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色違いnoあらかると  作者: 桜乃 葉
第2章
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第32話

「じゃあ行ってくるね……」


朝早く、のあが少し困り顔を見せながらオレに出発の挨拶を告げた。


「本当に大丈夫か?」

「うん。結果が分かったらできるだけ早く連絡するし」


のあの言う『結果』によってはオレも腹をくくらなければならない。

本当に彼女を一人で行かせていいのだろうか。


「やっぱりオレも一緒に行った方が…」

「心配性だな~」

「心配にもなるさ…結果次第ではオレも覚悟を決めなきゃいけないし」


のあは普段通りに振る舞ってはいるが、やはり不安なのだろう、両手を自分のお腹の上へと持っていった。


「大丈夫だよ。私達の愛が詰まってるんだもん。きっと分かってもらえるよ」

「そうか…のあ頑張れよ」


オレ達が決心を付けたところでリビングから李華がやってきた。


「のあさ~ん。胃薬あったから飲んで行ったら?」

「うん…ありがとう。やっぱり少しお腹痛いかも」

「まぁそうだよな…事務所からの呼び出しだもんな」


オレ達が新しく作ろうとしている動画の撮影が始まってすぐのこと。

以前、のあ達がオレを誘き寄せる為に作った動画の存在が事務所にバレ、のあは事務所から呼び出されてしまった。

のあの処遇次第では裏方に回らざる得なくなり主演女優の一人がいなくなってしまい、部内では最後の手段としてオレの女装化まで議題に上がる始末だ。

先ほどは『覚悟を決めなきゃ』なんては言ったが、実際のところ覚悟なんて決めようがなく、オレの胃までキリキリしている。


「まさか許可どころか何も言ってなかったとは」

「言ったところで許可は出なかっただろうから後悔はしていないんだけどね。ただ上手い言い訳が見つからなくて」


先日の動画はあの後すぐにサイトから削除した為、授業中であった生徒達には幸運にも知れ渡ることはなかった。

しかし、情報というのはどこから流れるか分からないもので、あの動画を見た全国の僅かな人達が、のあの事務所に動画の削除について、問い合わせがあったらしい。


「そもそも、オレに見せるだけなら動画をUPする必要ってなかったんじゃないか?」

「「………………………」」


のあと李華が明らかに固まり渋い表情を見せている。


「まさかとは思うが…お前達、気づいてなかったなんてことは……」

「そっ…!そんなことはないわよ。あれには深い理由がきちんとあるんだから!!」

「そうだよ…!!慎にぃには判らなかったみたいだけど、重要な意味があったんだから」

「あぁ……そうなんだ……」


きっとオレがその深い理由を知る機会が絶対にないことだけは理解ができた。


「まぁいい機会だし、実家で少しゆっくりして来いよ。学校には仕事で休みって言ってあるんだろ?」

「そうね。夏休み中に帰れるか分からないし、今の内に寄って来るわ」


仕事では戻ることがあっても学校がある為に実家で過ごす時間がなかなか取れない のあにとって事務所からの呼び出しは悪いことばかりではないだろう。


「じゃあ改めて、行ってきます」

「「行ってらっしゃい」」


こうしてオレと李華は、のあの里帰り兼、事務所への説明に送り出したのだった。


-その日の通学中-

「のあさん行っちゃったね~」

「だな。変にこじれないといいけど」


今日の通学は珍しく李華と一緒だ。

出てくる話題の中心はやはり先ほど別れた、のあのことだった。


「寂しくなるね~」

「三日間だけだろ?それに、えるの世話も頼まれてたんだからしっかりな」

「うん。えるちゃんといっぱい遊ぶ」

「世話をしろ!!世話を!!」


そんな話をしながら歩いていると、通学路の中ほどで誰かを待っている様子の人影を見つけた。


「あっ!李華ちゃんおはよう。今日は慎くんも一緒なんですね」

「おはー。ゴメンゴメン、のあさん送り出してからだから少し遅くなっちゃった」

「おはよう。そういえば、お前ら朝は一緒に登校してるんだったな」


高校生にもなると待ち合わせで登校などは減るものだと思っていたが、二人には関係ないようだ。


「今日は慎くんも一緒ですね♪」

「まぁいいか。それより学校ではその呼び方、気をつけろよ」

「分かってますよ。せん・ぱいっ♪」


昔からの呼び名で呼ぶことは許可したものの、学校では一応、先輩と呼ぶように紗菜には言った。


「慎にぃ。今日は両手に華だね」

「出来ればヘイト値は貯めたくないんだけどな…」


-校門-

「おい。またアイツだぞ」

「いい身分だよな」


生徒の数が増えると共に、オレの予想通りあからさまな嫌みが聞こえ始めた。


