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色違いnoあらかると  作者: 桜乃 葉
第2章
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第43話

「よし。ひとまず準備は完了だな」


望月家の手伝いで児童養護施設に行く日の朝、オレは持って行く物の最終確認をしていた。

とは言っても何か特別なものを用意する必要はないとのことだったので、普段の外出と大差はない。


「それにしても昨夜といい、今朝のみんなの様子も変だったよな?」


昨夜、千夏さんに送ってもらい自宅へと戻ると、まず出迎えてくれたのは綾さんだった。


『おかえり~どう?今日は楽しかった?ねぇねぇ』


何か良いことでもあったのか、綾さんのテンションは高く、正直かなりめんどくさいノリだった。

ひとまず綾さんに軽くあしらいつつリビングに入ると、そこではのあと李華がテレビを見ていた。


『ただいま。お土産にお菓子とか買ってきたんだけど食べるか?』

『『…………………』』


二人はオレの声が聞こえていないかのように、テレビに視線を固定したままだった。


『おい。どうしたんだ?調子でも悪いのか?』

『慎にぃさ…私も煽っておいてなんだけど、さすがに反応に困るというか…』

『は?』


返答した李華の言っていることがよく解らない。

それに普段はズバズバと物事を言う李華にしては歯切れが悪い。


そして、のあはというと

『(……じぃーー……ぷぃっ)』


オレの顔を見たかと思うと、すぐにテレビへと視線を戻した。


『ぷぷぷっ』


綾さんはというとオレ達の様子を見て笑っている。


『あっ…そういえば…』


そこでオレはお菓子以外にも買っていたお土産を思い出し、テーブルの上に置いた。


『子供っぽいかとも思ったんだけど、キーホルダー買って来たんだ。人気順にイルカとアシカにサメなんだけど、どれがいい?』

『『『イルカ!!!!』』』


三人が若干、食い気味にほぼ同時に一番人気のイルカを指名した。

その後、たかがキーホルダーの為に全力で行われたジャンケン大会により、イルカは綾さんの手に渡り、次に勝利した李華は何故か三番人気のサメを選んだ。

そして終始、参加者から冷たい視線を送られ続けた二番人気のはずのアシカは、引きつった表情を浮かべた、のあの元へと行くことになった。


『(たまたまだろうけど、三人ともアシカに恨みでもあるのか?鬼気迫るようなものがあったけど…気のせいか?)』


結局、昨夜はそれから特にこれといった話をする場面はなく、各自が早々に部屋へ戻ることとなった。

そして今朝、朝食を準備しているところへやってきた三人に、今日の予定を伝えた時も昨夜と似たような反応が返ってきた。

実際、気になるところではあるが、ひとまずは帰ってきてから考えよう。

このまま上の空で紗菜達に迷惑をかける訳にはいかない。


-ピンポーン-


ちょうど、そのタイミングで呼び鈴が鳴った。


『おはようございます。迎えに来ました』


インターフォン越しに映る紗菜を見て、オレは気合いを入れ直したのだった。


――――――


「慎弥くんおはよう」

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」


昨夜と同じく千夏さんの運転する車に乗り込む。

違う点とすれば今日は助手席ではなく、紗菜と二人で後部座席に乗っていることぐらいだ。


「慎くんは昨夜ゆっくり休めましたか?」

「まぁ珍しく李華達も静かだったからな。むしろ普段より休めたぐらいだな。紗菜の方は大丈夫か?」


のあや特に李華が騒がしい場合の多い我が家では昨夜のような日は珍しく、むしろ体調は万全だ。

オレはそれよりも先ほどから眠たそうにしている紗菜の方が気になった。


「へへっ…今日が楽しみでなかなか寝付けなくって」

「そうなのか。施設に行くの毎回、楽しみにしてたんだな」

「いえ…それはそうなんですが…今回は特別というか」

「?」


よく分からなかったが、紗菜にとって養護施設の手伝いは千夏さんが言っていた『紗菜の人見知り克服の為』というだけのものではなく、それ以上に意義があることなのだろう。


「それなら今のうちに少しでも寝ておいた方がいいんじゃないか?」

「でも車の中だとうまく寝れなくて…」

「まぁ座ったまま寝るのは慣れないよな…」


安定感の少ない座った状態では眠れないのもムリはないだろう。

『揺れが心地いい』という人もいるだろうが、オレ自身も得意な方ではない。

そんなオレ達を見兼ねてか、運転席から千夏さんが声を掛けた。


「それなら慎弥くんの肩を借りたら?」

「いやいや…千夏さん何を…」

「いいんですか!!!!!」

「は??」


先ほどまで眠たそうにしていた紗菜の眼が今はバッチリ見開きキラキラと輝いている。


「紗菜?本当に眠いんだよな?」

「はい!それはもう今すぐにでも眠らないと危ないくらい!!」


オレから見れば普段ではあり得ないぐらい絶好調に見える。


「まぁ肩を貸すぐらい別にいいけどさ…」

「では失礼します!」


オレの右肩に確かな重みがかかる。

これまでこんな経験をしたことはなかったが、不快さは全くなく、不思議な安心感すらある。


「紗菜…寝ずらかったりしないか…?」

「……………………」


返事がない。


「あらあら。もう寝ちゃったみたいね」

「すぅ…………すぅ……」


千夏さんの言葉に耳を澄ませてみると控えめな寝息が聞こえてきた。


「本当に寝てなかったんですね…」

「慎弥くんも今のうちに寝てていいのよ」

「でも…そういう…訳に…は……」


右側から感じる紗菜の心地いい温もりと髪からするいい香りに意識が遠くなっていく。


「ふふっおやすみなさい」


千夏さんの優しい声に返答してようとしたが口から言葉が出ることはなく、オレは眠りへと落ちていった。






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