表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色違いnoあらかると  作者: 桜乃 葉
第2章
39/72

第38話

-ピピピッピピピッ-

普段通りの6時に鳴り響いた目覚まし時計をオレは重たい身体を起こしながら止めた。


「もう朝か…」


綾さんに言われたこと。


『こんなのは私の知っている「s2kr」じゃない』


昨夜からその言葉が指す意味を考えていると、気がつけば夜が明けていた。


「何が違うんだ?」


綾さんの意見を『たかが、一人の視聴者の感想』とすることはできる。

だが、あれほど『s2kr』への想いを抱いている人の意見が間違っているはずがない。

特に綾さんはモデルとして、見る人への発信という部分でも数々の経験を持っているだろう。


「ダメだ…頭が回らない」


普段ならば朝食や学校の準備をしなければならないところだが、今日は都合よく土曜日。

朝食の準備は申し訳ないが紗菜に任せて、オレは週休二日の学校教育に感謝しながら少しだけでも睡眠を取らせてもらおう。

そう思い、再び布団へと戻った時だった。


-ガタン!!-


「慎にぃ!!朝だよ!!」


乱暴に開けられた襖から李華が現れたのは。


「知ってる…」

「なんだ。部屋から出て来ないから寝坊かと思った」


週に一度は寝坊しかけ、オレが起こさなければ昼過ぎまで寝ている李華にだけは言われたくない。

紗菜が泊まった為か、今日は珍しく早起きのようだが。


「慎にぃ。まだ準備してないの?」

「何で?別に予定とかなかっただろ?」


それに睡眠不足なのもあり、買い物の荷物持ちなども断固拒否するつもりだ。


「予定ならあるじゃん」

「ねぇよ!」

「ん?あれ?」


オレの反応に、李華は考え込む様子を見せる。


「あっ!言ってなかった」

「おい…」


なぜ重要な要件はオレのところまでたどり着かないのだろう?

まぁ原因はだいたい李華なのだが。


「とにかく早く準備して。紗菜を待たせちゃう」

「紗菜?紗菜がどうしたんだ?」

「今日は紗菜とデートだから」

「…………」


知らされていなかった予定が予想の斜め上過ぎて反応ができなかった。


「誰が?」

「慎にぃが」

「誰と?」

「紗菜と」

「李華も来るだろ?」

「だからデートだって」

「なぜ?」


状況を理解するべく、5W1H的な質問で疑問を解消していく。


「昨日のこと忘れた訳じゃないでしょ?」

「………………」


昨日、李華に紗菜の件を『手段を選ばない』と言われつつ任せたのは確かにオレだが、誰が翌日にその対価を払うことになると考えるだろうか?


