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色違いnoあらかると  作者: 桜乃 葉
第1章
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第28話

「いってきま~す…」

-みぃ~-


とりあえず言ってみただけの挨拶だったが、一人と一匹で過ごす時間が長くなっているせいか、えるはきちんと挨拶を返してくれた。


のあと城跡で景色を見てから4日。

相変わらず、のあと李華は忙しいようで今朝も早くに出掛けて行った。

二人がそれぞれ何をしているのかは聞いていない。

李華の用事は、内容を知るのが恐ろしいし『人様に迷惑を掛けてなければOK』なのだが、のあに関しては、せっかくアイドルとしての仕事がヒマそうなので今の内の休養をとっておくのも手だとは思うのだが、本人にその気はないようだ。


「今日はこのままサボっちゃおっかな?」


元から登下校は一人のことがほとんどだが、最近は色々と考えごとが多いせいか余計に学校に行くのが面倒くさい。


「ん…?」


時間を確認しようとスマホを取り出すと、白崎部長からメッセージが届いていた。


『今日は広くんが休みみたいなんだ。悪いんだが、今日も部の手伝いをお願いできるかな?』


「タイミング悪っ……」


広の休みという滅多にない事態と重なってしまったことで、つい悪態をついてしまう。

先日、嫌と言うほど実感した『のあと自分との違い』

部長からのメッセージは、何だかそれを体現しているようだった。


「まぁ手伝いは放課後だし、それまでに行けばいいか…」


部長には欠席したことがすぐにバレるだろうが、あの人のことだ、部室にさえ顔を出せば攻められることはないだろう。

それに前進も後退も出来ないなら今だけ、少しだけでも普段通りの生活から『逃げたい』という気持ちがあったのも事実だ。

その気持ちもあり、オレは部長に『了解しました』とだけ返信すると、学校とは逆の方向へと足を向けた。


「とは言ってもどこに行こうかな…?」


サボることは決定したが、そこには大きな問題がある。

というのも、こんな時間から制服姿の学生が立ち寄れる場所はほとんどない。

一度、家に帰って着替えることも考えたが、放課後には制服姿で新聞部に行かなければならないので却下。


「となると……『あそこ』しかないよな……」


それからしばらく後、オレはゆっくりとした歩みで階段を登っていた。

ほどなくして目の前には目的地である近所の神社が見えてきた。


「思い返してみると、最近はここで色々なことがあったよな…」


元々、『s2kr』の撮影で使ったりと昔から馴染みのある場所だが、のあが転校してきてからは、それに負けないほどの出来事が多々あった。

今、歩いている参道では、のあから『s2krを作った人を探す為に転校してきた』と話をされた

(最近では綾さんに会った場所だが、それは意図的に無かったことにした)。


そのまま境内の裏に回ると、ひときわ大きい木が見えてきた。

その御神木には、のあが蹴りを入れるという、今となってもバチ当たりとしか思えないことだってあった。

そんな思い出を景色に重ねながら、オレは御神木の横を通り過ぎる。


少し歩いた先にあったのは、材木を並べて作っただけのベンチと過去の記憶。

それは、のあが転校してくるよりもずっと昔の思い出。

この秘密基地と呼ぶには雑過ぎるただの空間で、まだ子供だったオレ達四人は遊んでいた。

さすがに中学生になる頃には遊びでここに訪れることはなくなっていたが、それでも何かあればオレ達はここに集まり雑談をしていた。


「ふぅ…」


特に疲れる様なことをした訳ではないが、かつてここで過ごした時間を思い出したせいだろうか?

感じた年月に大げさなため息が出た。


「休むつもりで来たはずなんだけどな…」


予定に反して思い出された記憶に、逆に疲れた様な気すらする。


「えっと…」


とりあえず時間を確認してみるが、自分の体感ほど時間は進んではいなく更に気が滅入る。


「はぁ…諦めて学校に行くか…あんまり部長には借りを作りたくないけど、部室でサボらせて貰おう」


こんなところまで来てから気づくのも遅いとは思うが、一人で色々とサボる方法を考えてるのはオレには向いていないようだ。

部長に連絡を取ろうとスマホを見ると新しいメッセージが鬼のように届いていた。


「??全て部長からだ…」


確かにオレが学校にいないことはバレているだろうが、部長はそんなことを気にする人ではない。

それに放課後に部室に行くことは連絡済だし、部長から連絡が来るようなことは想像もつかない。


「嫌な予感しかしない…」


そんな予感を抱きつつも、異常事態と思われるメッセージを一つ一つ開いていく。


「えっ……?」


オレの予感は的中していた。

最初のメッセージはこうだ。


『放課後は来てくれるようで安心したよ。ところで広くんだけじゃなく、のあくんや李華っち達も学校に来ていないようなんだが、一緒にいるのかい?』


部長の『放課後は』という言葉からオレが学校にいないことがバレているのは予想通りだが、のあと李華が登校していないというのはどういうことだ。

オレは今朝早くに二人が出て行っているのを見ている。

恐る恐る、次のメッセージを確認する。


『今日、学校で話題になっている件なんだが、君が主導しているのかい?私には君がやっていることには思えないんだが…』


主導?部長の言う通り、オレには学校の話題に上がるようなことをした覚えはない。


『君は今、どこにいるんだ?とにかく一度、学校へ来てくれ』


普段の部長からは考えられない様な焦りをメッセージ越しに感じる。

その後は『どこにいるんだい?』『気づいたら返事をしてくれ』といったメッセージがしばらく続いた。


「あれ?これって…」


そんな部長からのメッセージの中にURLが貼ってあるのを見つけ、すぐさまそこへアクセスする。

飛んだ先は動画サイトのようで、そこにあった動画が自動再生される。


「……………」


数分間の映像を見ている間、オレは呼吸するのを忘れたかのように黙り込むことしかできなかった。


「っ……!!」


動画を見て、部長が焦っていた理由を理解したオレは再生が終わると同時に走り出した。

どうすればいいのかはわからない。

それでもオレはひとまず、部長の待つ学校へと急いだのだった。




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