓膜を震わせたその響きは脳をも焼き尽くようでとても気持ち悪かった。言葉がこんなにも響いたのは初めてだ。余りの吐き気と頭痛に顔をしかめ眼を瞑って頭を抱えると、初老の男はまた語りだす。「これよりお前は"属性覚醒者"だ。この世は全てお前の自由。精々、飲まれぬよう足掻くがいい、クククッ」

何がそんなに可笑しいのか、目を押し開くとそこには誰も居なかった。





初投稿です。意見があればお願いします。

ちなみに更新は不定期です。

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