「せめて明日じゃダメか?」

「ダメ」


李華は『デート』なんて言い方をしていたが、紗菜の要求は『買い物の付き添い』とかだろう。

だが、それを考慮した上での提案は、あっさり却下された。


「紗菜と直接交渉をしたいんだけど…」

「もう準備の為に一旦、家に帰ったよ」


こんな時間からご苦労なことだが、その選択はオレの首を着実に絞めた。


「待ち合わせは…?」

「駅に8時」

「ずいぶん早いな。行き先って聞いてるか?」


紗菜が既に準備に戻っていることから予想はしていたが、買い物に行くにしては早すぎる気がする。


「知らな~い」


間違いなく知っている反応だ。


「わかったよ…準備するからとりあえず出てけ」

「は~い。あと朝ご飯よろしく」


『自分でなんとかしろ!!』と口から出そうになったが、今の我が家の現状ではオレが作らなければ、客であるはずの綾さんが用意することになりかねない。

その後、オレは簡単な朝食を用意すると自分自身の支度を済ませた。


「あれ?慎弥はもう出かけるの?」

「あぁ。夕飯も作らなきゃだし、それまでには帰ってくるよ」


準備が終わり、待ち合わせ場所である駅に向かう為に家を出ようとしたオレに、朝食を終えリビングから出てきた のあが声を掛けた。


「そうなんだ。今日は綾さんを観光に連れて行こうと思ってたんだけど……」

「悪いな。李華辺りはヒマだろうから、オレの代わりに連れて行ってくれ」

「確かに、李華ちゃんからはOKもらってるんだけど……」


紗菜がオレと一緒に行動するならば、李華はヒマだろうとは思っていたが、どうやら予想通りだったらしい。

のあだって誰かを案内出来るぐらいには色々な場所に行っているだろうし、李華が一緒なら大丈夫だろう。


「何かあるのか?」

「いや…そういう訳じゃないんだけど…」


だが、のあは歯切れが悪そうな素振りを見せている。


「とにかくオレは急ぐから綾さんの案内は

頼むな」

「あっ…!慎弥……」

「楽しんで来いよ」


のあは何か言いたそうにしていたが、帰ってからでも時間はあることだし、オレはひとまず急ぎ足で紗菜との待ち合わせ場所の駅へと向かったのだった。


「慎く~ん!!」


なんとか待ち合わせの10分前に駅へと着いたオレを呼んだのは紗菜だった。

待ち合わせ時間よりは前だったが、家に戻ってから来た紗菜の方が早く着いていた。


「悪い。待たせたか?」

「そんなことないですよ。それよりも来てくれて嬉しいです♪」


申し訳なくなって、後から来た人の定番のセリフを言ってみたが、紗菜は嫌な顔ひとつせず、むしろ満面の笑みでオレを迎えてくれた。

以前、のあに同じことを言ったことがあったが、人によって返答が違うとは。


「それで今日はどこに行くんだ?」

「今日はですね~」


紗菜は本当に楽しそうに微笑んで、勿体ぶるように目的地を告げた。


「水族館です♪」

「水族館?なんでまた…」

「新しい水族館ってまだ言ったことないんですよ。それに今日は…で…デー……もう!早く行きましょう!!」


紗菜は何かを言おうとしていたが、真っ赤になったかと思うとオレに背を向け、改札の方へと歩いて行ってしまった。


「おーい。そんなに急がなくてもいいんじゃないか?」

「慎くん遅いですよ!!」


まさか紗菜がこんなに水族館が好きだとは知らなかった。


『今日行ってみて良さげだったら、また紗菜を誘ってみてもいいかもな。ついでにみんなも…ってアイツらが一緒じゃ騒がし過ぎるか』


オレは先を歩く紗菜の背中を眺めながら、そんなことを思っていた。

そう前しか見ていなかったせいで気がつけなかった。

後ろには、その騒がしい奴らがいたことを。


-同じく駅前-

「おっ。慎にぃ達が動き出したよ」

「よし!じゃあ尾行開始だ」


慎弥達の様子を監視していた李華ちゃんからの報告に綾さんがテンション高めに答えた。


「ねぇ…本当に付いて行くの?」

「のあさんだって『行く』って言ったじゃないですか」

「私は『水族館に行く』としか聞いてないんだけど…」


-慎弥が出発した、すぐ後-

「もう…慎弥も一緒に行けたら良かったのに…」


何の用事かは知らないが、慎弥はずいぶんと急いでいたようだ。

さすがにそれを引き留める訳にはいかなかったが、少し寂しい気がした。


「の~あちゃん」

「どうかしましたか?」


立ったままそんなことを考えていた私に朝食を食べ終わったばかりの綾さんが声をかけた。


「今日なんだけど水族館に行くことになったから、すぐに準備して」

「水族館ですか?」

「うん。李華ちゃんから人気のある水族館があるって聞いてさ」


私もニュース等で観たことがあって、いつかは行ってみたいとは思っていた。


「行くのはいいですけど、そんなに急がなくても…」

「のあさん甘いよ。もうミッションは始まっているんだから」

「ミッ…ミッション?」


綾さんと同じくリビングから出てきた李華ちゃんが観光には似合わない言葉を告げた。


「じゃあ1分後にここへ集合!!」

「ラジャー!!」

「えっ!?そんな早くですか!?」

「のあ隊員。時間は待ってくれないんだよ」


いつから隊員になったのかは知らないが、私は渋々綾隊長の命令に従い、急いで準備

をしたのであった。


-そして現在-

『まさか尾行の為に水族館に行くなんて…』


「李華ちゃん尾行プランは?」

「バッチリであります!」


頭を抱える私の横で綾さんに李華ちゃんが返答する。


「綾さんはなんでそんなに乗り気なんですか?」

「だって~高校生のデート風景なんて、お姉さん的には好物でしかないし~」


クールな顔して、そうなことを言わないで欲しい。

ファンが見たらイメージが崩れそうだ。


「じゃあ行くぞ~」

「お~」

「はぁ……」


ノリノリな二人を尻目に、私は大きなため息をついたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