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色違いnoあらかると  作者: 桜乃 葉
第2章
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第68話

「「今日はありがとうございました!」」


オレと紗菜はそう言うのと併せて同時に頭を下げた。


「こちらこそ子供達に貴重な経験をさせていただき、ありがとうございました」


オレ達に向き合った児童養護施設の代表は返答と共に頭を深々と下げる。

だが、今回の立役者は『NoeRu』でありオレ達がこれ程の感謝をされるのは、むしろ申し訳なく感じて、オレと紗菜は今一度、深く頭を下げた。

そして、忘れてはいけないことをオレは最後に告げた。


「本当に李華がご迷惑をお掛けしました」


代表より『子供達もいい経験になるので、またご一緒に来てください』と、本気なのかお世辞なのか判断の難しいお言葉を頂いた後の帰り道。

ゆっくりとした歩幅で紗菜と李華の後ろを歩くオレは、ここ最近の日々を思い出していた。


オレの思いつきの計画に一度は諦めかけそうになりながらも参加してくれた のあ。

マネージャーである佐伯さんとの間にもオレが知らない、せめぎ合いもあっただろう。

そんな苦労があった中での今日。

プロとして最高のパフォーマンスを見せてくれた。

その姿はオレの心に衝撃を与えただけでなく、色褪せることのない記憶になることは間違いない。

そんな経験を子供達だけではなく、あの場にいた人全員にきっとNoeRuは与えていたのだ。


だが同時に気づいてしまった。

今までは知らなかったこと…いや見ようとしていなかったことを。

『のあ』=『NoeRu』

それは当然の話。

だがオレはテレビの中の『NoeRu』を『のあ』とはどこか別の存在のように感じていた。

それは『アイドルと生活している』という現実感の無い状況を理解することが出来ずに、深く考えないようにしていた為なのだろう。

思えば、のあのことを『家族』と言っていたのも、アイドルとしての彼女を覆い隠すフィルターの一部でしかなかったのかも知れない。


『石川のあ』という少女は、自分自身を変えたい、変わりたいという気持ちから努力を重ね、アイドルとしてあれほど人の心を魅了する存在となった。

だがオレの方はどうだろう?

アイドル『NoeRu』を理解する努力をしていただろうか?

それとも『のあ』にはオレの知っている部分だけの『のあ』でいて欲しかったのだろうか?

しかし、それは彼女の努力を否定していることに他ならない。


答えの出ないままボンヤリ歩いていると、今さらながら声を掛けられていたことに気づいた。


「ねぇ慎にぃったら!」

「あぁ悪い…どうした?」


プリプリと怒った様子の李華に慌てて返事をする。


「いや、夕飯の買い物だけど、私と紗菜で行っていい?ついでに二人でお話してきたいし」

「結構な量だろうし大丈夫か?荷物持ち必要だろ?」


今日の夕飯は『お疲れ様会』ということで紗菜と紗菜の母親である千夏さんもウチに来ることになっている。

その為、今日の買い物はそれなりの量になりそうだった。


「なんでもお母さんが来る途中に車で拾ってくれるみたいで…」

「ということで慎にぃは帰ってていいよ」


確かに買い物は料理の出来る紗菜がいれば大丈夫だろうし、ある程度必要なものを伝えさえすれば大丈夫だろう。

それに千夏さんが車で拾ってくれるならオレはこのまま帰って先に準備しておく方が効率もいいだろう。

「(一人で帰って、のあとどんな顔で話せばいいんだ…)」

という問題さえなければ。


「だったら李華。先に帰っててもいいぞ。買い物はオレと紗菜で行くから」

「えっ?ヤダ」


即答。


「いやいや…お前いつもは『面倒』だってお使いも行かないくせに」

「今日は別。紗菜に聞きたいことあったし」

「じゃあオレも一緒に…」

「いらない」


とことんオレの思い通りにいかない妹である。


当の本人はオレの気など知らず

「さっきの話。詳しく聞かせてもらうからね」

「そんなこと言ったって…」

などと紗菜と、既に行く気満々で会話を始めている。


「紗菜。悪いけど頼めるか?」

「はい。任せてください」


もうムダだと理解したオレは紗菜に必要なものを口頭で伝える。

紗菜はスマホに買い物リストを打ち込み、その後に一覧を眺めると苦笑した。


「李華ちゃんの誕生日かってくらい李華ちゃんの好きなもの作るんですね」

「いや…まぁたまには…のあの好物とも被るし」


付き合いが長いだけあってリストを見るだけでメニューに思い当たったらしい。

最終的に李華が役に立ったかどうかは怪しいが、一度思ったからには作る方向で考えていた。

ちなみに、のあの好物は実際に李華と似通っていて、献立に困った時は肉を出しておけば二人とも満足するので、とっさに出たウソという訳ではない。


「マジで?私の好きなもの?やった〜!!」

「まぁ李華のなりには頑張ったみたいだしな」

「じゃあ今日の私はすごく頑張ったからお菓子も沢山買っていいよね?」

「………………」


相変わらず自己評価だけは天井を突き抜ける勢いで高い妹だった。


「紗菜…全て止めろとは言わないから、常識的な量で頼む」

「ぜ…善処します…」


オレは祈るように紗菜へ軍資金を手渡すと二人を見送ったのだった。






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