第44話
「おはようございま~す」
児童養護施設へと到着したオレ達を代表して千夏さんが職員の方に挨拶をした。
結局、紗菜とオレは30分ほどしっかりと睡眠を取り、千夏さんに起こされた時は二人揃って自分達の状況に恥ずかしくなって赤面した。
「おはようございます望月さん。紗菜ちゃんもいつもありがとね。あら?そちらが連絡にあった…」
「千坂慎弥と言います!今日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね。若い子が来てくれるのは有難いわ。ウチの子達はわんぱくな子が多いから」
オレ達を出迎えてくれたのは、この施設の園長を勤める40代ぐらいの女性だった。
「さっそくだけど子供達のところへ行きましょうか。説明はその後で」
園長はそう言うとオレ達を先導し、奥の部屋へと向かって行った。
「なぁ。子供達ってどんな子がいるんだ?」
「急にどうしたんですか?」
その途中、オレは気になったことを恐る恐る紗菜に尋ねてみる。
「ほら…今時の子供は危ないのもいるって聞くし」
「自分だって数年前までは子供だったじゃないですか…大丈夫ですよ。みんないい子達なので」
そんなことを話しているうちにオレ達は目的の部屋へと到着していた。
「(まぁ紗菜が言うんだし大丈夫だろう)」
そう思い、オレは少しの不安を持ちつつも子供達のいる部屋へと進んで行った。
「みんな。今日は紗菜ちゃんのお友達のお兄さんも来てくれたわよ~」
「こんにちは。今日、みんなと一緒に遊ばせてもらう千坂慎弥です。よろしく」
「「「よろしくお願いします」」」
園長の紹介に続いて挨拶をしたオレに、10人ほどだろうか?
小学生ぐらいの子供達が返事をしてくれた。
「(なんだ思ったよりも礼儀正しい子達じゃないか)」
とはいえ、そこは子供。
初めてやって来た人が珍しいらしく、オレを取り囲むようにしてまじまじと眺め始めた。
「えーっと…」
『何か言わなければ』と考えていると周りを囲んでいた女の子の一人が口を開いた。
「ねぇ。もしかして紗菜ちゃんの彼氏?」
「は?」
「そ!?そんな彼氏なんて…そんな…でも…」
女の子の言葉にあっけにとられていると、紗菜は真っ赤になりながらうろたえ始めた。
本人的には否定しているつもりなのだろうが、そんな様子では逆効果でしかない。
「ねぇ~もうキスぐらいはしたの?」
「だ…だから!私と慎くんは……」
今時の女子小学生は耳年増なのか完全に紗菜が弄ばれている。
そんな状況を眺めていると離れた場所に一人でいた男の子がオレの側へと寄って来た。
「どうかした?何か質問とかあれば……」
-ゲシッ!!-
「痛っ!!?」
脛に痛みが走る。
「しっ…慎くん!!大丈夫ですか!?」
「あ…あぁ大丈夫だ…(やっぱり小学生は危険じゃないか…)」
割りとピンポイントで当たった為、大丈夫ではなかったが紗菜や他の子供達の前では、なんとか笑顔を作ることができた。
「ごめんなさいね。誠二くん…さっきの子なんだけど、普段はあんなことする子じゃないの。紗菜ちゃんとも仲良しだし…」
代表の女性の言葉を肯定するように紗菜が『うんうん』と頷く。
「きっと初めて会う慎弥くんにどう接したらいいか判らないだけだと思うから。一緒に遊んでみれば大丈夫よ」
「お母さんの言う通りです。慎くんなら誠二くんと仲良しになれます」
「だと良いなぁ…」
二人からの励ましを受けながらも、オレの中には良い得ぬ不安が広がっていた。
それから約1時間、オレは外で男の子達と身体を動かす遊びを。
紗菜は室内で女の子達とおままごとをしているようだった。
そして問題の誠二くんはというと、オレ達に混ざる訳でもなく、かといって男のプライドが邪魔するのか、ままごとにも参加することもなく離れた場所に一人で座っている。
先ほどから千夏さんや紗菜が時たま声を掛けに行っていたようだが、誠二くんはそこを動こうとしない。
「ちょっと休憩にしよっか」
「えーまだ遊びたいよ」
オレの呼び掛けに男の子達は遊び足りなそうに声をあげた。
「ゴメンね。お兄さん、ちょっと疲れちゃって」
オレが心底疲れたような顔で言うと、男の子達は『しょうがないなー』『じゃあ水飲みに行こうぜ』などと言いながら室内へと戻って行った。
それを見送ると、オレは誠二くんの元へと近づいた。
「何かオレ、誠二くんの気に障るようなことしちゃったかな?」
「…………………」
誠二くんは何も答えず、視線を合わせようともしない。
「えぇっと……」
「お兄さ~ん!!」
何を言おうかと考えていると、今度は女の子の一人がオレを呼びながら近づいて来た。
「ん?どうしたの?」
「男子の遊びは今してないんでしょ?だったら私達に混ざってよ」
「まぁそうだけど、何をするのかな?」
誠二くんのことは気になったが、女の子を放置する訳にもいかない。
「結婚式ごっこ!!」
「あぁそうなんだ。じゃあ少ししたら行くから待っててもらってもいいかな?」
『断るのも可哀想だし今は待っていてもらおう』と思い、提案したつもりだったが女の子はそんなに甘くはなかった。
「花嫁を待たせるなんて、カイショーナシがすることなんだよ」
「…………」
『甲斐性なし』なんて言葉が小学生から出てきたことに唖然として、何も返すことができなかった。
そして、てっきりオレは参列者か、せいぜい神父役だと思っていたが、メインキャストに大抜擢されていたようだ。
甲斐性なしになりたくないオレは女の子に手を引かれながら力なく結婚式場(仮)へと連行されたのだった。




