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色違いnoあらかると  作者: 桜乃 葉
第2章
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第40話

『赤ちゃんペンギンふれあいコーナー』へやってきたオレ達は、幸いにもイルカショーに人が流れていたこともあり、すぐに参加することができた。


「ラッキーでしたね」

「そうだな」


そんなことを話しながらオレ達は飼育員の先導で赤ちゃんペンギンの飼育施設へと入っていった。

部屋の中に通されたオレ達の前には、二羽の赤ちゃんペンギンがいた。


「わぁ…まだちっちゃくてふわふわ」

「そうだな」


ありきたりな反応かもしれないが、オレも紗菜と同じ感想だった。


「この二羽は2ヶ月前に産まれたばかりなんですよ」

「「おぉ~…」」


飼育員さんの言葉に、二人揃って変な感動を覚えた。


「まず右側にいるのが女の子で名前は『サナちゃん』です」

「えっ!?私と同じ名前ですね」

「みたいだな。おーいサナおいで~」


ペンギンの方の『サナ』はオレの方を見ると足を一生懸命に動かして、こちらに寄って来た。


「自分の名前がわかるのか?サナは偉いな」

「私だって呼ばれればすぐに行きますよ」


オレがサナを撫でながら言うと紗菜が対抗してきた。

人間とペンギンで何を張り合っているのだろうかとは思ったが、今は放っておいてオレはそのままサナを抱き上げた。


「あーずるい!!」

「じゃあ彼女さんも抱っこしてみませんか?」

「か…彼女!!それよりも…抱っこする方って意味で言ったのでは…」


紗菜は消え入りそうな声で何かを言っていたが、飼育員さんも聞き取れなかったようで、もう一羽の赤ちゃんペンギンを抱えてきた。


『まぁ彼女じゃないんだけどな…それにしても「ずるい」なんて、よっぽどペンギンが好きなのか?』


そうだとしたら、ここに来たのは正解だったかもしれない。


「この子は男の子で名前は『シンくん』っていいます」

『シンって…またコイツもピンポイントな名前を』

「へぇ~君は『シンくん』っていうんだね。おいで~」


先程までは落ち着きのなかった紗菜だったが、ペンギンの『シン』を抱きかかえるとオレの方をニヤリと見た。


「シンくんはおとなしいね。じゃあ、もっとギュ~ッ」


紗菜はシンを腕で包み胸の前で抱え込んだ。

シンの方はされるがままで、むしろ気持ち良さそうに眠りかけている。


「すごいですね!シンくんがこんなに安心して抱っこされてるなんて…」

「そうですか?シンくんに好かれてるんでしょうか?」


紗菜はわざとなのか、自慢するかのように少し大きめな声で言った。


-キュー-

「お前が大きな声だすからサナが怖がってるじゃないか」

「私のせいじゃないです」

「サナ大丈夫か~?」


オレは抱えたままのサナを撫でてやる。

するとサナは甘えるようにすり寄ってきた。


「彼氏さんもすごいですね。サナちゃんがそんなに甘えるの初めて見ました」

「だから彼氏じゃ…まぁこっちのサナは素直でかわいいですからね」


オレも先程のお返しとばかりに紗菜の方をチラリと見ながら言う。


「誰が『素直じゃない』んですか!?それを言うなら、こっちのシンくんだって意地悪じゃなくてかわいいです!!」

「誰がいつ意地悪なんかしたって言うんだよ!!」

「わからないんですか!?昨日だってそうじゃないですか!!人の気も知らないで!!」


飼育員さんが『あちゃー』という顔をしていたのが見えたが先に始めたのは紗菜だ、オレが引く道理はない。

そんなことをしていると、オレ達に抱かれていたペンギン達が『降ろせ』と言わんばかりに暴れだした。

-「「キュー」」-


仕方なく降ろすと、二羽のペンギンはオレと紗菜の方を向くと非難がましく鳴いた。

それはまるで『仲良くしなさい』と言っているようで、オレ達はお互いに向き合った。


「「ごめんなさい」」


ヒートアップしすぎたとはいえ、まさかペンギンに諭される日が来るとは思わなかった。


-「「キュー」」-

オレ達の姿を見た二羽のペンギンは満足そうに鳴き身を寄せあった。


「あはは…。では時間になりましたので出ましょうか」

「「はい…」」


渇いた笑いをこぼした飼育員さんに促されて返事をしたものの、オレ達は恥ずかしさから顔を上げることが出来なかった。

だが最後に『また来て下さいね。あの二羽も喜びます』と言ってもらえたことだけは救いだったかもしれない。


「…………………」

「…………………」


しばらくの間、気まずさと恥ずかしさでオレ達は無言のまま館内を宛もなく歩いていた。


「…何か話してください………」

「……紗菜こそ話題ないのかよ…?」


無言に堪えきれず探り合いを始めたが、事態は好転する気配がない。


「こういう時は男性がリードするものですよね?」

「偏見だ。オレにそんなもの求めるな」


言い争いになりそうなピリッとしたムードが二人を包む。

先に仕掛けたのは紗菜だった。


「シンくんは本当によかったのに、私の胸の中で安心して眠っちゃったりして」

「サナだって脇の下辺りを撫でてやると、すごく気持ち良さそうにしてたぞ」

「「ふふっ…はははっ!」」


オレ達は目を合わせると笑いあった。

嫌なムードは二羽の名前を出したとたんになくなっていた。


「こんなことしてたらアイツ等にまた怒られるな」

「そうですね」


