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色違いnoあらかると  作者: 桜乃 葉
第2章
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第46話

神父(園長)は確かに『キス』と言った。

それは聞き間違いなどではなく、魚の鱚とかいう定番のギャグでもなくだ。

本当の結婚式ならば流れとしては当然なのかもしれないが、これは『ごっこ遊び』。

オレ達は配役に従っているだけで、実際のオレと紗菜は夫婦でもなければ、ましてや恋人同士でもない。


「あわっ……あわわわ………」


紗菜も困惑しているらしく、顔を真っ赤に染めながら口をパクパクとしている。

それにしても、これは子供達の案なのだろうか?

例え、そうであったとしても大人(千夏さんや園長)が止めるべきだろう。


「きゃーキスだって~!!」

「本当の結婚式みたい」

女の子達が盛り上がって騒いでいる様子が見える。


「おいおい。マジでやるのかよ」

「オレは興味なんてないし…」

逆に男の子達は少し引いて見ているようだが、実際は興味を隠しきれていないようだ。


「(ということは子供達の案ではない?でも…いや、まさか…)」


オレは恐る恐る、唯一可能性がある人物へと目線を向ける。

「…………………(あぁ…やっぱり)」


オレが見たのは園長に『良くやってくれた』と言わんばかりに親指を立てている千夏さんの姿。

そればかりか園長の方もまんざらでもない顔をしている。

子供達の教育方法について千夏さんを交えて三人で話し合う決意をオレが固めた時、組んだままになっていた紗菜の腕に力が入った。

慌てて紗菜の方に向き直ると、未だに顔は真っ赤なものの、上目遣いで向けられた目は、しっかりとオレを捉えていた。


「し…慎くんがいいなら…私は大丈夫ですよ…」

「おい紗菜!そんな訳にはいかないだろう…」

「でも…このままじゃ収拾もつきませんし…」

「だからって…」


言いかけてオレにも解決手段がないことを改めて自覚する。

こうしている間にも子供達の期待を込め視線は熱くなっていて、ここで無理矢理にでも中止しようものなら積もり積もった期待感が一瞬にして失望感に変わってしまうだろう。

きっと紗菜もそれが分かっていて、本当は嫌であろうキスをすることに納得したのかもしれない。


「早くしろ~!」

「(おい保護者!!アンタは娘の心配をしてやれ!)」


子供からの催促なら流せたものの、元凶からの発言に、つい口に出そうになったツッコミを心の中だけに留める。


「では…慎くん…!!」


決心がついたような言葉と同時に、腕に感じていた感触が『フッ』と消えた。


「紗菜?」

それを追う形になったオレは、気がつくと紗菜と向き合っていた。

「「…………………」」


二人の間に緊張感が走る。

どうすればいいかパニックになりそうだったオレに対し、先に動いたのは紗菜だった。

紗菜はオレとの距離を更に詰めると顔を少し上げて目を瞑った。


「(これって『キスしろ』ってことだよな?)」


紗菜の決意は充分に伝わった。

でもキスなんてしたら、明日からオレは紗菜と今まで通り話すことは無理だと思う。

情けない話だとは思うが、オレはそんなリスクを背負うことと、この場面から逃げることのリスクを天秤にかけていた。

当たり前ではあるが、混乱している現状では答えなど出ない。

改めて紗菜の顔を見つめる。

白い肌にまるでチークを入れたかのように赤く染まった頬、潤った唇は朝露に濡れた可憐な花のようだ。

見慣れているはずの顔が、状況が違うだけでこうも見え方が変わることにドキリとした。

気がつくと、オレは引き寄せられるように紗菜の肩を掴んでいた。

頭では『ダメだ』と思っているのに身体が勝手に動き、紗菜を抱き寄せた。

紗菜の顔が迫る。

いや、近づいているのはオレの方だった。

二人の顔の距離が縮まっていく。


-バタン!!-

まさにキス寸前の場面で部屋の扉が勢いよく開け放たれた。


「ちょっと待ったー!!!!」


結婚式乱入の定番シチュエーションでその扉から入ってきたのは、どこかの戦隊ヒーローのようなポーズをした誠二くんだった。

突然の事態と、自分がキスをする寸前だったことへの羞恥心から、オレが放心状態になっていると、誠二くんは紗菜の腕を掴み一目散に部屋の外へと走って行った。

数秒の時間を空けてようやく事態を飲み込んだオレの耳に届いたのは子供達の様々な声だった。


女の子達はオレに対し「お兄さん!!追いかけないと!!」とか「この展開もありね」など、この展開に対する声が多い。

男の子達の方は「誠二やるな」や「あの役、オレもやりたかった」等の誠二くんへと称賛や羨望の声が多数だった。

きっと園長あたりが千夏さんからキスの件を聞き、シナリオのラストとして誠二くんに役を頼んでいてくれたのだろう。

とはいえ、危なく本当にキスしてしまうところだったし、オレと紗菜には知らせて欲しかった。


「(まぁそれでも助かったよ誠二くん。君はオレにとってヒーローだ)」


結果として誠二くんの登場によってキスの件はうやむやになったし、子供達も納得してくれたようだ。

そんな余韻に浸っていると、連れ去られた花嫁の母がオレの元までやって来た。


「あら~残念だったわね~」

「千夏さん…今さらなんですか…?」

「写真に収める準備は万端だったのに」


そんなことをされた日には、千夏さんはともかく紗菜の父親である貴士さんに顔向けができない。


「園長、ありがとうございました」

「ん?」


オレは誠二くん同様、今回の功労者である園長に感謝を述べた。


「誠二くんの件ですよ。本当に助かりました」

「????」


園長は『どういうこと?』といった顔をしていたが、これが『あえて知らないフリ』という本当の大人の対応なのだろう。

教育方針について説教しようと先ほどまで思っていたことを申し訳なく思う。


「(そういえば終わったのに、紗菜と誠二くんが戻ってこないな)」

「お兄さん次は何で遊ぶ~?」

「あぁー何がいいかな?」

「(まぁそのうち戻ってくるだろう)」


オレはそう考え、子供達の対応に戻ったのだった。




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