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色違いnoあらかると  作者: 桜乃 葉
第2章
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第51話

-千坂家・のあの部屋-


「はぁ~……」


部屋に戻った私はスケジュール帳を眺めながら、もう何度目か分からないため息をついた。

慎弥にはすぐ『OK』と言ったが、実際には厳しい現状にベッドの上で悶えながらゴロゴロする。

スケジュールで悩んでいるだけならまだいい。

私がクリアしなければならない問題はまだまだあるのだから。


-コンコン-

ノックの音に私はベッドの上で座り直した。


「どうぞ~」

「のあちゃん。お風呂空いたよ」

「うーん…後で入ります」


お風呂あがりで顔を赤らめた綾さんは入室すると、私の前のクッションに腰をおろした。

綾さんの布団を用意しようかと思ったが、その手にさっき食べ損ねたカップアイスが握られているのを見て私はベッドへと戻った。


「ゴメンね…せっかくやる気だったのに」


何について言っているのかは考えるまでもなく理解している。

綾さんは慎弥の計画への私の参加を、結果的に保留させたことを申し訳なく思っているらしい。


「いえ…綾さんの言ったことは事実ですから」


先ほどはムキになって考えもなしに反論してしまったが、冷静になってみれば逆に綾さんに悪いことをしたように思う。


「私も、のあちゃんが参加するのは良いことだと思うんだ。でも勝手なことを見過ごすことも出来ない」

「はい…」

「でないと、のあちゃんがアイドルとして積み上げてきた物や、ここでの生活で得たものが犠牲になっちゃうから」

「でも事務所に相談したって…」


きっと許可を出してはくれないと思う。

今の事務所は利益重視の面が強く、ただでさえ転校を強行した私への協力は考えづらい。


「ちょっとだけ質問いいかな?」

「なんでしょう?」


私が考え込んでいると、綾さんは心底不思議そうな顔をしてそんなことを言った。


「結局、のあちゃんは慎弥くんのことどう思ってるの?」

「へっ?」


今の状況からなぜ慎弥の話が出てくるのだろうか?


「なんで慎弥なんですか?」

「だって、いくら子供達の為ではあっても、なかなかあの場で『やる』って即答できるような話じゃなかったでしょ?慎弥くんの為もあるのかなって思って」

「いや…慎弥の為とかは…」

「『全くない』って言える?」

「もちろん…」

『ない』と言いかけてやめた。


そう口にすることは簡単だ。

しかし私が『s2kr』に影響を受け、それを作った慎弥達に恩を感じていることが、無意識に判断の一つになっているのではないだろうか?

そう考えると解らなくなってくる。


「ゆっくり考えながら言ってくれればいいよ」

「……………」


綾さんの優しい言葉に、私は一つ一つ自分の気持ちを確認するかのように話し始めた。


「綾さんは『s2kr』って動画を知ってますか?」

「知ってるよ」

「私、その動画がすごく好きなんです」

「それも知ってる」


綾さんが知っているのは当然だろう。

かつて私が『s2kr』について探っていた頃に削除されたはずの『part1/3』の動画データをくれたのは綾さんだったのだから。

だからここからが綾さんに説明しなければならない話。


「実はそれを作っていたのが慎弥達なんです」

「うん。そうだね」


おかしい。衝撃の告白のつもりだったが、それにしては綾さんの反応が変だ。

私なんか、この事実を知った時に慎弥を殴り飛ばしたというのに。


「いや…だから慎弥達が制作者なんですよ…?」

「うん。慎弥くんに紗菜ちゃん。それに李華ちゃんと、あとは……広くんだったっけ?」

「……………………」


なんでこの人はさも常識みたいなテンションで話しているのだろうか?


「……あの…慎弥か李華ちゃんにでも聞いたんですか?」

「前から知ってたけど。あれ?のあちゃんに言ってなかった?」

「聞いてません………」


当たり前だ。

綾さんから話を聞いていれば、私は転校せずとも真実にたどり着けていたのだから。

よくもまぁ運よくこの家に引っ越し、慎弥達に出逢えたものだと改めて思う。

とは言え、このままでは釈然としない。


「『s2kr』って『女の子』二人が映ってましたよね?」

「うん…そうだけど、それが何か関係あるの?」

「いえ、聞いてみたかっただけですから♪」

「?????」


私はこの瞬間、心の中でガッツポーズを決めた。

綾さんは『女の子』が二人だということを指摘しなかった。

ならば綾さんは片方が慎弥だとは知らないということ。

私の中に先ほどまであった釈然としない気持ちは消え、それどころか引っ越しをして一緒に生活してきたからこそ知りえた秘密に優越感さえも生まれていた。


「私は『s2kr』に夢を貰ったんです。だから、それを作った慎弥達に『お返しをしたい』って気持ちはゼロではなかったかもしれません」

「そっか…だからなんだね……」


私の話を理解してくれたのか、綾さんは納得したように何度か頷いた。

しかし、その仕草は私が予想したものとは全く違っていた。


「だから今、撮影している動画からは何も感じないんだね…」

「えっ……!」

「だってあの動画、はっきり言ってつまらないもの」


綾さんから告げられた予想外の言葉。

そのトゲは私の胸に深く突き刺さったのだった。






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