第21話
「意外と重いな…」
なんとか店員さんと相談しながら、える用のネコ用品を買い込んだオレはようやく帰路についた。
「このままじゃ夕飯の買い出しはムリだな…今日は有り合わせで作るか」
のあと李華には申し訳ないが夕飯には期待しないでもらおう。
そもそも二人のどちらかでも一人が来てくれれば買い出しにも行けたのだし、文句など付けさせはしないが。
オレは電車に乗り込むと、自宅の最寄り駅へと向かった。
-駅-
電車の扉が開く。
両手いっぱいの荷物に悪戦苦闘しながらも、なんとか駅を出て家までの道のりを歩いていく。
「さすがに疲れたぁ」
家まで半分を過ぎた辺りで愚痴をこぼしてしまう。
高校生とはいえ、体力に自信がある方ではない自分が憎らしい。
「どこか休めるような場所ってあったかな?」
街の地図を頭の中に浮かべながら良さげな場所を探してみる。
「まぁあそこしかないよな」
オレは行き先を決定すると、少し重くなった足を動かして歩きだした。
「ふぅ」
オレが休憩のために来たのは、以前のあに案内を頼まれた神社だった。
そこの備え付けのベンチに腰を下ろして
空を見上げる。
太陽は今が五月だと忘れたかのように強く照りつけ、昨夜の雨によるジメジメとした不快指数を上げている。
それに嫌気がさし、視線を下げて境内を眺めると、いつの間に来ていたのか人の姿があった。
帽子を深く被っていて顔までは見れないが、スラッとしたモデルのような体型のワンピースを着た女性がいた。
「(なんか変装しているときの、のあみたいだな)」
そんなことを考えていると、女性は神社の本殿まで行き賽銭箱に小銭を入れた。
「(そういえば、ここって何のご利益あるんだ?今まで気にしたこともなかった)」
前に賽銭を入れた後、のあを発見した経緯もあるし、何かしらのご利益はあるのだろう。
そうしている内に女性はお参りを終え、オレの前を歩いていく。
「(オレもそろそろ行くか)」
そう思い女性と同じく参道を抜けようと歩き出すと、五メートルほど先にピンクのハンカチが落ちていた。
ここに来る人は以前から少ないし、今の女性が落とした可能性が高い。
「あの!すみません!!」
「………?」
オレが声を掛けると、女性は警戒したようにこちらを見た。
「これ、落としてませんか?」
オレはハンカチを拾いながら女性に近づいて行き、彼女にそれを差し出す。
女性はバックやポケットなどを探ると、やはり彼女のものだったのか、今度は笑みを浮かべつつオレの方を向いた。
帽子の下の顔は、クールな顔立ちで、大学生くらいだろうか?大人びた印象を受けた。
「ありがとう。さすがに私もこれを落とすと大変なところだったわ」
よほど大切なものだったのだろうか?女性はハンカチを受け取りながらそんなことを言った。
「大切な物だったのなら気づけて良かったです」
「大切と言うより…必要な物ね」
「???」
何が違うのか解らずにいると、女性はそれの説明としてハンカチを開いた。
というか、ハンカチですらなかった。
「…パッ……パ…ン……」
広げられたピンク色の布。
それは紛れもなく女性下着だった。
「バックに入れていたのが落ちちゃったみたい…言いづらいけど…これがないと私…何も着けてないから…」
いや…おかしいだろう!?
着けていたのが落ちても大問題なのに、最初から着けていないなんてあり得るのか!?
いや、もしかすると神職の人で神様の前では着けない決まりでもあるのかもしれない。
「あの…神職の方ですか…?」
「違うけど?」
希望が断たれた…。
というか、この人は下着を広げて説明してて恥ずかしくないのだろうか。
クールな顔には変化が見られない。
「(これが痴女ってヤツか……)」
そうやって納得するしかなかった。
「今度、お礼をしたいから連絡先を教えてくれるかな?」
「いえ結構です!!」
これ以上、関わり合ってはいけない。
断固として拒否だ。
「拒否するなら、ここでスカートをめくって悲鳴を上げるよ」
「連絡先ですね!!少々お待ちください!!」
こうしてオレは脅迫に屈して『痴女さん(名前は綾さんというらしい)』と連絡先を交換させられたのだった。
「今日は仕事でこっちに来ていたから時間がないの。お礼は次に来た時でいいかな?」
「本当にお気になさらず…」
「やっぱりここでスカートを…」
「楽しみにして待ってます!!」
大学生かと思っていたが、仕事をしているらしい。
「では失礼するよ」
そう言って綾さんは去って行った。
その後、オレが賽銭を奮発して『もう会うことがありませんように』と願ったのは言うまでもない。
-新幹線改札前-
「綾!!こっちよ」
私を呼ぶ女性の声が聞こえ、そちらを見るとマネージャーが手を振っていた。
「あなたが時間ギリギリなんて珍しいわね。おかげで焦ったわ」
「すみません。せっかくこっちまで来たので顔を見に行こうかと思いまして」
「あぁそういえば彼女、こっちにいるのよね?それでNoeRuちゃんには会えたの?」
「いえ、通っていると噂の学校には行ったんですが会えませんでした」
行った時間も遅かったために、彼女はもう下校した後だったようだ。
「それにしては嬉しそうだけど?」
「そうでしょうか?」
そんなにも顔に出ていただろうか?
「えぇクールさが売りのモデル『神代綾』にしては珍しくね」
「まぁ収穫はありましたからね」
そう言って私はスマホに表示されている、登録されたばかりの連絡先を見る。
『千坂慎弥』
「まさか、こんなところで会えるなんて」
私は帰りの道中、これからのことを思うとドキドキを抑えることが出来なかった。