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色違いnoあらかると  作者: 桜乃 葉
第2章
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第63話

結論から言うとオレ達の心配はひとまず杞憂に終わった。

のあがマネージャーを通して事務所に状況を伝えると『そういうことなら手を貸す』と許可以上の成果を得られた。

綾さんは『こんなことって今までなかったけど…』と首をかしげていたが、オレ達の計画の第一段階としては、これ以上ない成果であった。

プロの手を借りたことにより進展は早まり、そして想定を遥かに越えた出来となった。


しかし…

「ゴメンね慎弥。あの人からまた横槍が入ったんでしょ?」

「まぁ多少は…でもオレは大丈夫だから、のあが良ければなんだけど…」


のあが『あの人』と呼んだのは自分のマネージャーの佐伯さんのことだ。

佐伯さんは今回の話を事務所に伝えた後、手伝いという名目でこちらに出張となっていた。

初めて会った時の彼女はオレとのあの関係性へ疑念を持っていたためか、不機嫌そうな顔を隠そうともしなかった。

その後、佐伯さんからの質問攻めを受けはしたが、なんとか『ステージを成功させる』という共通認識だけは得ることが出来たが、素人であるオレと、仕事としてものを見る佐伯さんとの間には考え方の溝が残ったままだった。


そしてそれは直ぐに表面化することになる。

施設の代表に許可を得る為に挨拶に行こうとした際も、のあを連れて行こうとしたオレに対し佐伯さんは

『本人に連れて行くなんて何を考えているのですか。NoeRuは芸能人なんです。あなたのご友人を連れて行くのとは訳が違うのです』と注意を受けたり。


または、のあと二人で内容を考えていると

『一般人のあなたの意見など不要です。全てこちらでまとめます』と厄介払いされるなどのことがあった。

のあもオレを擁護しようと佐伯さんに意見してくれたが大人の正論により打破され、それ以降は不満そうな顔をしつつ耐えている様子だった。

つい先ほども『こういった場所での資料映像が欲しいのでカメラを設置したい』と言われたばかりでオレ達は顔を見合せ渋い顔をしていた。


「私も前に『きちんとした音響も別にいらない』って言ったんだけど『アイドルに憧れる子供達に中途半端なものは見せられない』って…」

「まぁ子供達のことを考えてくれてるならいいじゃないか」

「それならいいんだけど…綾さんならもっとうまくやれたのかな?」

「いない人のことを考えてもしょうがないさ。それに、のあだってキチンと反論してくれたじゃないか。本来なら のあと佐伯さんで決めるものにイレギュラーなオレが加わっちゃったからな訳で」

「イレギュラーって…元々は慎弥が私に声をかけた話でしょ?企画はアンタなんだから関係者でしょうが」

「だといいけど…」


そう言いながらオレは佐伯さんと入れ替わるように仕事に戻った綾さんの言葉を思い出した。

綾さんを駅ま見送りに行ったオレと のあに綾さんは言った。


『のあちゃんは分かってるだろうけど、事務所の大人達は損得でモノを考えてるわ。今回の二人のように善意で動く人達じゃない』

『でも…』


今回は機材などの設備にお金を使う場面はあっても利益がでるものではない。


『そう。だから不思議なのよね…前にも言ったけど、私だって本当は反対なのよ。こんな相手の出方がわからない状況なら尚更ね』

『綾さんでもわからないですか?』


綾さんなら、見た目の雰囲気からその辺りまで理解してそうな気もしていたが、綾さんがわからないものをオレ達がいくら考えても答えは出ないだろう。


『私は調べものは得意だけど、人の裏を読むのはちょっとね…こういうのは朱音ちゃんの領分なんだけど』

『朱音ちゃん…白崎部長のことですね』


オレの問いに頷いた綾さんだったが表情は少し曇っていた。


『そうそう。私達が従姉妹ってのは話したけど、昔から朱音ちゃんは人の裏の顔を見るのが得意だったから』


なんとなくそれは理解できる気がする。

部長は的確に人を分析し有効な手立てを実行に移す。

そんな印象だった。


『役には立てないけど、だからこそ覚えておいて、損得で動く人を利益以外で動かす方法は最終的には人間関係しかない』

『人間関係って言っても短い期間の中でどうやって…のあはマネージャーさんと今までやってきたんだからなんとかなるんじゃないのか?』


オレが言うなり、のあは分かりやすく顔をしかめる。


『あのね、信用されるくらいの人間関係があれば、わざわざ来なくても私の好き勝手にやらせてくれるわよ』

『それもそうか…』


以前にも、のあと事務所の関係性については聞いていたが期待は薄いみたいだ。


『まぁ注意だけはしといてってこと。無駄に終わればそれに越したことはないんだし』


反対を無視する形にはなったが、綾さんはオレ達のことを気遣ってくれた。

ならば少なくともオレ達は綾さんが憂いなく出発できるようにしてあげよう。


『綾さん。ちょっといいですか?』

『ん?なに?』


オレの手招きに綾さんが近付いてくる。


『今日はちゃんと履いてますか?』

『くっっ…はははははっ!!』


耳打ちすると綾さんは堪らず吹き出して笑った。

そしてニヤリと笑うと今度はオレの耳元に口を近付け

『それなら見て確かめてみる?』

『なっ……!!』


仕返しとばかりにそんなことを言った後、綾さんは仕事へ向かっていった。


『やれるだけやってみるか』

『そうね』


反対していたはずなのにオレ達を心配してアドバイスをくれた綾さん。

その想いに報いるためにも、のあと二人気合いを入れなおした。


…はずだったが……

「役に立てなくてすまん…」

「知識が足りない分はしょうがないじゃない。それに慎弥がいてくれて私は助かってるわよ」

「そんなことないだろ…」


役に立ててるなら嬉しいことだが、のあが気を使って言ってくれているだろうことが今は逆に辛い。


「防波堤として助けられてるわよ。おかげで『あの人』から私への苦情はあまりないもの」


そう言うなり、のあはニヤッっと意地悪な笑みを浮かべた。


「防波堤って…オレへの苦情が多すぎて、のあへの注意に回らないってことか…損な役回りだな」

「まぁいいじゃない。慎弥のおかげでステージに集中出来そうよ」

「そりゃ良かったな…せいぜい佐伯さんのサンドバッグになってくるよ」

「うん。本当にありがとう」


のあは改めて笑みを見せたが、今度は意地悪要素を1ミリも感じることはない素敵な笑顔だった。

『はぁ…オレも単純だな。そんな顔を見せられたら頑張りたくなるじゃないか』

そんな決意を胸に、オレ達はそれから数日の準備を経て、遂に当日を迎えた。



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