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色違いnoあらかると  作者: 桜乃 葉
第2章
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第53話

-ジュー…パチッ!パチッ!!-

フライパンの上で朝食のソーセージが音を立てる。


「う~ん…子供達が喜びそうなこと…喜びそうなこと…」


昨夜の件からオレは、のあが参加できなくとも子供達に喜んでもらえる計画を考えていたが、これまで代案として納得いくものは出ないままでいた。


「流石にNoeRuのインパクトには負けるけど、みんなで何か作ったりしながら小規模なパーティーでもするのが現実的かな…」


それでも簡単なことではないが部長の協力を得て作業時間を貰えればやれると思う。


「慎にぃおはよ…う…………って慎にぃ!!」


起きてきた李華がすっとんきょうな声を上げた。


「ん?あぁ…おはよう」


李華の奇行にいちいち反応していては一緒に生活していけない。

それを知っているオレは朝の挨拶だけ済ますと自分の懸案事項へと戻った。


『準備するものの大半は100円均一などで揃うだろうけど、せめてプレゼントぐらいは用意したいよな。一人一人に準備するのは無理だからみんなで使えるものがいいよな?』

「慎にぃ!!ホントどうしちゃったの!!正気に戻って!!」


なおもオレに絡んでくる李華に『正気に戻るべきは、お前の普段の生活態度だ』と心の中でツッコミを入れつつ調理と考え事に戻る。


『みんなで使えて小学生ぐらいの子供達が喜びそうなもの…すぐには思いつかないし今日の帰りに色々と寄ってみるのもいいかもな』


ある程度の計算が付いたところで改めて李華の方を見やると、李華はこの世の終わりかのような顔をして、目頭には涙が滲んでいた。


「李華どうした!!オレのせいか?悪かった!!」


予想外の展開にオレは慌てふためいた。

あの李華が涙を見せることなど普通ではない。

本当に李華がまともな時間に起きてくるとロクなことがない。

そう思うとオレの目も潤むのを感じる。

いや、だが何かがおかしい。

この涙は感情というよりは、単純に目の不調のような気がする。

正直、普通に目が痛いし視界も暗い。


「もう!何やってるのよ!!」


それは突然のことだった。

すぐ後ろからの声と共にフライパンを持っていたオレの右手に誰かの手が触れられ、そのままフライパンも一緒に移動させられていく。

重ねられた手を指先から追っていくと、その先にはオレに覆い被さる形になっている のあの姿があった。


「おっ…おはよう」


昨夜の件から のあとの距離に戸惑った。

実際、のあの顔からも怒っているのが丸わかりだ。


「『おはよう』じゃないわよ!!まずは状況を確かめてみなさい!!」

「えっ?あぁ…」


オレは言われるがままに周りの状況の確認を始めた。

正面の李華は未だに涙目だが正気には戻ったみたいだ。

オレの視界は依然として暗く、目も痛いまま。

フライパンを握っている右手の上には のあの手が重ねられている。

そして、その手の先のフライパンは……

「なんだこれ…?」


ソーセージが炒められていたはずのフライパンの中には真っ黒な炭状のものが転がり、大量の煙を発生させていた。


『プー・プー・火事です・火事です』


さらには火災報知器までもが作動しており、けたたましい音を立て続けている。


「えっと…これってどうやって止めればいいのかな?」

「バカ!!!!」


苦笑いを浮かべるしか出来なかったオレに、のあは強い口調でそう言い放った。


「悪かった…」

「バカ…本当にバカ…」


のあは力が抜けたのかオレの背中に体重を預け、頭をコテンとぶつける。


「心配させないでよ…」

「ゴメンな…」

「謝るくらいなら最初から気をつけなさいよ…」


オレの右手に乗せられた のあの手が『ギュッ』と握られた。


「痛っ!?」

「なに!?」


痛みについ声を上げると、のあが手を離す。

オレの右手にはフライパンから飛んだ油が原因と思われる火傷がはっきりと見て取れた。


「まずは冷やさないと…李華ちゃん。綾さんを呼んできてもらえる?」

「う…うん…行ってくる」


自らの指示によりようやく動き出した李華を見送ると、のあは半ば引っ張るようにしてオレを水道の前まで連れてくると蛇口から水を出し、手を冷やし始めた。


「どう?痛む?」

「少しヒリヒリするぐらいかな」

「ならこのまま暫く冷やしてなさい。片付けは私達でやるから」

「いや…でもな」


-ギロッ-

反論しようとすると、のあから鋭い視線で睨まれた。

口には出ていなかったが、その目は『今のお前じゃ邪魔になるだけ』と雄弁に語っていた。


そこからは李華が呼んできた綾さんも加わり、片付けや現状復帰は割と手早く済んだ。

そしてオレは手を冷やし終え、今は のあの手当てを受けている。


「意外とうまいもんだな」

「これくらいは普通よ。それよりも何であんな状態になるまで気づかなかったのよ」

「ちょっと考え事をな…」

「はぁ…」


のあは呆れたように深くため息をついた。


「考え事をするのはいいけど、慎弥は考え出すと周りに注意が向かなくなるんだから、そういうのは時間がある時にしなさいよ」

「これからは気をつけるよ」

「本当ね。約束だからね」

「わかった」


のあの表情はどこまでも真剣で、軽口では返せないほどの迫力があった。


「ひとまず朝食はコンビニは済ますとして、授業とか大丈夫?そんな手じゃノート取るのも厳しいでしょ?」

「ダメそうなら広にでも後で写させてもらうさ」

「私じゃ教室が別だし、仕方ないか」


なんだろう。

今朝の のあは昨夜の様子からは考えられないほど立ち直っている…というよりは別人のようにしっかりした印象だ。

あの後に何があったのか知りたくはあるが、オレのせいで朝の時間を削ってしまった為、それぞれが急いで準備を進めた。


「私、今日の放課後は部室に顔出してくるから」

「あれ?何かあったっけ?」


基本的に撮影と部長からの頼まれごとが無い限り、部室に集まることは強要されてはいない。

特に のあは本人の忙しさもあり、かなり自由にやることを許されている。


「何もないわよ。今日は個人的な用事だから」

「じゃあオレも…」

「慎弥はちゃんと病院に行って手を診てもらいなさい。行かないで悪化なんかしたら許さないから」

「そこまで言うならわかったよ…」

「よろしい。じゃあ行ってきます」


のあはそれだけ言うと返事も聞かずに家を出て行った。


「綾さんもすみませんでした。留守番よろしくお願いします」

「うん。じゃあいってらっしゃい」

「はい。いってきます」

「いってきま~す」


それに続いてオレと完成に復調した李華も、えるを抱いた綾さんに見送られながら家を出発したのだった。






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