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色違いnoあらかると  作者: 桜乃 葉
第2章
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第42話

望月家での会話が盛り上がり、気が付くと時刻は22時を大きく回っていた。


「今日はありがとうございました」


明日のこともあるので帰宅の為、千夏さんの運転する車の助手席に座ったオレへ、紗菜が今日のお礼を告げた。


「オレの方こそありがとな。明日もよろしく」

「はい。おやすみなさい。明日は9時ぐらいに迎えに行きますね」


紗菜と過ごした長く楽しかった1日が終わった。

それは寂しくもあったが、同時にオレの中では明日への期待も広がっていた。


「慎弥くん。なんだがムリにお願いした形になってしまってごめんなさいね」


帰りの車中で千夏さんが明日の件について申し訳なさそうに言った。


「そんなことないですよ。さっきも言いましたけど、明日は用事もありませんし」

「本当にありがとう」


罪悪感を与えないように軽く返答したつもりだったが、千夏さんから返って来たのは予想に反して深い感謝のこもった言葉だった。


「あっ!そういえば…」


オレは空気を変える意味も込めて、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみることにした。


「あの…養護施設の手伝いっていつからしてるんですか?」

「あぁ…そのことね」


少なくともオレは知らなかったし、昔からやっているならば聞いたことぐらいはあってもおかしくはない。


「慎弥くんは昔の紗菜にどんなイメージがあった?」

「昔ですか?いや…その…」

「別に気を使わなくていいのよ」

「えっと『人見知り』で『恥ずかしがり屋』ですかね」


なぜ紗菜の話が出てきたかは解らなかったがオレから見た昔の紗菜のイメージはそんなところだ。


「慎弥くんの言う通りね。じゃあ昔に比べて今はどう?」

「ずいぶん明るくなったとは思います。以前はオレ達以外とはほとんど喋れませんでしたから」

「慎弥くんにそこまで言ってもらえるなら、紗菜も大丈夫ね」


その顔は娘の成長に喜び、安堵する母のものだった。


「紗菜はね。慎弥くんと一緒にいられなくなったのを、本当のことを自分の口で話せなかったことが原因だと考えているの」

「っ…!千夏さんは…知ってたんですね…」

「あの子は何があったか教えてくれなかったけど、李華ちゃんから事情は聞いたわ」


この場合、李華には感謝しなくてはいかないだろう。

千夏さんだって自分の娘が理由も判らないまま、自分を責め続けているのを見るのは辛いだろう。


「じゃあ紗菜のために?」

「それだけではないのだけれど、たまたま話をいただいて。あの子、慎弥くん達の後ろを付いていくばかりで自分からは行動出来なかったけど、この話をしたら興味を持ったみたいで、紗菜が変わるいいタイミングだと思ったの」


改めて気づいた。

オレがしたことは動画を見た人だけではなく、関係したものの家族までにも迷惑を掛けていること。


「本当にすみませんでした」


謝って許してもらえるものではないかもしれないが、謝らずにはいられなかった。


「……………」


すると千夏さんは無言のまま車のハザードランプを着けると、車を路肩に寄せて停車した。


「(そりゃあ水に流せることじゃないよな…)」

「本当にごめんなさい」


だが千夏さんから出たのは予想とは真逆の言葉だった。


「えっ…!?」

「私達は大人という立場でありながら何もすることが出来なかったわ」

「いえ!悪いのはオレで…」


『千夏さんが悪いことなんて』と続けようとしたが、それは他ならぬ千夏さんによって遮られた。


「慎弥くんには感謝してるの。だって紗菜やみんなを守ってくれたんだから」

「そんなことないです。だって実際に紗菜は…」

「そうね。でも、あの件がなくても紗菜はきっと遅かれ早かれ似たような壁にはぶつかっていたと思うわ」

「……………」


千夏さんの話すことは高校生という身分の自分には本当の意味では理解できなかった。

オレは今、自分の目の前のことに精一杯で未来のことまでは想像もできない。


「あの件で紗菜は成長できたわ。でも代わりに慎弥くんが犠牲になったことを私達夫婦はずっと後悔していたの」

「いえ、千夏さん達が気に病むことでは…」

「慎弥くんは本当に優しいのね」


千夏さんは柔らかく微笑んだ。


「そんな慎弥くんの優しさに頼りきって悪いのだけど、これからも紗菜のことお願いしてもいいかしら?」

「それはもちろん。まぁオレに出来る範囲で、ですけど…」

「そんな慎弥くんだから頼めるのよ。無責任に『任せろ』なんて言わないから」

「そんなものですか?」

「そんなものなのよ」


千夏さんはまた微笑んだ。


「本当は紗菜のことを『一生』お願いしたいところだけどね」

「一生?それはさすがに無理なんじゃ…?紗菜だって進学や結婚で遠くに行ったら今と同じ様には…」


実際、紗菜が杜下高校ではなく私立へと進学していれば、今のような間柄ではなかった可能性は高い。


「でも、慎弥くんがウチの息子になってくれれば問題ないでしょ?」

「は…?」

「だから、紗菜と結婚してくれれば、ずっと一緒よね?」

「なっ!?なにを…!!」


冗談で言っているのだろうが、今日の水族館でのことを思い浮かべてしまったオレは、とっさに返答することが出来なかった。


「あら?もしかして結構、脈ありかしら?」

「からかわないでください!?」

「からかってないわよ。慎弥くんが息子になったら私も旦那も嬉しいし」

「結婚は当人の問題ですが…」


その後、車を再度発進させるまで10分以上もかかり、当然のように家に着くまで千夏さんがその手の話を止めることはなかった。





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