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色違いnoあらかると  作者: 桜乃 葉
第2章
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第33話

その後のエンジェル紗菜の活躍は凄かった。

オレ用のお粥と李華の夕飯を作ると、その他の家事もそつなくこなした。


「一応、お粥は多めに作っておいたので、お腹が空いたら食べてくださいね」

「何から何まで悪いな。お粥も美味しかった」

「元はといえば私を庇ったせいですから、気にしないでください」


李華とは比べるまでもないが、普段から家事をするオレから見ても紗菜の動きは素晴らしかった。

そんな紗菜の看病もあって、熱はまだ高いものの鼻水やくしゃみはだいぶ良くなっていた。


「ホント手際がいいな。普段から家事はやってるのか?」

「そうですね。最初は将来の為に練習してたんですが、気がついたら習慣になってました」

「へ~大したもんだ。オレにも今度、色々と教えてくれよ」


仕方なく家事をやり始めたオレとは違って、紗菜のように前向きにやっているのでは上達の具合も変わってくるのだろう。


「慎くんに上達されては困るのでダメです」

「へ?なんで?」

「そもそも私が家事を出来るようになりたいと思った要因は慎くんなんですからね」

「オレ何かしたか?」


紗菜が家事をすることとオレの関連性が全くわからない。


「ふんだ。もう知りません」

「いや、なんで怒ってるんだよ…」

「病人は寝ててくださーい」


今の会話から怒らせるような発言はなかったと思うのだが、やはり女の子は難しい。


*****


「やっぱり心配です…!!私も泊まって看病します!!」

「それは大袈裟すぎるだろ…」

「ですが全て私の責任ですし」


夜になり機嫌も戻った紗菜から出たのは、そんな提案だった。

その気持ちは有り難いが、泊まり込みするほどの迷惑はかけられない。


「若い男女が一つ屋根の下で寝泊まりするのは色々と問題だろ?」

「石川先輩も暮らしていて今さらですよね?」


全くもって正論である。


「ほら…何かあれば李華だっているし…」

「私に看病なんてできるはずないじゃん」

「…………お粥だって残ってるんだろ?それなら後は寝てれば…」

「えっ!?アレも慎にぃ用だったの?お腹空いてたから食べちゃったけど」

「………………」


我が家の病人を病人とも思わない妖怪に期待したのが間違いだった。


「ってかさ。もう外は暗いし、紗菜を一人で帰らせるのも危ないと思うんだけど?」

「………………」

「だそうですが。いいですよね慎くん?」

「はい…よろしくお願いします…」


もう諦めた方が身体的にも精神的にも良さそうな気になり、オレは紗菜の提案に甘えることにした。


「じゃあ、お布団の準備しなきゃですね」

「昔、お前が泊まる時に使ってたのが二階にあるから使ってくれ」

「いえ、ここにありますよ」


そう言うなり、今はオレの部屋となっている和室の押し入れから客用の布団を出し始め、オレの布団の横に並べた。


「何してんの?」

「側にいないと看病ができませんから」

「いや、普通にダメだから」

「大丈夫です!!心の準備はできてます!!」

何も大丈夫じゃない。

「風邪移るぞ。まぁ問題はそれだけじゃないが…」

「移ったら看病してくれますか?」


紗菜は目を輝かせながらオレを見詰めていたが、そんなことを簡単に了承する訳がない。


「ないから。諦めて李華の部屋に行け」

「石川先輩も隣に寝て……」

「ねぇよ!!のあを引き合いに出せば何でもオレがOKすると思ったら大間違いだぞ」

「むぅ~~」


それでも納得のいかない様子の紗菜を説得し終える頃、オレの体温は本日の最高を記録していた。


「もうダメだ……」


布団にくるまり目を閉じると、オレはそのまま意識を失うかのように深い眠りへと落ちていった。


******


「んっ…うぅん……」


すぐ近くで誰かの息づかいが聞こえる。

頭はまだぼんやりしていたが、状況を確認すべき目を開ける。

そこには予想外の人物がいた。


「え…?のっ…のあ!?」


のあは里帰り中で、ここにいるはずがない。

そんな彼女が昨日、紗菜の出した布団で寝ている。


「んっ…あっ……おはよう慎弥。体調はどう?」

「お、…おはよう……」

「だいぶ顔色も良いみたいね。安心した」


のあは目を擦りながら、柔らかな笑みを浮かべる。


「いやいや、それよりも!!お前、なんでここにいるんだよ!!」

「李華ちゃんから慎弥が風邪引いたって聞いて夜行バスで帰ってきたんだけど、慎弥の状況を見たら安心してここで寝ちゃって」


