表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色違いnoあらかると  作者: 桜乃 葉
第2章
37/72

第36話

「綾さん。一つ質問いいですか?」

「なにかな?スリーサイズなら雑誌で公表してるよ」


綾さんの買い物へと同行する為、のあと別れてから、オレは綾さんに『どうしても』確認したかったことを聞いてみた。


「今日はちゃんと『履いて』ますよね?」

「ははは!!私だって毎日やってる訳じゃないよ」

「本当でしょうね?」

「じゃあ確認してみる?」


そう言うと、綾さんはセミロングのスカートを少し摘まみ持ち上げた。


「結構です!!」

「ちぇっ…つまんないの」


つまらなくて結構。

オレはまだ捕まりたくはないし、変人の仲間入りもしたくはない。


「で、今日は何を買いたいんですか?」

「へ?別に何もないけど?」

「は?何か買いたいからこうやって出向いてるんじゃないんですか?」

「いや、本当は君と二人で話したくてさ」

「???」


綾さんがオレに個人的に伝えたいこととはなんだろうか?


「私のアシストは君への『お礼』になったかな?」

「『お礼』ですか?」

「そう。のあちゃんを手助けして、こっちにいられるようにしたことは君にとってプラスになった?」

「なるほど…」


きっと綾さんは初めから、のあとオレの関係性を知っていたのだろう。

その上でオレへ例の件の『お礼』も兼ねて、のあへの助力をしてくれたのだろう。


「ありがとうございました。助かりました」

「お礼なんていいよ。これは慎弥くんへのお返しなんだから」

「でも、それが本題ではないですよね?」

「当たり~」


そうだろう。

それだけの為なら別にここまで準備をする必要はない。


「正直、これは君に言っていいことなのか迷ったけど、のあちゃんはだいぶ面倒な状況に置かれているの」

「面倒?」

「考えてみてよ。あれほどの人気があるアイドルが仕事をある程度犠牲にしてまで、この街にいるという現状を」


確かにその通りだ。

人気が出ることで上京するアイドルは沢山いるだろうが、それを逆にして仕事量を維持することは難しい。

そこに今回の動画による騒動。

仕事が絡めば利益にもなるが、学生が個人の裁量で作ったものとなれば、何の利益も生まない。


「大人が考えることなんてそんなものなのさ」

「オレ達が枷になってると?」

「そうは言わないよ。さっきも言ったけど、私は今の『NoeRu』の方が生き生きしてると思っているし」


綾さんは確かに痴女ではあるが、のあでありNoeRuのことをちゃんと見てくれている。

その部分は信頼できる。

だからこそ今、聞いておきたいことがあった。


「綾さんから見て、のあが今の生活を続けられる期間はどのくらい残っていると思いますか?」

「うーん。入れ替わりの激しい業界だから確実なことは言えないけど、のあちゃんが仕事を続けたいと思っているなら半年ぐらいじゃないかな?」

「半年ですか…?」


その時間はオレにはとても短く感じた。


「現状、仕事量は減っているし、そうなれば仕事の都合がつきにくいアイドルをわざわざ使う必要はないでしょ?」

「確かに…」

「でもそれは『今のまま』ならの話だけどね」

「何か方法があるんですか!?」


綾さんの言葉についつい前のめりで答えを求めてしまう。


「ちょ…!一旦落ち着いて落ち着いて…」

「す、すいません…」

「別にこれといった方法がある訳じゃないんだよね。とりあえず、この街に住むことがNoeRuと事務所にプラスになることを証明できれば、かな」

「難しそうですね…」


さっき綾さんが言ったように、現在はプラスの要素どころかマイナス面が大き過ぎる。


「最終的には、のあちゃんと君…いや君達が解決するしかないよ」

「みんなと相談してみます」


のあが今の生活を大切に思ってくれているのならなんとかしてあげたい。

それにオレ達にはみんなでやりたいことが山ほどある。


「私からも聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「なんでしょうか?」

「のあちゃんと紗菜ちゃん。どっちが本命?」


のあをあれほどイジっていたのに、綾さんはまだ遊び足りないようだ。


「はぁ…どっちも身内みたいなものですから、期待するようなことはありませんよ」

「え~お姉さん。甘酸っぱい青春の話とか聞きたかったなぁ」

「綾さんだって若いじゃないですか。大人の恋愛とかないんですか?」


