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色違いnoあらかると  作者: 桜乃 葉
第2章
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第55話

-放課後-


私は白崎先輩にとって話題にしたくないことを敢えて尋ねた。


「あの…白崎先輩って綾さんと従姉妹なんですよね?」

「うん…まぁ…そうとも言うね…」


昨夜、綾さんからその話を聞いた時は『なるほど』と思う一方で現実感を受けられなかったが、白崎先輩の微妙な表情を見たことで、改めて確信を得た。


「先に言っておくが、綾のことを話しに来たのなら帰ってもらうよ」

「いえ。今回の相談は別の話です」

「『今回は』ね…まぁいいだろう。で、『今回の』話はなんなんだい?」


本当に用心深く頭の回る人だ。

私のことも綾さんとの接点まで調べているのだろう。

きっと私は今までずっと警戒されていたに違いない。


『なぜ警戒している私の手助けをするんだろう?』


以前から不思議に思ってはいたが、昨夜の綾さんとの会話によって、先輩の不自然な行動に納得のいく答えを見つけることが出来た。


「白崎先輩は何で私が慎弥達に動画をもう一度作らせる手助けをしてくれたんですか?」

「…………それは君達が私に協力を依頼してきたからだろ?」


先輩の言うように私達が慎弥の説得の為に力を借りたのは確か。

だけど、それは違う。


「部活を作り変えたのもですか?」

「君達には活動の場が必要だったし、私は人員を確保できた。どちらにも特のある話だろ?」


的確な切り返しだ。

だが、これくらいで引き下がるくらいなら私も初めからここへは来ていない。


「白崎先輩…いえ…『先輩達』が私と慎弥にだけ隠している件に関しては、どう説明してくれるんですか?」

「……なんのことを言っているんだい?」

「ご自分で言う気がないなら私から言わせてもらいます。白崎先輩は今年の春以前から李華ちゃん、紗菜ちゃんと知り合ってたんじゃないですか?私が初めてこの部室に来た時に、白崎先輩と李華ちゃんは既に名前で呼び会う仲でしたよね?」


ずっと引っ掛かっていた。

入学したての生徒が2つも学年が上の先輩と、あんな急激に距離を縮められるものだろうか?


「たまたまさ。私と李華っちの波長が合っただけのこと」


先輩の言うように、私だってそれだけでは裏付けにはならないのは分かっている。

疑問はまだある。


「確かに李華ちゃんだけなら可能性もあると思います。だけど、あんなに人見知りな紗菜ちゃんが何で先輩には普通に接していられたんですか?」

「……………」


私が紗菜ちゃんに初めて会った時、そして先日の綾さん。

紗菜ちゃんを知っている人なら誰もが理解している程に、彼女は極度の人見知りだ。

しかしインタビューと言って部室に集められた時、紗菜ちゃんは白崎先輩の質問に全く臆する様子がなかった。

当時は自分のことで精一杯で気にも留めなかった私だが、これは余りにも不自然だ。


「まだ認めてくれませんか?」

「ふぅ…まぁいいだろう。これ以上しらを切っていると聞きたくない話題まで出てきそうだ」

「ありがとうございます」


先輩の言うように、ここで折れてくれなければ私は綾さん絡みの話をしなければならなくなっていた。

そうなれば先輩が嫌な思いをするだけではなく、私がここに来た理由にとっても大きな痛手になる。


「先に言っておくが、私が去年から二人と知り合いだったことは慎弥くんには伏せておいてもらえるかい?みんなとの約束だからね」

「『みんな』とは李華ちゃん、紗菜ちゃんと、あとは玉木くんのことですか?」

「あぁ。君の考えている通り彼女達とは広くんを通じて知り合ったからね。で、聞きたいことはそれだけかな?」

「私が知りたいのは『なぜ知り合うことになった』かの方です」


本当は聞くまでもなく予想はできていた。

それでも私は確認したかった。


「それはもちろん慎弥くんに動画を作らせる為さ」

「やっぱり慎弥以外は誰も動画制作を諦めてなかったんですね」

「少し違うね。『慎弥くんと一緒に動画制作をすること』を諦めなかったのさ」

「…そうやって昔からの絆を守ろうとしてたんですね」


私は彼らの絆の強さを改めて感じていた。

そんな私の様子を見ていた白崎先輩は、バツの悪そうな顔をした後に頭を下げた。


「すまなかった。私達はそのために君を利用した」

「知ってますよ。去年、私が匿名でSNSに『s2kr』の情報を求めた時に返事をくれたのって先輩なんですよね?」

「…あぁ」


私が転校することになったキッカケ。

昨夜、私は綾さんの協力を得てそれを知った。

先輩はそれを『利用した』と思っているようだが、私からしたらそれは違う。


「先輩ありがとうございました」

「……ん?…」

「私を今の私にしてくれるチャンスをくれたのは先輩達です。あれがなければ私はアイドルを続けていけなかったかもしれません」


私から『恨まれているかもしれない』と思っていた先輩にとっては想定外だったのだろう、不思議そうな顔をしている。


『朱音ちゃんはね。自分以外のことを調べるのは得意なんだけど、自分のことには無頓着でね。自己分析をしないんだよ。きっと自分を『白崎家の1つの装置』としか思ってないから』。


綾さんの言っていた通りなのだろう。

先輩は自らの行動に私の考えを加味することなく、悪いのは自分自身と決めつけている。

先輩が『協力』という言葉をよく使うのも、自分の意思で動いていないという言い訳に近いのかもしれない。


「私はアナタの行動に救われたんです。私は先輩やみんなのことを恨んだりしたことはありません」

「…………」


白崎先輩は何も言っては来ない。

その姿は何事になく許されることを拒否しているようだった。


「じゃあ、1つだけ私のお願いを聞いてもらえませんか?」

「……君がそれでいいなら聞こう…」

「ではお願いです…」


「(先輩の許可ももらえたことだし、私にとって一番お願いしたいことを言ってしまおう)』


「私と一緒に女子会を泊まりでしましょう」

「……えっ?……そんなことかい?」

「そんなことです」


その時に見た白崎先輩の間の抜けた顔を私は一生忘れないだろう。










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