のあの顔には疲れの色が残っていた。

本来なら先に感謝を伝えたい場面だが、今はどうしても聞かなきゃいけないことが沢山ある。


「いや、事務所の方は!?」

「それなら意外と早く終わったから大丈夫。連絡もらった時も知り合いとお茶してた時だったし」

「でも終わったら実家に戻る予定だったろ!?」

「それは別にいいわよ。病人の方が大事」


事務所との話し合いが早く終わったとはいえ、実家に戻る予定をキャンセルさせてしまったことに軽い罪悪感を覚える。


「家族に会って話だってあっただろ?」

「慎弥だって今は家族でしょ。家族のピンチには駆けつけないと」


意外と情に厚いところがあり何事にも真剣。

確かに、のあはこういう奴だった。

しかし、のあの家族には本当に申し訳ないことをした。

父親あたりは娘に会えなくて悲しんでいるに違いない。

それを奪ったのがオレ(性別・男♂)だと知られた日には…


「オレ…死ぬかも…」

「えっ大丈夫!?どこか辛いの!?」


のあには要らぬ心配をかけてしまったが、わざわざ戻って来てくれたこと自体はとても嬉しい。


「ホントありがとな」

「別にいいわよ」


素っ気なく答えてはいたが、のあの頬には少し赤みがさしていた。


「ところで事務所の方が『早く終わった』ってことは問題なかったんだよな?」

「とりあえずはね。でも今回は運が良かっただけ。さっき言ったお茶してた人なんだけど、私と同時期に事務所に入ったお姉さん的な人なんだ。その人が口添えしてくれたおかげかな?」

「へぇ。そんな人がいたのか」


オレ自身、芸能関係に疎い面もあり、のあと一緒の事務所にそんな人がいるなんてことは初耳だった。

それでも、のあのことを解ってくれる人が事務所内にもいることは嬉しく思う。


「慎弥が知らないのはムリないよ。女性誌のモデルとかしている様な人だから」

「なんにせよ助かったのは確かだな」


そんなことを話していると、階段から誰かが降りてくる音がした。


-ガサッ-


「慎くん起きてますか?調子は……なっ…なんでアナタがいるんですかー!!」


襖を開ける音と共に現れたのは紗菜だった。

朝からそんな大声を上げて近所迷惑になってはいないだろうか?

とは言え、ここ数ヶ月の我が家の悲鳴や騒音で苦情がないところをみると、近所の皆様は寛大な心で見守ってくれているようだ。


「どちらかというと私のセリフなんだけど…」

「オレの看病に泊まりで来てくれたんだよ」

「そうだったんだ。紗菜ちゃんに迷惑かけてないでしょうね?」

「迷惑かけたのは李華の方だな」

「確かに…目に浮かぶようだわ」


のあに説明を兼ねたやり取りを交わしていると、紗菜がプルプルと震え出していた。


「おい、紗菜。大丈夫か?」

「なんですか!!その熟年夫婦みたいな会話は~!!これが千坂家の普通ですか!?私の知ってる千坂家と違うんですが~!!」


紗菜が何を怒っているのかはさっぱりだったが『やっぱり近所にはお詫びの品を持って行こう』ということだけは決意した。


その後『学校を休んで看病します』と言う紗菜をなんとか説得し、李華と一緒に学校へ向かわせた。

出る時に『やっぱり一緒に寝てるんじゃないですか』と誤解のある発言があったのは気になったが、それはひとまず置いておいて、のあと二人で少し遅めの朝食を摂る。

紗菜はオレのお粥だけではなく、のあの朝食も作って行ってくれたようで、幾分回復したオレもリビングで一緒に食べることにした。


「すぐに温めるから待ってて」

「サンキュー」


風邪を引いてしまったのは反省だが、たまにはご飯を用意してもらうのも悪くはない。

あとで紗菜にも改めてお礼を言おう。


「お待たせ~」


考え事をしている間に準備が終わっていたようで、オレの前に皿が差し出される。

だが、そこでオレは大きな疑問にぶち当たった。


「……これって紗菜が作ってくれてたお粥だよな?」

「うん。そうだよ」

「なんか昨日のと見た目が違うんだが…」


オレの目の前に出されたのは、赤く燃えたぎるマグマのような物体だった。


「汗かいた方が治りも早いと思って唐辛子とタバスコに…あとジョロキア?ってのも入れといたよ」

「……………」


オレは考えもしていなかった。

世の中には李華と同等レベルの料理スキルの者などいないと。

そういえばジョロキアパウダーを遊び感覚で買って来たのも李華だった。


「あっ!食べさせてあげようか?ふぅ…ふぅ…はい。あ~ん」


もはや冷ます冷まさないなど関係のない状態のお粥を無理やり口に入れられながら、オレは遠のいていく意識の中で思った。


『エンジェル紗菜…カムバック…』と。




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