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色違いnoあらかると  作者: 桜乃 葉
第1章
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第29話

「はぁ…はぁ…っ…」


酸素を求めて、肺が悲鳴をあげている。

急ぎたい気持ちとは裏腹に思うように前に進まない両足がもどかしい。

オレは部長の待つ学校へと向かって走っていた。


「くっ…そ!!急がないといけないのに…」


普段の運動不足を気にも止めなかった自分が憎らしい。

この間にも動画の件が学校で広まっている可能性は高い。

オレが学校をサボろうと思ったが為に、学校だけではなく、既に多少の影響は出ているだろう。


「そんなことは…させちゃいけない…」


そんなことはさせてはいけない。

誰であろう。

そんなことはオレ自身が経験から一番知っている。


「はぁ…!はぁはぁっ!!」


オレは気持ちを持ち直すと、改めて学校へと急いだ。


『ガチャ!!』


「部長…!!いますか!!」


部室棟とはいえ、誰かに見られている可能性はあったが、オレはそれに構うことなく新聞部の部室のドアを乱暴に開けた。


「来てくれたんだね…ひとまずよかった」


学校は授業中であったが部長はオレが来ることを信じてか、部室で待っていてくれていた。


「部長!!あの動画は…!?」

「とりあえず、まずは座って話そうじゃないか。そんな様子では冷静に話なんて出来ないだろ」


部長もオレに連絡してきた段階では焦っていたようだったが、この手の案件には慣れているせいか冷静さを取り戻していた。


「ふぅ…」


普段通りの部長の姿を見たことにより、オレも冷静になる為に一つ息を吐く。


「すみませんでした。それで、あの動画の件なんですが、部長は何か知っていますか?」

「そうだねぇ…だけど意図はともかくとして、内容の方は慎弥くんの方がよく知っているんじゃないかい?」


部長はそう言うと机のパソコンを操作して、例の動画を再生し始めた。

そこに写し出されたのは何もない場所にいる二人の少女。

いや、何もない場所ではない。

そこにはかつて人々の生活、そして思いがあった場所なのだから。


「慎弥くん。君ならここが何処なのか判るんじゃないかい?」

「はい…。ここは『s2kr』の冒頭の場面を撮影した場所です…」


部長の問いかけにオレは画面から目線を外すことなく答える。


「なるほどね…で、君はどうするつもりだい?この動画を無視することは君にはできないと思うんだが」


部長がオレに問いかけている間も、画面の中の二人の少女、『のあ』と『紗菜』はかつての『s2kr』を見ているかのように映しだされている。


「これがどうあれ、今は削除させるのが先決です。このままじゃ以前の二の舞ですし…」


それで済めばまだマシかもしれない。

言い方は悪いが、前回は紗菜が標的となった為、問題はほとんど街の内部だけで済んでいた。

しかし、今回の動画となると話は別だ。

のあことNoeRuの知名度は間違いなく全国区。

ファンにとって動画の人物が、NoeRuだと特定することは難しくないだろう。

その時の反応の大きさをオレには想像することができない。


『……???』


だけど、そんなオレでさえ考えられるようなことが目の前にいる部長が想定できないハズがあるだろうか?

それを危惧して部長がオレに連絡してきたというならば、それ自体は納得がいく。

しかし、部長ならば動画自体を削除、それが難しくとも、一時的であれ事態の悪化を遅らせることぐらいはできたのでないだろうか?