職業柄、色々な人に会うことも多いだろうし、浮いた話の一つや二つ、綾さんならありそうだ。


「悲しいほど何もないなぁ~」

「ホントですか?モテそうなのに」

「ははっ、ありがとう。でもこればっかりは難しくてね」

「何かあるんですか?」

「うん。慎弥くんは朱音ちゃんのこと知ってるんだよね?」

「そりゃあ、お世話になってますし」


二人が親戚という話は聞いていたが、部長とこの件との繋がりが見えてこない。


「朱音ちゃんとは父親が兄弟同士の従姉妹なんだけど、言ってしまえば私達は名家の生まれなんだよね」

「えっ!?部長もですか?」

「まぁ朱音ちゃんはそれが嫌だから周りには話していないみたいだけど」


じゃあオレも本当なら聞いてはいけないのではないだろうか?


「朱音ちゃんはそんな古いしきたりを持っている一族みんなが嫌いなのさ」

「でも、それとさっきの話は何が関係してるんですか?」

「まぁ名家ならではの昔からの習慣でね。私達の結婚相手はほぼ決定してるんだよ。もちろん本人の意思とは無関係に」

「そんな時代錯誤な…」

「私もそう思うけど、古い家柄は面倒だから」


あまりに自分とかけ離れた話に理解が追い付かない。


「綾さんや部長…白崎先輩はそれでいいんですか?」

「そんな訳ないよ。それが嫌で今の仕事をしてるんだから」

「仕事をしてるからどうという話でもない気がするんですが…」

「仕事を理由に花嫁修業しなくて済むでしょ」

「はははっ……」


意外なほど子供っぽい理由に乾いた笑いしか出ない。

しかし、綾さんはすぐに柔らかな表情を消した。


「まぁそのせいで朱音ちゃんからは疎まれているんだけどね」

「白崎先輩から?」


この前の反応から部長が綾さんを敵視しているのは理解している。

だが直接の理由は親族だからということ以外にもあるようだ。


「私が逃げ回っているせいで、朱音ちゃんを高校卒業と同時に婚約させようって話が出ているんだ」

「えっ!?」

「朱音ちゃんからすれば、私は自由でいられる時間を奪った裏切り者だからね」


部長はただ単に人を嫌ったりはしない人だとは思っていたが、まさか家の事情まで関わっているとは予想外だった。


「オレが言っていいことではないかもしれませんが、このままでいいんですか?」

「いいわけないよ…朱音ちゃんは私にとって妹も同然だし、出来れば幸せになってほしい…」

「すみません…酷なことを聞いてしまって」


二人が二人とも幸せになれることは多分ない。

部長の幸せを優先するなら、綾さんは自分の幸せを諦めなければならない。


「もう行こうか、のあちゃんも待ってるだろうし」


そう言った綾さんの顔は寂しそうだった。


「綾さん…なんで今日はそこまで話してくれたんですか?」


今日の話はただの高校生にするにしては、あまりにも大人の事情が絡みすぎている。


「のあちゃんの件は彼女自身が君を信頼しているからだよ」

「じゃあ家の方の話は…」

「簡単だよ。私が『s2kr』のファンだからね」

「いや…オレは…」


綾さんにはオレのことは話していない。

のあだってこの話には慎重に慎重を重ねているし、事務所の件から想像は出来ても確信には至らないだろう。


「私達がこんな関係になる前、朱音ちゃんと二人で調べたんだ。そして君達が製作者だって知ったんだよ」

「なるほど…」


部長が入学早々にオレ達のことを知っていたのに綾さんも関わっていたとは思いもしなかった。


「だとしてもオレが綾さんや白崎先輩の力になれるのとは思えないんですが…」

「なれるよ。私だけじゃなく朱音ちゃんも『s2kr』が大好きだから」

「部長も…」


今まで知りもしなかった話に、つい普段の呼び名を出してしまう。


「のあちゃんが事務所の意見に逆らったのだって『s2kr』が関係してるんでしょ?」

「その通りです。今は続編を作ってます」

「そうなんだ…良かった。私と朱音ちゃんが例え望まない結果になったとしても、続きが観れれば心の支えにはなるから」


今まで疑問に思っていた。

部長は何故、オレ達に動画製作をする場所を用意してくれて、ここぞという場面では力を貸してくれるのか、と。


『聞かなきゃ良かった。なんて思ったら部長にも綾さんにも失礼だよな』


二人の為にオレができることは動画を完成させることだけなのかもしれない。

だからこそ『きっと二人を笑顔にできるものを作ろう』

そう決意したのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