第23話
-日曜日-
「はぁ…ヒマだな」
土曜・日曜の千坂家はかつてないほどに平和だった。
「何も起こらないって、やることもないってことなんだよな…」
騒がしいことや、考えさせられることばかりが起きていた時は『穏やかな時間が欲しい』と思っていたが、いざそれを手に入れると途端にソワソワしてしまう。
「こんなんじゃ老け込んでしまいそうだ」
ただただお茶をすすっていると気持ちだけでなく身体まで参ってきてしまう。
「えるのゴハンもやったし、たまにはいいのかもな」
まぁ言い換えれば『今日だけで十分だ』という思いもあった。
-みぃ-
えるもヒマだったのか、オレがソファーで横になると上に乗ってきて、そのまま丸くなり眠り始めた。
それを見ていると、こちらまで眠気に誘われた。
「ふぁ………くぅ………Zzz …… 」
-数時間後-
「ぅっ……んん…あれ?」
オレが目を覚ますと辺りは既に夕暮れだった。
既に、えるの姿はなかったが、時間的にそろそろエサをたかりに来るだろう。
「その前に用意してやるか」
案の定、食器にゴハンを用意すると一目散にえるがやってきて、美味しいに食べ始めた。
「オレはどうするかな…作るのも面倒だし外で済ませるか」
そう決めるとオレは最低限の準備を済ませ、家を出た。
*****
家を出て暫くして何を食べるか、色々な店を眺めながら考えていると同じように歩いている人物が目に入った。
「あれってもしかして…のあ?それに一緒にいるのは広だよな…?」
以前までの学校での二人の様子からは想像もつかない組み合わせではあった。
それにアイドルという立場から出歩く場合でも勘違いされないようにと、男と二人きりの状況を作ることのない、のあにとっては珍しい場面でもある。
「………………」
声をかけることも出来ず見ていると、結構いい雰囲気にも見える。
というか楽しそうだ。
もちろん、のあからも広からも二人で会うという話は聞いていない。
「実は付き合ってるとか…?」
考えられるのはそれくらいしか思い浮かばない。
広の友人であり、のあの家族である自分が、二人の言動から気がついてやれなかったのが悔しいし、それと同時に寂しさも感じていた。
しかしオレ自身、その寂しさの理由までは理解出来ずにいた。
******
「李華ちゃん。もうすぐ先輩達と合流しようか?」
のあさんと広さん一旦別れた私は、紗菜と二人で買い出しに来ていた。
「そうだね。さっさと再開しないと遅くなっちゃう」
私の言葉に紗菜が頷き、連絡を取ろうとした時だった。
「李華ちゃん…あれって慎くんじゃない?」
紗菜の視線の先には紛れもなく慎にぃがいた。
「………!!!!」
そして慎にぃの視線は私達との合流の為に歩いている、のあさんと広さんを確実にロックオンしていた。
「あれってまずいよね?今の状況で慎くんに見つかったら…」
「いや…それどころじゃないかも」
紗菜が言いたいことも分かるが、現状からいって別の問題がある。
「多分だけど、あれを見て慎にぃは『二人が付き合ってる』って勘違いするんじゃ?」
「李華ちゃん!?それって……」
ようやく紗菜も理解してくれたようで安心する。
「むしろ好都合なんじゃ!?誤解したままにしましょう!!」
「………………」
前言撤回。紗菜にとっては誤解によりライバルが一人減るという考え方も出来る。
「いくらなんでもそれは…」
「もちろん冗談ですよ♪」
「………………」
『拝啓。お父様、お母様。
最近、親友の考えていることがわかりません』
なんて柄にもなく思ってしまうほどに、最近の紗菜はテンションが高い。
以前なら私の冗談にオロオロしていた紗菜が、逆に私を驚かせるようなことを言いだした理由は、やっぱり慎にぃと授業をサボった時からだろう。
何があったか詳しくは知らないが、それ以降で紗菜の様子が変わったのは間違いない。
「とりあえず広さんに状況を連絡して今日は解散にしよう。あとは慎にぃだけど…」
「私に任せて」
私が広さんにメッセージを送っていると、紗菜は慎にぃの方に歩いて行った。
「慎くん。何してるんですか?」
「紗菜…お前こそどうしたんだ?」
「今は李華ちゃんとお買い物中なんです。ほら李華ちゃんもそっちに」
紗菜が私を指差し、慎にぃもこちらに振り向く。
「慎にぃ。何か用事?」
「あぁ。夕飯でもと思ってな」
そう言ったものの、慎にぃは私のメッセージを見て、この場を離れようとする二人の姿が気になるようだった。
「じゃあ私達と一緒に行きませんか?」
「いや…でもオレとお前は…」
「慎くんはこの前、私と『買い物に行ってくれる』って言ってましたよね?それの埋め合わせってことで」
この間のことだろうか?慎にぃは紗菜に借りがあるようだった。
「はぁ…今回だけだぞ」
慎にぃはまだ広さん達のことが気になるようだったが、渋々といった感じで私達と一緒に歩きだした。