考えてみればおかしな点は他にもある。

連絡してきた部長はオレに『どこにいる?』『返事をくれ』などというメッセージを送っていたが、そもそも部長はわざわざ連絡を待つような人ではない。

それほど大きくない街、部長の手に掛かればピンポイントな居場所までとはいかなくとも、特定の人物の足取りぐらいは掴めるハズだ。

らしくない部長の言動。

そして、行方の掴めないのあ達。


「部長…聞きたいことが…」


そこまで言った時に目の前のパソコンに新たな動画が投稿されたことを知らせるメッセージが届いた。

部長が事前に先ほどの動画の投稿者を登録していたのだろう。

新着動画のリンクが現れた。

オレは部長に軽く目線を送ったのち、パソコンを操作し動画を再生させた。


最初に映ったのはオレが先ほどまでいた、みんなで作った秘密基地だった。

この場所は『s2kr』でも一瞬しか映ることがなく、しかも人物もいない風景だけの映像は見た人にとって『編集のミス』としか思われなかったようだ。

だが『s2kr』を編集する際にオレはその一瞬を切ることができなかった。

それは思い出作りとして撮影を始める前、オレと広が小学校の卒業を半年後に控えた頃。

オレ達は紗菜の元気のなさを気にかけていた。

元より恥ずかしがり屋のせいで口数が少なく、特にオレに対しては李華を中継しないとまともに会話することもできない紗菜は、とても活発なタイプとは言えなかったが、それでも普段から彼女の近くにいるオレ達はその変化を感じとっていた。

そんな頃だった。


『お~い!家からビデオカメラ持ってきたぞーこれで何か撮ろうぜ!』


先に秘密基地に来ていたオレ達三人に、後から来た広がカメラを持って楽しそうに言った。


『何かってなんだよ…いつも広はテキトーだな』

『まぁいいじゃん。好きなもの撮ってみれば』

『…好きな…もの…』


オレと広の会話に反応したのは意外にも紗菜だった。


『ん?紗菜は何か撮りたいものでもあるのか?』

『…うん…』


広からカメラを受け取った紗菜はオレの方にカメラを向けたまま動きを止めた。


『紗菜…?何してるの?』

『…………』


紗菜は相変わらずオレに対して返答をしてくることはない。


『あ~なるほど。好きなものってことか』

『???』

『慎にぃ。もしかして分かってないの?』


広と李華は紗菜が撮影したいものが分かっているらしいが、オレにはそれがわからずに周りをぐるぐると見渡した。


『あーなるほど。悪い邪魔になってたな』


紗菜とオレを結ぶラインの先には秘密基地があった。

紗菜はきっと、これを撮影したかったのだろう。


『『………………』』


だが紗菜の邪魔をしない為か、広と李華が急に黙ったことだけは気になった。

そんな経緯もありオレ達は思い出作りとして、ことあるごとに撮影をするようになった。

そしてオレはそのきっかけとなった紗菜が撮影した秘密基地の映像を『s2kr』の中に残したのだった。


気がつくと再生していた動画は終盤に差し掛かっていた。

映像にはこれまで通り、のあと紗菜が軸として映されていた。


「のあ達は何の為にこの動画を投稿したんだ?」


オレはまだ意図を図りかねている。

すると画面は急に暗転し、次第に文字が浮かびあがってきた。


『As we desire the future will be the same as you』


「アズ ウィー…これはディザイア?部長、これって訳せますか?」


今は自分の英語力のなさを恥じている場合ではない。

オレは動画を一旦停止させると部長に助けを求めた。


「どれどれ…これは『私達の望む未来があなたと同じでありますように』となっているね」

「私達の望む未来…?」


のあ達が『望む未来』とはどういうことだろうか?

これが『s2kr』と同じ意図で投稿されたものなら受け取り手によってどうとでも解釈することができる。


「部長。部長ならこの言葉にどんな意味があると考えますか?」


すると、部長は右手を自分の顎に持って行き悩むような格好を見せた。


「今のままでは推測しかできないし、本人達から聞いた方が早いんじゃないかな?」

「そうは言っても何処にいるんだか…」

「そういう訳で君たちの思い。ちゃんと伝えたらどうだい?」


すると部長はオレにではなく、部室の奥の方を向いて語りかけた。

その声に答えるように仕切りのパーテーションから出て来たのはオレが今まさに探していた、のあ・紗菜・李華・広の四人だった。



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