オレ達はまたおかしくなって苦笑した。


「じゃあ改めてイルカショー見に行くか?」

「いえイルカはもう大丈夫です」

「いいのか?楽しみにしてたんじゃ…」


楽しみにしていたはずの紗菜だったが、今は未練などないようにすっきりとした顔をしている。


「イルカショーはまた今度、シンくんとサナちゃんに会いに来た時にします」

「そうだな…また来よう」

「はい!」


オレ達は頷き合うと出口方向へと歩いて行った。

『次に来る時まで二羽はどのくらい成長しているだろうか?あとイルカショーを見る時は水がかかる最前列は避けよう』

オレはそんなことを考えながら、来る前よりも大人びた紗菜の横顔を見ていた。


――――――――――


イルカショーも終わり、私達は濡れた服が乾くのを待ちながら休憩をとっていた。


「まさかアシカにも水をかけられるとはね…」

「アシカって近くで見ると迫力ありますよね…」


ステージ中はノリノリだった綾さんと李華ちゃんも、終わってずぶ濡れになった後ではさすがにテンションが下がっているようだった。


「暑い時期でよかったですね。もうだいぶ乾いてきたみたいだし」


私は自分のTシャツに触れながら言った。


「大学生になってから水族館に来る機会とかなかったけど、やっぱり楽しいものだね」

「いや~私ももっと早く慎にぃや紗菜を誘って来てればよかった」


なんだかんだで二人は楽しめたようで、その顔には充実感が見てとれる。

だが私には一つ、どうしても確認しておかなければならないことがあった。


「まぁ当初の目的とは違ってますけどね…」

「「……………!!!!」」


表情だけで判る。

この二人が楽しみ過ぎて尾行のために水族館まで来たことを忘れていたことぐらいは。


「二人はどこ?」

「知りません」


綾さんの問いの答えを私が知る訳がない。

だって、ずっと一緒にいたのだから。


「連絡して現在地を聞けば…」

「怪しまれるだけじゃないかな?」


李華ちゃんの提案に正論で返す。


「今日はもう帰りましょう。遊びに来たと思えばいいじゃないですか」


最初から乗り気ではなかったことだし、本音を言えばもう終わりにしたいし、慎弥達だって既に帰っているかもしれない。


「そうだね…うん…帰ろう」

「いい思い出になったよ…私は大丈夫…」


若干、心に傷を残してしまったようだが、二人は渋々ながら立ち上がり、出口方面へ歩き出そうとした。


-ガチャ-

その時、観覧経路から外れている扉が開き、中から二人の人物が出てきた。


「うん?あれって…」

「慎にぃに紗菜?」


私に釣られて、そちらを見た李華ちゃんがその二人の名前を告げた。


「まだ出てなかったんだ…でもなんであんな扉から?」

「この際、それは後回しだよ。何にせよ尾行再開だ」


綾さんにとっては、私の疑問よりも一度は終わったかと思えた尾行の継続の方が重要だったらしい。


「じゃあ見つからない様に近づかないと」


私達は李華ちゃんの言った様に二人の死角に入る形で建物の影を進んだ。


「あの、何か変じゃないですか?」

「のあちゃん、変って何が?」


まぁ一番変なのは私達だろうが、今は気にせず自分の考えを発する。


「あの二人、さっきから無言みたいだし、微妙な距離感ありませんか?」

「うーん…まぁデート中に問題発生とか?よくある話ではあるよね」

「粗方、慎にぃが紗菜に何かしたとかじゃない?」

「見逃しちゃったか~すごく残念」


二人の中では、もう既に慎弥が何かをしたということで決着がついてしまったようだ。


『『ふふっ…はははっ!』』

「二人に動きあり。綾さんどうする?」

「会話を聞き洩らさないように耳を澄ませて」


綾さんと李華ちゃんは完成に当初の勢いを取り戻したようで、二人の会話に耳を傾けていた。

私達の横を通る人達には不信の目を向けられていたが、今さら止められる訳もなく、私も真似て慎弥達の話を聞く態勢に入る。


『シンくんは本当によかったのに、私の胸の中で安心して眠っちゃったりして』

『サナだって脇の下辺りを撫でてやると、すごく気持ち良さそうにしてたぞ』


その発言に私達の中で時間が止まったかのような錯覚を覚えた。


「あの二人になにがあったの?『胸の中で寝る』とか『脇の下を撫でた』とか」

「慎にぃも紗菜も人前でなんて際どいこと言ってんの…」


綾さんはアゴが外れるのではないかというぐらい驚いた表情を見せ、李華ちゃんは血の気が引いた顔をしていた。


「慎弥サイテー。隠れて何してたんだか…」


そして私は私で慎弥に軽蔑の視線を送った。


「いや~若者は時として予想を簡単に越えてくるよね」

「さすがに時間と場所くらいはわきまえて欲しいですけど…」


綾さんは複雑ながらもおどけた様子で同意を求めたが、李華ちゃんは近しい二人のことだけに、珍しく正論だった。


「とりあえず何か食べてから帰りませんか?今のまま帰るのはちょっと…」


そういう私も決して余裕のある状況ではなかった。


「のあさんに賛成。私もちょっと時間を置きたい…」

「じゃあ行こっか。綾さん、いいですよね?」


綾さんの方を見ると、綾さんは何か考え込んでいる様子だった。


「…今の紗菜ちゃんの笑顔、どこかで…」

「綾さん何か言いましたか?」

「あっ…ゴメンゴメン。じゃあ行こうか」


綾さんはそう言うと歩き出し、私は李華ちゃんと、その後ろ姿を追いかけたのだった。





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