「今日もオレのヘイト値は絶好調だな」

「諦めなって、慎にぃの役得みたいなもんじゃん」


映像新聞部に入部して以降、紗菜と距離を取る必要もなくなり、のあとも部活を口実にして学校でも会話をできるようになった。

しかし、美少女揃いになった部活に入ろうとした者が次々と入部拒否されたこともあり、オレに対する風当たりは厳しくなるばかりだった。


「なんで広には矛先が向かないんだろうな?」

「キャラじゃない?広さんって良くも悪くもちゃらんぽらんだし」


李華の意見は妙にしっくりきたが、広だって李華には言われたくないと思う。


「それだけじゃないと私は思うがね」


オレ達の会話に割り込んできたのは、後ろからひょっこり現れた白崎部長だった。


「部長、おはようございます」

「おはようございます」

「朱音ちゃん、おはー」

「うん。みんな元気そうで何よりだ」

「それで部長。さっきの『それだけじゃない』って何ですか?」


挨拶もそこそこに、オレは気になったことを聞いてみた。


「いや、簡単な話さ。のあくんや紗菜くん。それに李華っちもだけど、親しく話しているのは君とばかりだろ?広くんの存在なんて君の影に隠れてるからね」

「いやいや、今の言い方だと広だけ浮いてるみたいに聞こえますよ」


あんな奴ではあるが、広も周りを見ながらバランスをとっている。


そんな広が浮いているなんてことは

「「………………」」

あるようだ。


紗菜と李華がとても気まずそうにしている。

これからは広にもっと優しくしてやろう。


「ところで、今日は新聞部の活動を手伝ってもらっていいかい?主演女優の片方がいないんじゃ撮影どころではないだろう?まぁ君が女装して、のあくんの代わりをするというなら強要はしないが…」

「しませんよ!!オレ達も今は部員なんですから何かあるなら手伝いますよ」


実際、今日はできることがないし、色々と助けてもらっている部長の頼みだ、断る理由はない。


「二人もいいだろ?」

「うん」

「はい」

「じゃあ放課後、部室まで頼むよ」


そう言い残すと部長は校舎へと向かって行った。


結果から言うと、その日の部活は大変だった。

取材班になったオレと紗菜は『学校近くで何か話題を探してきて』という完全な無茶振りを受けて、手当たり次第に聞き込みをしていた。

そもそも、人見知りするタイプの紗菜を取材班をしたのも問題であり、聞き込みも二人組という人海戦術が意味を成さない状況が続いた。


それはそんな最中に起きた。

『大きな亀がいた』という実にほのぼのした内容を聞いたオレ達は『もうこれで』と諦め半分で現場の川に向かった。

しかし、それがマジなネタだった。

そこには『あれ?これって水族館レベルじゃね?』という亀がいた。

その大きさに驚いた紗菜が足を滑らせ、それを庇うようにしてオレは川に転落した。


その結果

「へっくしょん!!」


6月とはいえ水に濡れたまま帰宅したオレは見事に風邪を引いた。

紗菜はしきりに頭を下げ謝っていたが、これはオレの確認不足が招いた結果だし、紗菜が悪い訳ではない。

だがここからが問題だ。

オレは身体中の震えが止まらず、もちろん家事はできずに布団の中。

のあがいない今、我が家の戦力は李華だけ。


その李華だが

「慎にぃ、お腹空いたね~」


もちろん自分で作るという選択肢はない。


「くしゅん!!カップラーメンで我慢してくれ」

「イ・ヤ・だ」


この妹はこれ以上、オレにどうしろというのだろうか?


「このままじゃメシ抜きだぞ?」

「大丈夫。助っ人を呼んでおいたから」


-ピンポーン-

「ほら来た」


李華はそう言うなり、玄関へと向かって行った。


「(助っ人って、大体の予想はつくけどな…)」

「慎くん!!大丈夫ですか!?」


予想通り現れたのは紗菜ではあったが、オレが考えられる中では間違いなく最高の助っ人だ。


「悪いな紗菜…ぐす…ずずっ…」

「私のせいで、そんなに鼻水まで出て…今すぐ温かいもの作りますね」


オレがなんとか身体を起こし、礼を述べると、紗菜は申し訳なさそうな顔をした後、すぐにキッチンへ向かい準備に取り掛かった。。

病気の時は人の優しさが骨身に染みると言うが、今の紗菜の後ろ姿からは天使の羽が生えている幻覚さえも見える。


「紗菜~私のゴハンもよろしく」


うん。今のはきっと妖怪の類いだろう。

多分『妖怪・御前覇何様惰(オマエハナニサマダ)』とかそんな。


「慎にぃ。私、えるちゃんにゴハンあげたよ」


オレの目線に気づいたのか、例の妖怪が自慢気に言った。


「うん…頑張った…次は自分のゴハンも頑張ろうな…」


オレはそう日、改めて両親の教育方針と自分の甘さを身をもって思い知ったのだった。





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