第59話
「いや~創作物なんかでは見聞きする話だけど本当にあるんだね」
紗菜ちゃんの話に白崎先輩はどことなく楽しそうな表情でそんなことを言った。
内容に関しては私も同感ではあるが、先輩の情報網なら以前から知っていたとしても不思議ではない。
たぶん知らなかったのは私だけだ。
「それにしても紗菜ちゃんと玉木くんが幼なじみなんて全く気が付かなかったよ」
「そうでしょうか?」
「だって幼なじみにしては距離感が遠いように見えて」
私には幼なじみと言える人がいなかったので、創作物の中の幼なじみのイメージしかないが『幼なじみ=何をするにも一緒』といった感じで私から見た紗菜ちゃんと玉木くんの関係性とは違う気がした。
「遠いですかね?普通はこれぐらいじゃないですか?」
「家が隣とか物語だと自然と付き合ったりとかあるじゃん」
私の想像に紗菜ちゃんは心底嫌そうな顔を見せた。
「えっ…?だって美少女にしか見えないにしても、慎くんに告白するような人ですよ…『昔から知ってる隣人』以上に何もないです」
「…紗菜ちゃんって割りとそういう部分、辛辣だよね…ははは…」
とはいえ、そんなことを遠慮なしに言える関係というのも親しい仲だからこそなのかも知れない。
「ふふっ…広くんが慎弥くんに告白ね~。まぁ広くんじゃなくてもあの可愛さの前では間違いを犯しかねないとは思うが」
「反則級ですよね。私、芸能界でもあんな飛び抜けた子を見たことないです」
「現役アイドルから見てもそうなのかい?ホント男の子にしておくには勿体ない気もするけど…逆に李華っちは弟ポジションでも問題なさそうだけどね」
「あ~確かに逆ってのもしっくり来るかも」
「の…のあさんまで…」
白崎先輩の考えをイメージしてみるとビックリするほど違和感がなく、私は本人が目の前にいるのも忘れ、それに肯定していた。
『あっ…』っと思った時には既に手遅れ。
先ほどまでの分のダメージも残っていた李華ちゃんはうつむき、プルプルと身体を震わせていた。
「慎にぃがおかしいんだ…イケメンでもないのに女装するとあのレベルになるなんて…」
「………私は普段の慎くんのままがいいと思うけどな…」
個人的な感想なので私がどちらの意見に賛同することはなかったが、紗菜ちゃんが小さく呟いた意見に李華ちゃんは鋭く反応した。
「………そこまで言うなら法廷で決着をつけようじゃないか!!」
「法廷って…また李華ちゃん暴走して…」
紗菜ちゃんが言うように八つ当たり+暴走だったが、トドメを差したのが私である以上、余計な口出しは避けた。
「うるさい!!じゃあ私が裁判長ね」
「『決着』って言ってるのに、自分が裁判長しちゃうの!?」
「私がルールだ!!」
それではただの独裁もいいところではあったが、紗菜ちゃんは諦めたかのように息を一つ吐き、逆に白崎先輩は状況を楽しむようにニヤリと笑った。
「じゃあ紗菜が弁護人。朱音ちゃんは検察官ね」
「じゃあ私は?」
言った後に『失敗した』と強く思った。
出来ればこんな面倒なことには関わりたくない。
「うーん…じゃあ証人ってことで」
「どっちの…?」
「両方!」
こうして私は思った通りの面倒事に自ら巻き込まれたのだった。




